第一章3、王女様は偵察する③
仕事関係で時間が思うように取れず、書くのが遅くなりました。
申し訳ありません。
王女様は、王宮の生活を窮屈に感じているようです。
「そうか、それが私の違和感だったのね」
私はエリルの言葉にようやく頷くことができた。なるほどねえ、これで解決・・・。あっ!
「・・・違和感が分かって満足しようとしてしまったわ」
「・・・」
皆が苦笑いをしている。
私が今調べようとしている領地は、国王が私に下賜してきた、元々は王家の直轄地だった。どうしてだかわからないが、領地に王家の行政官は居らず、隣の領地の貴族の家臣の一人が、執政官として派遣されていた。私は、自身で領地経営をするべきか任せるべきか迷い、まずどういう経営がされているのかを確認しようとして、その執政官から報告書を提出してもらった。しかし私は報告書を見た瞬間違和感を持った。何か騙されているような感じがしたのだった。違和感はどこから来たのか、わからなかった。
「以前の記録があったとしても、入港数が本当にそうだったと言われれば、確認のしようもないわけですよね」
ジュリオは興味深げに報告書の数字を確かめている。
実際のところ、入港数の誤魔化しはしていなさそうだった。最もそんな誤魔化しなど報告書の数字にした時点ですぐにわかってしまうだろうが。
「そうね、ただ、報告書自体には改ざんしたということはなさそうよ。例えば入港数を調べるなら、土地の者から聞き出して、数の突合せをすればわかってしまうと思う。そんな簡単なことをするだろうか?と私は思うのね」
私はジュリオの持つ報告書を指さして言った。
「小物が一人でやっているわけではないということでしょうか」
フィリアが横から報告書をのぞき込む。
「多分、執政官の派遣元の貴族もグルなのでは?」
そうエリルが言う。
「そうねえ、そう考えるのが正しいのかな」
エリルの言葉に、私は頷く。
「でも入港税を途中で値上げしたわけでもない。入港した数を弄れば、実数との乖離でばれやすい。どうやって不正をする?その方法は?」
フラヴィオが腕を組んで首をかしげる。
「・・・確信があるわけではないのだけれど、私はどこか別の場所に船舶を引き込んでいると思うわ。それはマデレーナにはわからない。別の港に誘導しているのかもね」
私はしばらく考えてから口を開いた。
「お隣の国でしょうか?」
そう私を見てティアナがつぶやく。
今回私が下賜された領地は、そんな中の悪い国と国境が接しているわけではないが、船に乗って東風に逆らって進めば、隣の国に行くことができる。最近は戦端を開いたことはないのだが、最近のマデレーナは徴兵制を止め、志願兵へと移行したため、領土を掠め取るには好都合と考えている節がある。常設軍の有利性について、徴兵制をとっている国々は認識が甘く、士気が落ちるため、質が低いと思うらしく、最近は周辺国の動きが活発になっている。常設軍の動向を知ろうと、情報員が色々と探りを入れて来ているらしいことを、王宮の者が噂しているのが私の耳に入ってくるぐらいなのだ。ただ国王や重臣たちの意見としては、常設軍の質がよいと思わせたほうが、侵略の抑止になってくるため、好都合という認識だった。私としては、常設軍の情報は遮断できるなら遮断して、情報を渡さずに常設軍が得体のしれない存在として抑止として使用できないかと考えている。ただ、抑止として使うには常設軍の一部をどこかで周辺に知らしめたほうが良いのではないかと思っていた。相手が警戒して迂闊に動けない状態にするには、まず比較対象が必要なのではないか。そのために一度周辺国のどこかと小競り合いがして、それを常設軍で制圧できれば比較対象になるのではないかと、私は考えたのだ。
別の思考に沈みそうになった私は、首を軽く振ってから一度ティアナを見た。
「確かに貴族が一枚かんでいるよりも隣の国のほうが可能性が大きいと思う・・・。だけど、隣の国の動きに変化はないから、どうしてなんだろう・・・・・・」
「港を作るなど、貴族が全額負担できるのでしょうか?」
私は机についてものを考え始めると、いつも頬杖をついてしまう悪癖がある。今もそれが出ていたようで、ジュリオがそんな私の手を頬からゆっくりと外して質問をする。多分、ジュリオは本当は小言を言いたかったに違いない。目が少しだけ怒っていた。
「お嬢様、肌に跡が残りますよ」
だが私はジュリオの様子に訳が分からない状態でいぶかしげにジュリオを見ながら、考え始める。
「負担?負担か・・・」
「・・・」
私の様子に、ジュリオは少しだけ肩を落としたが、気を取り直すように言う。
「外洋船を泊められる港ならそれなりの規模を必要とするでしょう。相当な金持ちでも手元にある資金で港を作り上げられるとは思えません。なので金を借りることになると思います。借り入れという負担が重くなるでしょう。ただ国に内緒の港を作るのですから国内の商人からは借入できませんでしょうね」
「そうね、ジュリオの言う通りだと思うわ」
そうティアナが頷く。
「大っぴらにできない金が融通されたと考えるのが普通かと思います」
ジュリオがそういったところで、フィリアが顔をしかめた。
「そういう犯罪組織がマデレーナにもあるの?」
「あるでしょうね、ただマデレーナでは表立っては動けないから、知る人も少ない」
ジュリオの言葉にフィリアが目をむいた。
「信じられない・・・」
「フィリアは正義感強いからねえ、そういう世界があること自体考えられないんだよね」と、楽しそうな表情のエリルが、フィリアの頭を優しくなでる。
「でもね、世の中、いい考えの人ばかりじゃないんだよ」
私は二人を見ながら、顎に手を当ててうわの空で言った。
「表に出せない金があるとしたら、犯罪組織か王家の物でしょう」
「お、お嬢様!」
慌てたティアナが慌てて周りを見回す。
「不敬です!誰かが聞いていたら!」
「安心して。国王批判じゃないし、他の王族を批判したわけでもないよ」
「お嬢様を排除しようとしている者もいると聞いております。あまり口に出してはよくないとは思います」
ジュリオがそう言ってきたため、私は肩をすくめた。
「私は、王女なんて柄じゃないのよ。不敬だと臣に落とされても別にいいと思ってる」
「だめですよ、ここにいる私たちはお嬢様の暴走を止められなかった責任を取らされます。私たちは死罪か、遠国へ追放か、永久に牢につながれたままとなるか、です」
穏やかだが、私を見据えて目を離そうともしないジュリオに私が溜息をついて、目をそらした。
「わかったわ、もう言わない。でも王家ぐらいしかそんな資金を持ってるところがないじゃない?違う?」
「他国の資金じゃないでしょうかねえ」
ぐるりと私が見まわす。エリルが答えた。
「・・・」
「お嬢様ももう気が付いていると思いますけど、王家が自国を不利に追い込むわけはないですし」
「どういうこと?」と、フィリア。「教えて。論理よく考えるの、ちょっと苦手」
「この国に橋頭保を作られてしまえば、領土を削られて王家の信がなくなる。今は国王が負けていないから民が王家を支持してくれているけど、負けるなら王家をすげ変えようとする動きも出てくるかもしれない。なんせマデレーナはちょっと前まで徴兵制で、徴兵される民は兵士として戦いに出てきてた。戦いを知っている民が蜂起すれば、国がたちいかなくなるかもしれない。橋頭保を作られて国が弱まれば、王家は支持を失うだろうから王家の者が、資金を出すとは考えられないということね。お嬢様はそういうことを考えておられるのよ」
「・・・わ、私には無理だわ・・・。考えもつかない」
「裏を読むとこうなるのかな」
「解説ありがとう、エリル。じゃあ、犯罪組織が資金援助したのかな?」
私が問うと、皆がエリルを見た。
「私は犯罪組織説も違うと思いますよ」
「・・・どうしてよ?」
フィリアが尋ねる。
「犯罪組織は、戦争で儲けることはできないからが理由。国が安定したほうが稼げる」
「ちょっと待って!武器の供給とかは?それなら犯罪組織が稼げるでしょ?」
「一時的には儲かるかもね」
「じゃあ・・・」
「でも一時的にだよ、恒久的に儲かるというわけじゃない。マデレーナには皆兵士制があって、皆が兵士として訓練されてる。武器も行き渡ってる。そんな国に武器を入れても利益が出る?武器を民が持っていない国なら、武器は立派な商売品だけど、当たり前のように国中に武器がある国に、武器を輸入しても買い叩かれるだけだよ」
「そうか・・・」
私たちは会話しているエリルとフィリアを黙って見ている。フィリアは駆け引きが苦手のようで、なかなか分かっていない感じだ。
「エリルの言うことに納得した?フィリア」
「はい、お嬢様」
「じゃあ、資金援助したのは?フィリア」
「・・・えっ?・・・、えっ?ええっ?」
「・・・」
「わ、私が答えるの?」
「ええ」
「・・・」必死に考えるフィリア。「・・・ひょっとして、隣国・・・?」
「ひょっとしなくても隣国で合ってるよ」
「・・・よかった・・・」
「可能性が高いのは、隣国が国内の貴族に資金援助して、港を作らせたということだと思うけど、貴族には利益のことしか言っていないのではないかなと思う。ただ隣国の目的はマデレーナ侵略の足掛かりとして港を秘密裏に作るのが目的だろう」
「その貴族、どうされるおつもりですか?」
「隣国の資金を引き入れた時点で、隣国に弱みを握られたわけだから、操るのは容易になってると思うのよね」私はにこりと笑った。「取りつぶして、直轄地にするのがいいのではないかな。領主は処分する」
「目が笑っていませんが」と、ジュリオが前置きをして、咳払いをして続けた。「それを第四王女ができるのですか?」
「そこよねえ、問題は」と私。
「考えてなかったのですか?」
「考えたんだけどねえ、解決法が見つからなかったのよね、国王に話すぐらいしかね」
私の言葉にジュリオが額を押さえた。
「結局、国王陛下頼みですか」
「仕方ないのよ、私には手足として使える臣が少ないから。調査員を用意しようにも、人が居ないから、調べられない。人を借りようにもねえ」
「証拠はないから人を借りられない、人を借りるとくだんの貴族にもばれる恐れもある、と」
「そうなのよ」
「それで?」
「・・・それでとは?」
皆が私とジュリオの会話を固唾をのんで聞いている。
「国王陛下に話した先のことは?」
「・・・私も一応領地に行って調べたいな、と思うのよ」
なるべく時間を見つけて書いているのですが、書くのが遅くて申し訳ありません。
次回は王女様が父親の国王を動かして、王宮を抜け出すのですが、国王は王女を心配して禁止しようとしてきます。それに婚約させたいので、婚約者との顔見せを無理にねじ込んできます。
王女様は結局受けざるを得なくなって顔見せになります。そういう構想を持っています。