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第一章8、王女様は偵察する⑧

王女様を子供のころから見ていた気のいいおじさまがやってきましたが、活躍はできません。だって王女様の話でおじさまの話ではありませんからね。

そして王女様は糸口を見つけました。

 拠点の外へと出ると、サンティ男爵の一隊が直立し、現れた私に対して戸惑いながらも、敬礼をする。ジュリオの父上であるフィリッポ・サンティ男爵が、跨っていたワリフから降り、私に対して膝をついて胸に手を当てて、一礼する。最上級の礼をする男爵に近づいた私が、男爵に声をかける。

 「おじ様、お久しぶりです」

 「・・・殿下、ここでは私を爵位でお呼びください。そうされないと、殿下が軽く見られます」

 顔も上げずに男爵が低い抑え気味の声で答える。それに私が軽く答える。

 「・・・誰も部外者は居ませんが」

 「それでもです!」

 力がこもった言葉で返した男爵の肩が、思わずと言う形で揺れた。どうやら言葉に力がこもりすぎたと思ったのだろう。肩がもう一度だけ深呼吸をするかのように動き、男爵がさらに頭を深く垂れた。一斉にザッと音がした。ちらと周りを見ると、ルカ様、そして男爵の部隊の者全員が膝間づいて、頭を垂れている。

 「・・・王族の方に、不敬を致しました。申し訳ございません。強い言葉で殿下の言葉に反論を致しましたこと、深くお詫びいたします」

 「・・・サンティ男爵、とお呼びすればよいのですか?おじ様ではなく?」

 「はい、お願いいたします」

 「ジュリオと仲良くなってから、お互いの家を行き来したときは、私を抱き上げて遊んでくれましたのに、今は私に対して膝間づかれていて、寂しいですね・・・」

 感傷的な私の言葉にも、男爵は動揺することなく、声を出す。

 「・・・あのころとは違うのです。あの頃はあなた様は、私の息子であるジュリオの幼馴染で有られました。ですが今はもう王女様として、そして伯爵になられた身です。私が礼を尽くさねばならない方なのです」

 私は膝をついて、下から男爵の顔をのぞき込んだ。日焼けした男爵は精悍な武人の顔をしている。顔にはひげはなく、容貌はどちらかと言うと中性的美男だが、異様に鋭い目つきをしている。ハーレナ地方の貴族に共通の武に強い家の典型、それがサンティ男爵だった。

 「殿下!」

 息をのむ男爵に私は下から笑いかけた。

 「謝罪は受け入れました。そして、そういう礼はもう終わっていただけませんか。私は男爵の顔を見ながら話がしたいのです。よいですか?おじ様」

 胸に置いている手を掴んだ私が立ち上がり、そのままサンティ男爵を強引に立ち上がらせた。

 「もう四年になるのですか・・・」

 「はい、殿下が王宮に行かれてから四年もたちました」

 「久しぶりですね、ようやく会えました」

 「はい、そうですね」

 そんなやり取りの後、私はサンティ男爵を見上げながら尋ねた。

 「ジュリオは何と言っていたのですか?」

 「・・・殿下が苦労しそうだから、助けてくれと。その言葉を聞いた私は、今年応募してきた志願兵を率いて、その兵士の訓練がてら、殿下の手助けをせんと、まかり越しました。アプレア伯爵に許可を得て居りますので、いかようにも我々をお使いください」

 

 嫡男であるルカ様に話した通りをサンティ男爵に依頼する。

 「さて、守備隊に知り合いは居ないのですが、殿下の文を持つというのならば、何とか説き伏せることはできそうです。ただ、殿下の大仰な行軍をしないで事を運べと言われているのが、遂行を難しくさせていますね」

 「そうなのでしょうけど、首謀者を逃したくはないのです。・・・もしかしたら、首謀者はシャレナには最初から居ないのかもしれないけれど・・・」

 私の言葉は尻すぼみになって消えた。

 男爵が顎を撫でながら、頷く。

 「まあ、私が首謀者なら、矢面に立つシャレナの街にはもう居ないでしょう。いい風に考えれば、今から町の支配者が変わると言う時なので怖いもの見たさで訪れるかもしれませんし、反対にこのようなときには安全なところで指示だけ出して、その何とかいう執政官を操ることにするかもしれません。ただどちらかと言うと、大体は操るでしょう」

 「たとえそうかもしれないけど、万が一ということもありますから。突然具合を見に来たとか、通りがかったとか、運良く滞在しているかもしれないじゃないかと思うのです」

 男爵はそう言い募る私を笑顔で見た。

 「希望ですね、殿下の希望です。そうはいかないでしょう。ですが殿下がお望みであれば、そのおっしゃる通りの布陣を致します。我々サンティ家の兵士に弱兵なく、お望みの結果を出せるでしょう。

 問題は守備隊です。守備隊は王家の直轄兵ですので、王家の持ち物ではなくなった領地からもうすぐ引き上げようとしているはずです。そういう守備隊が期待通りの動きをするとは限りません。さらには相手に取り込まれているかもしれません。そうなったら現場監督に逃げられてしまう可能性もあります」

 「その時は仕方ありません」

 「守備隊が言うことを聞かないときには、シャレナの街の包囲もままなりませんが、その時は今の装備から内陸しか守れないことをご承知ください」

 「わかりました。

 そうなんですよね。それを考えると、今の私の手勢では足りないのです。本来ならもっと内偵を進め、理想とする布陣をしてから、動きたいところなのですけど、港が作られてしまって居る今ではいつ隣国ロミルから艦隊がやってくるかわかりませんから、早急と思われているのはわかりますが、動かざるを得ないのです」


 サンティ男爵が自家の兵を率い、シャレナへと向かうのを見送ってから、私は拠点を出て、男爵とは反対の方向へと向かった。キオーネ家の騎士たちはそのまま、隠し港を見張れる場所を独自で探してがてら、港と湾の動きを見張っていてもらった。

 私とフィリアのグレコ家とティアナのカルディ家を率い、湾に沿って南下した。時間がなく、気が急くばかりでかなりの強行軍で湾の南下し、湾が内陸に切り込み川となっている場所へとたどり着く。川に沿い上流に行こうとしたところで、斥候として先を進みながら周囲を確認していたカルディ家の者が、明らかに全員が食料と飲料を背負い尾根を越えて行こうとする一行を発見した。


 『全員背負っていると?』

 報告を受けて、カルディ家の当主であるティアナの年の離れた兄ジルド・カルディは、眉を寄せたそうだ。

 『・・・怪しいな』


 「兄は報告を聞いてそう言ったそうです。本当かどうかはわかりませんが」

 そうティアナが言った。 

 「兄の周りは兄のことを好きすぎるので、時折話を盛ってしまうのです。思ってもいないことを盛られた兄はいつも火消しで苦労しています」

 「・・・可哀そう?それとも嬉しいの間違いかな?」

 そう私が返すと、ティアナの兄が顔を真っ赤にして必死に話の内容を否定している姿を想像したのか、ティアナが微笑んだ。

 「兄は嫌がっているのですけど、カルディの当主としては箔をつけないといけないといつも押し切られてしまうのですよ」

 「・・・周りの期待を一身に背負ってるのね。わかったわ、褒めておきましょう」

 私は笑顔を見せた。黒い笑顔ではなかったはずだ。


 カルディ家の者が見つけた一行の後を追うと、このあたりで一番高いサクタナ山脈のふもとから、未開の地に向かう細い道が見つけることができた。

 私は感心しながら、この細い道をたどる。残念ながら、ワリフではたどれない道なので、ミリーナに乗ることはできない。自分の足で歩けなければならない。私たちのほうが身軽なので、直に追いついてしまうだろう。隠し港に必要なものを配達している者が、自らこの港への搬入を率先して行っている者だとしたら、私は見つかる前に接近して全員を捕らえなければならないと考えていた。だが、その捕らえる方法が見つからないのだった。この道は未開の地にある道で、マデレーナではわかっている者がほぼいない。道を行けばどこに行けるのかを調べた者は、いまだいないため、先回りをすることができず、わなを仕掛けることすらできなかった。ただ開けたところを辿ってはいないため、先を行く一行には見つからないのが幸いだった。

 「・・・どうしようかな」

 私のつぶやきを捕らえたフィリアが、答えて言った。

 「お嬢様、私に任せていただけませんか?この地にも幻獣が生きているようですので、その中から言うことを聞いてくれるものに、頼めばよいと思っています」

 「・・・できるの?」

 「確約はできませんが、まず大丈夫かと」

 「・・・期待をすると外れたときにがっかりするので、あまり期待しないで待っておくわ」

 「・・・お嬢様・・・、ちょっとひどいです・・・」

 「流しておいてよ、そこは」


 随分歩いたが、先を行く一行に追い付くこともなく、一日が暮れようとしている。今までの細い道はのぼりが続いたあと、尾根を越えるようにして湾側ではなく、未開の地側に下るように続いていた。尾根を境に未開の地側はなだらかで、険しい湾側と違い歩くのはこちらのほうが楽そうだった。

 突然前を進んでいるジルド・カルディが引き返してきて、私の前で首を垂れた。

 「殿下」

 私は足を止め、ジルドに声をかけた。

 「どうしたの?」

 「先を行く一行がどうやら一夜を開けた場所で明かすようです。これ以上近づくと一行に気づかれましょう」

 「・・・」

 皆が足を止め、私がどう返答するか待っている。

 「そうね、大きく遠回りをして先に行きましょう。疲れているでしょうけど、この道は一本だけで、他には道はないと思います。ですので、道を先に辿って先に港を望めるところに行こうと思います。どうでしょうか?」

 「殿下のその案ですと、休む時間が無くなりませんか?兵は休みもなしに港に突入することになりかねませんが、よろしいのですか?」

 ジルドがそう意見を述べた。

 「休みがないままでも今回は先に進まなければならないと思います。ただ港の周囲を探るときが来ると思います、その時に探索の任についている以外の者を休めましょう」

 そういうわけで、私たちは火を燃やしている一行を見つめたまま、気づかれないように大きく迂回して一行の先へと出たのだったが、その判断が思わぬ幸を呼び寄せることになったのだった。


王女様は、考えています。おじさまと話している内容は、本当は分かっているのですが希望的観測です。言いたくなっただけです。

次は戦闘・・・と言いたいところですが、今回は戦闘は書かないようにするつもりですので、王女様が策をひねり出すところの描写だけにします。

あと、この世界の住人の大多数は異能という特技があります。侍女の異能で王女様は楽できますので、役得でしょう。次回はそういう異能の話です。

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