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第一章5、王女様は偵察する⑤

王女様は冷静さを欠くと、話し言葉が我儘令嬢のものになってしまうようです。

王女らしくないですね。自覚はないみたいです。

直していかなければ・・・

 私の婚約者は、コール・ロレダンという、優男風の侯爵子息だった。

 婚約については私は何も言うべき言葉はないのだが、婚約を告げられた時から時折、夢を見るようになった。その夢は、優しく微笑む影と見つめあっているものだった。なぜか私の心はうれしさとやさしさで満たされた。婚約を拒むような悪夢でないのが幸いだったのかもしれない。


 侯爵の子息は、私の好みとは反対の風情の男で、婚約が勝手に決められてから実際に会ったことはなかったが、私の正直な気持ちを言うならば、会う気もなかった。とはいえ、貴族に生まれたものの常として、言われれば愛などなくても嫁ぐ気でいるのは確かだ。

 婚約や結婚について、私自身は政略結婚となるだろうと思っていた。ただできれば私の好みに合う男性と結婚できたら良いなとは考えていた。私の好みは、養父のように軍隊の先頭に立って戦う軍人だった。幼いときは結婚相手が私の養父と同じ容姿をしていて欲しいと、本気で願ったものだった。成長してからは養父のような男性がいるはずはないと、自分の幼さから来た願望を捨て去り、政略結婚で婚約話を持ってきた相手と養父が認めればだが、嫌が応なしに嫁げばよいと思っていた。先ほどの好みに合う男というのは、あくまでも願望であって、まったくのところことごとく好みとかけ離れていたとしても、私はお飾りでも妻として生きれれば好みについては考慮していなかた。しかし立場が変わってしまった。伯爵家の次女としてではなく、王家の王女として生きなければならなくなった私は、自分の意志ではない立場の激変に戸惑うとともに怒りを覚えていたので、婚約者に非はないのにもかかわらず、理不尽な怒りを覚えていたのだった。そのために私はその怒りのためにささやかな抵抗をしていた。抵抗と考えていた私は婚約者を避けていて、さらには彼が私の好みではないことから顔見せを自分から申し入れることはなかったのだった。私はその付けを払わなければならない羽目に陥ったのだった。


 国王に婚約者と会うことを義務付けられた私は、嫌なことを押し付けられたと思わざるを得なかった。婚約者の父親である侯爵自ら、私に会わせてほしいと国王に直訴したのかもしれない。私の好みに合わない容姿の侯爵令息に興味がないのが、相手にわかってしまっているとしたら、怒りで婚約を破棄してくるのではないだろうか。そうなれば国王がはっきりと明言したように、婚約者と会わなければ伯爵位をもらえないかもしれないし、領地の話もなくなってしまうかもしれない。内心、私は頭を抱えた。

 「そういうわけだから」

 何がそういうわけなんだ!心の中で私は毒づく。

 「婚約者と会う日を決めたのなら私に日取りを決めたら教えてくれないか」

 「日取りを決めたら、よいのですね?」

 「そうだ」

 国王は私に手を振って合図した。

 「それでは、陛下、日取りが決まり次第、ご案内させていただきます」

 「頼むぞ、下がってよい」

 私は無言で頭を上げ、国王の私室を退室した。


 私は退室をした先すぐにジュリオに命を出した。侯爵と連絡をして、会う日の算段をつけてもらおうとしたのだが、ジュリオが相手と連絡を取ったところ、侯爵の令息殿は日延べをしてほしいと言い出したらしい。会う日について、私は近日中ならいつでも良いと言ったのだが、侯爵側からの返答は子息殿は領地に居るために近日中には会えない、近日中では領地から戻るのも時間がかかるために、都合がつかないと言ってきたのだった。さらには日にちの提案もされたのだが、その日にちは、今度は私が領地に向かおうと考えている日にちの後になるため、結局折り合いがつかなかった。

 「あら、そう?ずいぶん急いで私と会おうと言い出した割に、私が会おうとしたら途端に会いたくないなんて言い出したのね」

 私は先方の言葉に気分を害して、嫌味をつい言ってしまった。侯爵の返答を伝えに来た侯爵家の侍従が悪いわけではなかったのだが、ジュリオからそう伝えられた時はさすがに会う気になったというのにと、思わないわけではなかったのだ。

 「・・・お嬢様、嫌味ですよ、その言い方は。先方には先方の事情があるのでしょう。もっとおおらかなお気持ちで・・・」

 「わかった、わかったから。お説教はもうたくさんよ」

 ジュリオの気持ちも分かったのだが、私自身不快な気持ちが増していたので、思わずジュリオの言葉を遮ってしまった。ジュリオは侍従らしく口を開くことなく沈黙したが、内心いい気持にはなっていないのだろう、私を見る目に表情がない。

 「・・・」

 私は急いでジュリオに取り繕うように命を出す。

 「そんなことよりも、ジュリオ、侯爵家のご子息殿に会うまで領地に行けないとか言い出さないように、国王に連絡をしてくれない?時間が経てば経つほど、隣国の影響力が増すかもしれないから、今すぐ領地に立ちたいと思っていると伝えて。私は証拠を押さえて、隣国の影響力を削ぎたいの」

 婚約者殿に会うことよりも大事なことだと、私は言葉を急いだ。

 「わかりました。今すぐに陛下の側用人に私的に会えるようにと、申し入れましょう」

 「頼んだわよ。北の海に軍港が持てるかどうかがかかっているんだからね」

 私が何気なく声に出すと、その場の皆は固まった。

 「軍港・・・ですか?」

 「そうよ。せっかく作ったものを取り壊すなんてもったいないじゃない。軍港として整備して使うつもりなのよ」

 「そ、そうですか」

 私は、顔を見合わせる皆の中から平気な顔で控えているエリルを振り向く。

 「エリル、お願いがあるの」

 「何なりと」

 私の言葉に答えてエリルが一礼する。

 「マッテオに連絡して、シャレナの街の郊外のわかりにくいところに私たちが潜むところを用意してと伝えて」

 私がそういってもエリルの表情は変わらない。

 「わが父に伝えます。すぐ立ちますか?」

 「ええ、あなたの家の動けるものは皆連れて行って。まずは捜索のための拠点を用意することを優先してほしいと」

 「かしこまりました。他に伝えることはございますか?」

 「くれぐれも町の者に悟られないようにと伝えて」

 「父に伝えます」

 「エリルはマッテオと一緒に言ってはダメよ、私のそばに戻ってきて。連絡係が居ないと困るから」

 「仰せのままに」

 エリルが再度一礼して、部屋を出ていく。

 「次に、ティアナにもお願いするわね」

 「何なりと」

 ティアナが一礼する。

 「ティアナは私と同じ格好をしてもらおうと思う。攪乱したいのよ」

 「かしこまりました」

 ティアナが頭を下げると、私はフィリアを振り向いた。

 「フィリアは、ティアナの側にいて。王女の側には侍女がいつも付いてるものよね」

 「かしこまりました」

 フィリアも一礼する。

 「・・・俺は?」

 扉近くに立ったまま、フラヴィオが興味深そうに尋ねてくる。

 「・・・フラヴィオはいつも通りでしょう?」

 「俺には特別なことは何もなしか」

 「当たり前。あなたは護衛じゃないの、勝手に動けると思ってたの?」

 「そ、りゃ、そうだが・・・」

 「活躍なんて、フラヴィオにはないわよ。私の側に立っていて、周りを威圧することぐらいしか仕事はないわ」

 目に見えてフラヴィオの肩が落ちた。その姿を横目にジュリオが尋ねる。

 「護衛騎士隊には伝えるのですか?」

 「伝えないわ。私のことを知らない人が多いほうが情報は漏れにくいしね、だから騎士サマには私の抜け殻を守っていてもらうわ」

 「そういうことならティアナは留守番ということになりそうですか?」敢えてということだろう、ジュリオが確認の声を上げた。

 「いえ、ティアナには私の身代わりをしてもらってから、抜け出してもらって、私のそばに来てほしいのよ。ティアナの家を動かすつもりだから、連絡役が欲しいわけ」

 「お嬢様の言われることなのでしたら、私の家も呼んでおいたほうがよさそうですね」

 私の言葉にフィリアが考えながら言ったので、私は頷いた。

 「フィリアの家は私たちの周りを固めて欲しいからね、もちろん来てもらうわ」

 エリルが居なくなっていたが後で伝えることにした。そう考えて、私は私の幼馴染の仲間を見回した。

 「まず私は、隠れ蓑としてね、今度入学する学園に行くと偽ることにしたわ。その途中で変装してダグナに行くつもり。

 ティアナは私の侍女の格好をして、幻獣車に私と一緒に乗ってね。私は途中でティアナと入れ替わるから、ティアナは学園まで行ってちょうだい。学園には離れが私の生活の場所として用意されていると言うわ。そこに私として入ってから、頃合いを見て私の後を追いかけてきて。

 王宮の侍女の半分が付いてくるというから、その中でも口の堅いものを一人身代わりとしてきてね。あと身代わりの侍女の世話をする者も厳選して。学園についた私は調子を崩して気分がすぐれないということにして、部屋から出ないつもり。少し安直だけど、案外ばれないと思うわ。

 ただ問題は短期間に見つけ出せるかだけど」

 私は頬へ指を当てて考えながら言った。

 「行ってみないことにはわからないでしょう?」

 不安そうな顔をしていたのかもしれない。ジュリオがゆっくりと言う。

 その言葉に私は、一度頭を振り、笑顔になれた。

 「それもそうね。

 じゃあ、ジュリオもティアナもフィリアも私の言ったとおりにして。領地に出かけましょう」

 「かしこまりました」

 頭を下げる3人から目をフラヴィオに向ける。

 「あ、フラヴィオは私と荷造りするわよ」

 「一番やりたくない仕事だな、それ」

 「エリルが戻るまで、キリキリ働いてもらいますからね」

 こうして私はなんとか王宮を出て、領地であるダグナ半島に向かったのだった。


ようやく次話で王女様が偵察に出かけます。

ちょっと領地に出向くまでが長くなりすぎたかなと思いますが、この章は登場人物紹介も兼ねております。ご了承ください。

以前婚約までには至らなかったけれど、子供の時分に将来を誓った子のことの描写が抜けておりましたので、加筆しました。

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