第一章4、王女様は偵察する④
時間が取れなくて週に一度の投稿しかできません。
なので、これから週一の投稿をしようと思います。
曜日は土曜か日曜の夜です。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
私は国王に面会を求めることにした。
「ようやく私に会う気になったのか!」
私はジト目で国王を見た。
「・・・陛下、ご機嫌麗しゅう存じます・・・」
「なんだか、語尾が空中に消えていったぞ」
「・・・気のせいです・・・、陛下」
危なかった、もう少しで敬称を付け忘れるところだった。
「・・・やめよ、そなたのそのジト目、見たくないわ」
「・・・変なことを言われるからですよ、特に私が聞きたくない言葉を言われるので、私としてはそういう反応しかできません」
国王が固まった気配を察して、傍らに控えるジュリオが思わずという感じで天を仰いでいた。
仕方ないじゃない、私、この人好きじゃないんだもの!そりゃあこうやって並べば、親娘とわかるけどさ、この人は私からあなたたち幼馴染と私の尊敬する養父と養母、そして義兄二人と義姉を奪ったんだよ!私はあの伯爵家で暮らしていて、それはそれは幸せだったし。それで私が誘拐されそうになった時まで何もしなかった人で、父様と母様に養わせておいたくせに、突然横から父親ですとしゃしゃり出てきて、私を引き取るのを王命とかで出すような人だよ!私は許してないんだからね、領地もらっただけで、それが消えてなくなるわけじゃないから!
でも領地はありがたいな、私の夢に向けてお金を儲けておかないといけないしね。領地のことだけで、認めたから会いに来たんだよ。それがなかったら、会いに来ることなんか考えないって!
私の心を機敏に察したのか、国王は少し私から身を引く。
「・・・」
私が見返すと、姿勢を正すかのように背を伸ばし、咳払いをした。私がようやく視線を国王から外すと、国王は明らかにほっとした表情になった。だが私が先ほどの言葉を撤回しないとみると、苦虫をかみつぶしたかのような表情になった。
「私に会いに来たのだろう?」
気を取り直すように国王が聞く。
「その通りです」
「だったら、私を刺すような目で見るのをやめろ。
確かにそなたの意思を確認することなく、王女として立てたのは、私だ。だが、辺境伯の領地でのそなたの名が高まるにつれ、私に似た姿だと、噂になっておったのは本当のことだった。辺境伯の家が安全だろうと思っておったのだが、そうではなくなってしまったのだ。誘拐未遂が発端となったのは事実だが、伯爵家の令嬢と王女では警備の人数も違う。令嬢のままではそなたを守れないと考えたからこその王命だ。それについてとやかく言われるのは願い下げだ」
・・・ちょっといじめすぎたかな。一応国王だし、あまりやりすぎるとこれからするお願いを聞いてくれなくなるかもしれない。
「陛下の判断について、わたくしがとやかく言うはずはございません。陛下の判断は正しかったのでございましょう。
ただわたくしにどうしたいかをご確認いただきたかったのです。それがないことがわたくしの心にわだかまりを生んでいるのでございます」
私は国王に頭を下げる。
国王が渋い顔をしているのが見て取れた。
「さ、陛下、そんなことよりも、陛下の娘として、わたくしエミュリアから陛下にお願いがあるのでございます」
「願い?」
「さようでございます。以前陛下より賜りました領地について、でございます」
国王が眉を寄せている。
「どういうことだ?申せ」
「・・・その前に、ここは部外者に会話が聞かれるということはございますか?」
私たちがいるのは、国王の執務室ではない。国王の私室の一つだった。面会を申し入れたところ、その日のうちに返答が来て、執務の合間を縫って会おうと時間と場所を指定された。私とジュリオ、そして護衛役のフラヴィオと、今日は侍女としてエリルが私と共にきて、面会が始まると同時に壁側に控えてくれていた。ジュリオは心持ち前に出ているが。
「ない」
国王の答えは簡素だった。
そう答えてから、国王は傍らに控える、側用人をちらと見た。
「彼を警戒しているのか?」
「・・・はい」
「彼は私の側用人のフェデリコ・マスペロだ。彼が会話を漏らすことは万に一つもない」
「・・・裏切ることはないと?」
「・・・いうことの意味がわからんが、そんなに警戒しなければならないことなのか?そなた、わたしに何をさせようとしている?領地が気に食わんから、替えろと言うつもりじゃなかろうな?そんなわがままなことは許さない
一気に言う国王の言葉に、私は軽く首を振っていた。
「いいえ、違います。私に賜った領地に反逆の疑いがあります」
「反逆・・・だと・・・」
空気が一気に重くなった。
国王は瞬間硬直したが、すぐに我に返り、傍らの側用人を振り向いた。こういうところはこの国王がまだ衰えていないということなのだろう。
「フェデリコ、騎士たちに命じろ。命は、まず、この周りを確認せよ、だ。確認出来たら、そのままここに誰も来させず、この周りを固めさせろ。お前は騎士たちにここを固めさせたら、戻ってこい。よいか、わけを聞かれても王の気まぐれだと、そう言え」
「かしこまりました」
さほど慌てた様子もなく、一礼し、側用人は出て行った。
「フェデリコが戻るまで、話はせんぞ、よいな」
「かしこまりました」
「さてと、これで話せるか」しばらくしたのちに側用人が戻り、命の通りに騎士たちが配置されたと報告されてから、国王が椅子に座った。「事の次第を話せ」
私はジュリオを見た。頷いたジュリオが私が口を開く前に、例の報告書を手渡した。
「わたくしは反逆の疑いがあると先ほど申し上げましたが、確証があるわけではありません」
私が報告書を受け取ってからそう切り出すと、国王が探るように私を見た。
「確証は必要だ。それによって反逆なのかの判断をする」
「そうですか・・・。まあそうでしょう、そう仰ると思いました」
実際のところ、どちらでもよいことだった。私の望みはこのまま、国王から領地に赴く許可をとることなのだから。
「こちらをご覧ください」私は国王に報告書を差し出した。受け取るのを待ち、言葉をつづける。「この報告書は執政官から出されたものです。おかしいところはありませんか?」
「・・・」
国王はしばらく見てから、おもむろに口を開いた。
「入港数がほとんど一緒だな。他では季節ごとに数が変わる船舶が、この港ではほぼ一定数が入港しているということになるな。本当なら予測が立てやすくいい港ということだな」
国王の言葉は皮肉っぽく響いた。
「わたくしたちはこの数字が変わらないところがおかしいと感じました。陛下もそう思われたようですね」
「・・・何が言いたい?」
探る目つきで国王が私を見た。
私は息を吸い込んだ。息を吐き出しながら、一気に私の予想を話す。
「わたくしは、どこかに港を秘密裏に作っており、それで町に入港する船舶の入港税の上前を撥ねているのではないかと考えました」
「それで、入港数が変わらぬと?」
「はい」
「たまたま船舶が変わらなかっただけかもしれぬぞ」
私は国王の顔を長々と見つめた。そのあとおもむろに口を開く。
「そんな都合の良いことがあの港町のシャレナに起こりますか?それを信じられたのであれば、陛下、もう後継者をお決めになられたほうが良いのではありませんか?」
不愉快な表情で国王が口をゆがめるようにする。
「さらっと毒を吐くな、きかん気が強いな。まったく誰に似たのだ」
私はそのつぶやきを無視した。いちいち反応していては、相手の調子に巻き込まれる。
「人の話を聞く気がありますか?」
私に言葉に嫌々ながらという風情で、国王が頷く。
「わかった、わかった。真面目に話そう」
「では、もう一度言いましょう。
港を別の場所に作ったのではないかと考えています」
私は国王を見つめた。国王が私を見返して答えた。
「確かにその可能性はある。だが可能性だけだ。秘密裏に造るのなら証拠が必要だ」と、国王は真面目な表情をして考えているらしく、うつむき加減になっていた。額を指でゆっくりと叩いている。
「証拠は前に申しましたように、ございません。
ただ、シャレナという港町は、未開の地を超えて、ジャナラス国を通過してフレイム国に行くには、どうしても立ち寄りたい港だと思います。シャレナで食料と飲料を積んでから、フレイム国へ向かうのが常でしょう。そうしなければ、ジャナラス国の沿岸部に船をつけて、現地の民に見つからにように飲料を積まなければならなくなります。そんな危険を冒すとは到底思えないのです」
「そなたの言う通りなのだが、証拠なければ弱いな。証拠なきときに、たとえ王命を出したとしても執政官を取り調べはできん」
国王がつぶやく。
「はい、陛下の言われる通りです。弱いのですが、船舶が寄港する港が隣国の援助で作られたのだとしたら?」
「・・・まさか」
国王が遠い目をして言った。どうも現実ではないと言いたげな表情になっている。
「可能性です、陛下。仮定でお考え下さい」
しばらく黙っていた国王だったが、重いため息とともに言葉を吐き出した。
「そこから、隣国の艦隊が攻めるだろうな」
私は、国王の言葉に頷く。
「そうなるのではないかと考えました」
「それで反逆を考えた、か。・・・ありえないことではない、というだな」
国王が手に持っていた報告書を、放り投げるようにして、机に置いた。
「王命を出して探させるべきか・・・?」
私はまだ話を終えるつもりはない。
「陛下、王命を下す前に、私の提案をお聞きくださいませんか?」
「提案とは?」
「わたくしがどこかにある港を探そうと思います」
私が提案した後、にこりとしたのだが、国王は私の笑顔を穴のあくほど見つめる。
「なぜだ?なぜ、そなたが探す?」
私は深呼吸した。この次の言葉に私が外に出られるかどうかがかかっている。
「わたくしはなったばかりですが、領地の主です。主であるわたくしが領地を管理するのが当然なのではありませんか?なので、わたくしが領地に赴いて調べます」
「許さん」
国王の言葉は簡素だった。
「どうしてですか?」
「そなたは名目だけの領主だ、そなたの領地の管理は王家がする」
私は瞬間やはりと思いイラっとしたが、かろうじて表情を取り繕うと、
「わたくしを、伯爵位につけたのではありませんか?わたくしが領地に行くのが、そんなに認められないことなのですか?」と訴えかけるように言う。
国王は不愉快そうに眉をしかめている。
「何と言おうと、そなたは伯爵の前に、マデレーナの王女だ。その王女が護衛をつけることなく疑惑のある領地に行こうとしている。許可できるか」
国王の言葉に私は内心ほくそ笑んだ。
「護衛が居ればよいのですね?」
私がそういうと、国王はフラヴィオをちらりと見た。
「一人や二人ではだめだ!そこにいる護衛が相当優秀なのは知っているが、王女は別だ。護衛が一人程度では安全とは言えん」
手を振って私の意見を退けようとしている。
「では、わたくしの専属侍女たちの実家を、わたくし付きにしてください。今はハーレナ地方の貴族付き。そういうことなら、ハーレナ地方の騎士家は爵位付き貴族の寄子扱いなので、王命で彼女たちの家をわたくし付きに替えてくだされば済むこと」
国王は考える素振りも見せず、答えた。
「替えるのはたやすいが、替えたとしてもたかだか数十人、それでは王女を守るだけで終わるのではないか?隠された港など、探すことなどできはしまい」
正直なところ、国王はずいぶん粘る。どうしてそんなに私を行かせたくないのだろうか。だが、伯爵としての成果を得て、現地で領地経営をするためには何としてでも、国王が頷かなければならない。私は必死に言葉をつづけた。
「それならばですが、わたくしの侍従と護衛には男爵位があります。彼らによると、その男爵の方は協力してもよいと言っておられるようです。そのため、わたくしはこの件が無事終了した暁には、協力していただいた方々の内、貴族位以外の方々には、望むなら伯爵家に仕える騎士位を授けようかと思っております。さらには貴族家の方々の内、相続人ではない方に協力いただけたなら、こちらも望むなら、国王に貴族家を興すことを認めてもらうために奏上しようと思います。わたくしの奏上であれば、国王も無下にはなさるまいと思っておりますが、いかがでしょうか」
私の言葉に国王はさらに苦虫をかみつぶした顔になっていた。
「・・・まことに言い出したら聞かん娘よな、そなた・・・」
私は国王の許可を得ることができたと思った。苦渋の判断をしたという風情で国王が不承不承頷いた。
「わかった、伯爵として領地へ行くことを許そう」
思わず、私は国王に礼をする。裾を軽く持ち上げて頭を下げる。
「陛下、ありがとうございます」
「だがな、まだ足りんな」
にやりと国王が笑った。
「・・・?」
「そなたの婚約者と顔見せをするのであれば、そなたが領地に行くのを許そう」
「・・・」
「そなたの婚約者は侯爵家の跡取りだ。私の言い出したことだが、侯爵家は殊の外乗り気でな、嫡男と是非嫁とわせたいと、そう言ってきていたのだが、そなた、なんだかんだと言って会おうともしておらぬようだな。侯爵家から王家の不義理についての問い合わせがきておってな、私としても言い逃れができなくなっておるのだ。顔見せをするのであれば、伯爵位を安泰とするが、そうしないのであれば、爵位はなかったものと思え。よいな」
穴が足元に空いて、そこに落ちていくかのような気がした。
王女様は国王の掌の上で転がされているようです。
でも王宮から出られれば良いのです。領地で実績を積んで、自立を図るつもりですが、国王が何かと邪魔してきそうですね。
続きはまた次の週にでも。よろしくお願いいたします。