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翼の証明Ⅱ ~黄昏の星~  作者: ニンジン
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■第18話:安らかなる眠りに ~ a requiem ~

はたして-。レイアを守ろうと犠牲となったダンテの行為を、星の運命を司る神は『愛』と認めたのか。自らの誇りにかけて最期まで自我を失わなかったギリー、命をかけて悪を倒したテオはどうだろうか。だが、この物語でいう『愛』とは、決して人間がもつことが許されないものである。

かつて存在した漆黒の翼は、『愛』に最も近づいた者であった。体を天に預け、言葉をもたない黒鳥となり、星とひとつとなる。そのとき彼は自らの人生をどのように終わらせるか選択したに過ぎない。彼はそうすることで、これまで人間として生きてきた証を見出したのだ。その証こそが唯一『愛』と呼べるものであったのかもしれない。だが、この星に生きるものにとって、その答えはまだみつかっていない。


夜明け-。広場にはおびただしい数の死体が横たわっていた。その大半がネクロマンシーを中心としたアカデメシア研究員の死体であったが、その中に、ひと際大きなガオン族、テオの死体もあった。屋上で倒れた同じガオン族のギリーの死体は、倒壊した塔に埋もれてしまっていた。生き残ったリヨン、トマス、ミトラ、ジル、アポロ、ゴン、ウル達は、気を失ったままのルクセンと、無残な姿となったテオを担いで、レイアと一緒に路地帯の家まで戻り、弔いの準備を行った。

ジルは、テオこそが唯一の肉親であった真実を知り、また同時にそれを永遠に失ってしまったことで、皆の前では気丈に振る舞っているものの、抑えきれない複雑な感情を抱え、虚ろな顔をしていた。レイアの方も、まだ父親が亡くなった事実を受け止めきれていないようで、心を悲しみが包んでいた。

レイア 「パパはもう高齢だったけど、こんな形で死ぬなんてひどいわ・・・。うう・・・。」 レイアは住み慣れた家に戻り、あらためて涙を流した。

ジル 「レイア、アカデメシアの親玉はテオがやっつけたから、もうあなたを襲う者は残っていないわ・・・。そう、何も残っていないのよ・・・。」

レイア 「パパはもう戻ってこないのよね・・・。」

レイアの言葉を聞いたジルも返す言葉をみつけられず、2人とも黙ってしまった。その姿を見ていた他の者達も、ひどく落ち込む2人に声をかけることができなかった。

しばらくの間、静寂があたりを包む。

アポロ 「おや、客のようだぞ?」 アポロは外の気配に気がつき、警戒して銃を握った。

家の入り口に、ひと際大きな体の影が差し、野太い男の声がした。

男の声 「ガオン族が担ぎ込まれたというのはここか。誰かいるか?」

ジル 「その声はランド?」

ランド 「おお、ジルか?探したぞ、街の広場の方はアカデメシアの死体だらけだし、何があったというのだ?酋長は?」

ランドはテオにミロス村を任されたものの、やはり酋長であるテオの身が心配になってブレメンまで追いかけてきたのだ。

ジル 「・・・。」 ジルは何と言ってよいかわからない顔でテオの死体の方を見つめた。

ランド 「!?そ、そっちに横たわっているのは、まさか酋長なのか?一体どういうことなんだ!?」

ジルは全く状況がわからないランドに一部始終を語った。ジルがブレメンに着いてから、アカデメシアに捕まり、ここにいる者達とともにアカデメシアと闘ったこと。テオとギリーが命を懸けて悪の親玉を倒したこと、それらを細かく説明したのだった。

ランド 「な、なんと・・・。信じられん!酋長とギリーが・・・!?やはりカデメシアは悪党の集団だったか!」

ランドは酋長を失ったことに仰天し、悲しみと同時にアカデメシアに対する怒りをあらわにした。

アポロ 「こんなタイミングで申し訳ないが、2人に話がある。」 アポロとゴン、そしてウルの3人が、ジルとランドに話しかけた。

ランド 「む、リース族か?その銃はさては・・・。」

ゴン 「知っているだろうが俺達は南アッシュランドを縄張りにしているアモリス団だ。俺が団長代理のゴン、隣にいるウルが参謀、そしてそっちが次期団長のアポロだ。ジルとランドといったな?ミロス村のガオン族にちょっかいを出していたのはアカデメシアの一部の過激派の仕業だった。我々アモリスではない。」

ウル 「そして、我々アモリス団を襲ったのもアカデメシアだった。このことはアモリスの皆に知らせる。そして今後、ガオン族とは決して争わないと約束する。だから、争いはやめにしてくれないだろうか。」

アポロ 「ガオン族を疑ってすまなかった。お前達の酋長は本当に勇敢な男だった。」

アモリス団の幹部である3人はガオン族の2人に深々と頭を下げた。

ランド 「な・・・。」 ランドはアポロ達の突然の行為に面食らってしまっていた。

これまでずっと縄張り争いを続けていたリース族がガオン族に頭を下げることなど、到底考えられなかったのだ。そんなランドを横目にジルが言葉を返した。

ジル 「・・・いいえ、皆さん、助けてくれてありがとう。そう言ってもらえると、テオも命を懸けて戦ったかいががあるわ。ランド、テオが最後に残した言葉は、『争いはやめにしないか?』だったわ。私達もこの言葉の意味をよく考えるべきだわ。」

ランド 「・・・。」 ランドは茫然としていた。

ジル 「お願いよ。」

ランド 「あ、ああ・・・。わ、わかった。」

ランドが事態を全て飲み込み、頭を整理するまではしばらく時間がかかるであろう。しかしながら、アモリスの幹部が直接頭を下げたことは、少なくともミロス村のガオン族達が争いを続けることを考え直させるには十分であった。


トマス (アポロ、結果的にアモリス団を守れてよかったな・・・。ブレメンに行くまでは、ガオン族とリース族の争いを無くすことなど、正直、無理だと思っていたよ。)

トマスはリヨンとミトラと一緒に、アポロ達と少し離れたところで床に座っていた。

リヨン 「ふぅ、それにしても、とんでもない集団だったね・・・。」 リヨンはおぞましいものを忘れたいかのように首を横に振って言った。

ミトラ 「アカデメシアも、トンチキどもがいなくなってまともな集団になればいいけど、そもそも本部の塔が崩れたんじゃ、きっとこのまま消滅してしまうわね。もう私達を襲う存在が無くなるのならよかったわ。」 ミトラは意識を失ったままのルクセンを心配そうに見つめる。

トマス 「魔の胞子なんてものがあるから全てが狂いだしたのかもしれん。」

リヨン 「恐怖をふりまく魔の胞子か。まぁ、幸いなことに、僕達には効き目が薄いようだね。」 リヨンも身震いすると、灰色の翼を小さくたたんだ。

トマス 「だが、実際には人間を狂わせる魔の胞子は無くなっていない。それにひきかえ食糧となるドーリアは少なく枯渇している・・・。」

ミトラ 「どうしたらいいのかしら。」

リヨン 「僕は自分の育ったハイディ村を魔の胞子から守りたいよ。採れるドーリアも少なくて毎日が大変だったけど、これまで僕らは村の皆で協力して暮らしてきたんだ。このまま放っておくと、どんどん魔の胞子が飛んできて、村ごと滅んでしまうかもしれない。」

ミトラ 「そうよね・・・。」

レイア 「・・・魔の胞子は、はるか南からやってきて、いっそう増えていると言うわ。前に広場を通りかかった時、アカデメシアが説法で言っていたの。」

これからのことを話すリヨン達に、それまで黙っていたレイアが言った。魔の胞子をどうにかしないと、結局、路地帯からも危機が無くならないのだ。

ミトラ 「あ、それはアルキスも言っていた気がするわ。」

トマス 「ああ。だが手がかりが少なすぎるな。」

ウル 「南か。それならば、ノーム族(大爪人種)の知恵を借りるといい。彼等なら何かを知っているかもしれん。」 今度はウルが話に加わった。

アポロ 「ノーム族だって?あいつらは絶滅したはずじゃなかったか?」 アポロも会話に加わる。

レイア 「あ、大地の民、ノーム族ね?ノーム族なら生き残っているはずよ。パパが言っていたわ。」

ウル 「ああ。十数年前に姿を消してしまったな。噂では、彼らは他種族と一切交流しないというが・・・。他の種族が住まないようなディアの光の届きにくい場所に住んでいて、地中ドーリアを栽培してひっそりと暮らしていると聞く。」

ジル 「ディアの光の届きにくい場所ですって?どこへ行けば?」 ジルまでもがすっかり会話に加わっていた。

ゴン 「南の果て、『奈落』の近くさ。奈落はアポロの母親のミラ、ガオン三戦士の1人の漆黒の牙ライオネル、そして漆黒の翼ノヴァが消えたところさ。」

一同 「奈落 ?」

レイアの家の中では共通の目的によって異種族による会話が続けられていた。そのような光景は、このブレメンにおいても今まで無かったことであろう。


リヨン 「決めた!僕は奈落近くのノームの村に行ってみるよ。魔の胞子は危険だ。ハイディ村どころか、ガイア中に魔の胞子が飛んでいるってことは、結局このまま放ってばおけないんだし、何か解決策がないか、ノームの村に行って考えてみるよ。」

トマス 「リヨン、お前1人で大丈夫か?」

リヨン 「心配いらないさ。塔の中と違って、外ならいつでも飛べるんだしね。」 リヨンが元気よく翼を羽ばたかせてみせた。

トマス 「悪いが俺とミトラは、ルクセンの病状が少しでも回復したらハイディ村へ帰るよ。ネクロマンシーが壊滅した今、内通者はもう村にはいないだろうが、俺も妻が心配だし、魔の胞子が村に飛んできているなら、一時的な避難とはいえ、皆に移住を提案しようと思う。それでいいな、ミトラ?」

ミトラ 「・・・そうね。ルクセンさえ元気になってくれれば、何でもいいわ。」

いつも無茶なことを言うミトラも、多くの死を目にして、今回ばかりはルクセンの病状が心配なこともあり無茶を言わなかった。

ジル 「リヨン、私も行くわ。もしかするとアカデメシアは今後も形を変えて活動を続けるかもしれないけど、私はとりあえず魔の胞子を消滅させたいわ。魔の胞子を悪用すれば新たな争いを生むかもしれないし、いずれミロス村にだって自然に飛んでくると思うわ。ミロス村のことはランド達に任せるわよ。」

ランド 「おいおい、酋長はお前にそんなこと望んでないんじゃないのか?」

ジル 「テオやギリーの死を無駄にはしないわ。もう争いなんてものがガイアから無くなるように、そのために私は生きていくわ。」 ジルは力強く言った。

ランド 「お前を止められるなんて思ってねぇけどな。まったく、ミロス村もこれから大変だぜ・・・。はぁ・・・。」

アポロ 「ジル、少なくとも俺達はアンタ達とは争う気はもう無いが、この狭いガイアで本当にすべての争いがなくなるなんて、お伽噺ではないのか?」

ジル 「・・・。」 ジルは話に水を差すアポロに真っすぐな眼差しを黙ったまま向けた。

アポロ 「チッ・・・。」 アポロはその場で小さく舌打ちをすると、くるりと後ろを向いて背中を見せ、続けて次のように言った。

アポロ 「・・・が、しかしだ。お前達ガオン族の酋長こそが奴を倒し、この街を狂信者達から救ったのも紛れもない事実だ。奴を野放しにしておいたらいずれアモリスにも、他の種族にも、新たな犠牲者が出ていただろう。礼を言う。」 

ジル 「礼なんていらなわ。まだ解決していないもの。」 

アポロ 「さすがにガオン族は強いな。よし、ならば俺も行く。南へ行けば食糧となるドーリアの種も手に入るかもしれん。それを持ち帰ってアモリスで育ててみたい。そもそもドーリアが枯渇しているから俺達はアカデメシアにつけこまれたのだ。それでガイア中の争いが無くなるなら命をかける意味がある。」

ウル 「おいおいアポロ、危険だぞ。」 

アポロ 「ゴン、ウル、もうしばらくアモリスのことは任せてもいいか?」 

ゴン 「勝手にしな。甘ったれたガキのお前なんぞいなくてもアモリス団は俺とウルの2人で大丈夫だ。」

アポロ 「ははっ、厳しいな!頼んだよ!」

ウル・ゴン (この好奇心と正義感はまさしくね・・・。)(母親に似てしまったんだな~。)

ゴンとウルは腕を組んだ。そしてお互いに顔を合わせ、満足そうな表情を見せるとアポロに声をかけたのだった。

ゴン・ウル 「必ず戻ってくるんだぞ。」「団長の席は空けておくからな。」

アポロ 「もちろんだ。必ず戻るよ。」

ゴンとウル、そしてアポロの3人は、約束の合図として互いの拳を体の前でトントンと軽く合わせた。

レイア 「あの、私も・・・。私も連れていってくれませんか。満足に歩けないから、すごく迷惑になってしまうと思うけど。」 急にレイアが何かを決心したかのように言った。

リヨン・ジル・アポロ 「え?」「なんで?」「急にどうしたんだ?」

レイア 「路地帯の人達は親切で、きっとこれからも私を助けてくれると思うのだけど、このままブレメンにいても食糧が少なくなっていくのは避けられないわ。でも、あなた達と一緒に行けば、私にも何かできるかもしれない。それにノーム族は遠い親戚だと聞いたことがあるの。一度会って話してみたいわ。」

リヨン 「もちろん僕らは全然構わないけど、その足で大丈夫かな。長旅になるかもしれないよ。」 

アポロ 「それならこれを持っていくといい。」 アポロはレイアが見たことのあるものを差し出した。

レイア 「あ、これは・・・。」

アポロ 「ダンテさんの持っていた杖だ。ま、奈落の近くまでは街道も整備されていて平らだろうから、車椅子を使えば多少の荒い道でも行けるだろうさ。」

レイア 「アポロさん、ありがとう。」

アポロ 「アポロでいいぜ。」

ジル 「それじゃレイア、女2人、仲良くしてよね!だいたい、この男2人だけだとどうも頼りない気がしていたのよね。」 ジルは冗談ぽく皮肉を言った。

アポロ・リヨン 「な!」「え!(ミトラみたいなことを・・・。)」

レイア 「ふふ、ずっと前から旅先で私の歌を聴いてもらいたいと思っていたの。よろしくね!」 レイアはようやく笑顔を見せたのだった。

ダンテを亡くしたレイアにとって、長年2人で暮らしてきたこの家にとどまることは、常にダンテを思い出してしまい、耐えられない気持ちもあったのだろう。

ウィング族のリヨン、リース族のアポロ、ガオン族のジル、そしてカモイ族のレイアという4つの異種族は大地の民ノーム族に会いに奈落に行くことに決めたのだった。

その夜-。路地帯に笛の音とともに美しい歌声が響き渡った。それはミトラの笛とレイアの歌による鎮魂の曲であった。


♪安らかなる眠りにつきなさい 愛することに疲れた者よ 永遠の安らぎ求め 終に出逢うは命の奇蹟 胸に宿るは救いの神

己を傷つけるのをやめなさい 与えることに終わりなどない 永遠の輝き放ち 空に浮かぶは命の神秘 胸に残るは想いの糧

目を瞑り安心しなさい 残された私達は あなたを責めることなどしない 前を向いて きっと未来を そして過去をつなぐでしょう♪


曲が終わると路地帯は再び静寂に包まれた。ダンテをよく知る路地帯の皆は涙を流した。また、彼らは勇敢に闘ったガオン族の話を聞き、同じように涙を流した。そこに種族の壁は無かった。レイアの歌は死者を冥界に送る歌などではなく、残された人の心を癒す歌であったのかもしれない。

どこからか、無数の黒い羽がひらひらと路地帯に舞い落ちる。彼らの長い旅はこれから始まるのだった。

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