■第17話:鉄槌 ~ Thor's Hammer ~
同じ頃-。広場の中心は依然として騒然としたままであった。
リース族達 「お、おい!?こいつらこれだけ銃弾を受けても立ち上がってくるぞ!」「嘘だろ?体がボロボロになっているのに、なぜ立ち上がれるんだ?」
研究員達 「ぐ、ぐおぉぉぉ。」 研究員達は、銃弾を無数に体に受け、苦しそうな声をあげている。
リース族達 「こいつら意識がないようだぞ?」「それにずっと苦しそうだ。」「まるで地獄じゃないか!」「ごほっ!この粉はなんだ??頭がクラクラするぞ!」
アポロ 「くそっ!なんだこれは?かなり紫色の粉が舞っているな、こいつが例の薬か?俺達もこのまま嗅ぎ続けるとやばそうだ。」
トマス 「それは魔の胞子と言って、吸い込むと幻覚を見だすんだ!気をつけてくれ!」 上空から降りてきたトマスがアポロ達に説明する。
アポロ 「なるほどね。こいつが奴らの武器ってわけかい。そうだ!いったん、広場の胞子ごと爆炎で吹き飛ばすぞ。」
ゴン 「アポロ?それはいい考えだが、そんなに大量の火薬はここにはないぞ!?俺が持っているのは小さい爆弾1つだ。」
アポロ 「俺に考えがある。ゴン、ウル、トマス、それに動ける者達、ついて来てくれ!酒樽を持ってくるぞ!純度の高い酒が中央酒場にあるはずだ!」
ゴン 「そ、そうか!お前達、半分ついて来い!半分は残って奴らの足を撃って食い止めるんだ。」 ゴンはリース族達に指示を出す。
広場に残ったリース族達はゴンの指示に従って研究員達の足を狙って時間を稼いだ。
数分後-。アポロ達は大きな酒樽を沢山転がしてきた。長い闘いに、リース族達にも怪我人が出始めていた。
ウル 「皆、待たせたな!こいつは希釈する前の相当純度の高い酒だ。火をつけると爆発するぞ。」
ゴン 「広場に舞う魔の胞子とともに、こいつらを一掃する。そのまま転がすぞ!皆、撃つのをやめて退却だ!」
ゴンの号令にリース族達は銃撃を止めて退却しだした。
アポロ 「ゴン、爆弾を投げてくれ!俺が撃ち貫く!今だ、酒樽を演説台の方向に転がせっ!」
ゴン・リース族達 「よしきた!」「おおっ!」
広場には沢山の酒樽が転がり、そこへ爆弾が投げられた。
アポロ 「あばよ!不死の軍団ども!」
ガァン!ズドォォォン!!耳を劈くような爆発音とともにあたり一面に光が走った。爆風もかなりのもので、広場には炎が燃え広がり、樽の破片が火の玉となってあたりに飛び散っていた。研究員達は、爆発や火の玉を体に受けて地面に倒れると、ついに動かなくなった。
銃を撃っていたリース族達は既に広場から退散し、広場が見える位置に残っていたのはトマス達だけであった。リヨンやミトラもトマス達の元に合流していた。
ミトラ 「もう、このトンチキ!耳が聞こえないわ。こんな作戦考えたの誰よ!?」
炎は全ての酒樽に引火し、爆発は激しく何度も続いた。
トマス 「ゴホゴホッ!ここはもう危険だ!全員退散するぞ!レイア、しっかり掴まってくれ!」
レイア 「ええ、ありがとう!」
ウル・ゴン 「よしうまくいったな。全員退却だ!」「おう!」 ウルとゴンはお互いに声をかけた。
リヨン 「アポロ、助かったよ!」
ミトラ 「みんな無事ね?あれ?ジルはどこ?」
リヨン達がジルを探すと、だいぶ離れたところでジルは無防備に座っていた。いや、燃え盛る炎を前に腰を抜かしていたのだ。
ジル 「あああ・・・。火・・・。」 ジルは震え、恐怖に身動きがとれずにテオの死体にしがみついていた。
ジルのいた場所は爆発の中心に近く、ジルに向かって容赦なく火の玉が飛んでくる。
アポロ 「何やってんだ!あのバカ!」 アポロがジルを助けに走り出した。
ウル・ゴン 「アポロ!そっちは危険だ!ガオン族なんか放っておくんだ!」「死んでも知らねえぞ!」
アポロ 「馬鹿言うな!種族が違おうとも、動けない女を見殺しにしちゃあ、アモリス団の名に恥じるだろうが!」
アポロが火の玉をかいくぐってジルの近くまで行くと、怒鳴りつけるようにジルに声をかけた。
アポロ 「しっかりしろ!立つんだ!こんなところで死ぬわけにはいかないだろう!立って走るんだ。さあっ!」 そう言ってアポロはジルに手を伸ばした。
ジル 「え、ええ・・・。ありがとう。」 ジルはテオの死体から手を放し、アポロの手をとって立ちあがると、炎を背にして広場から遠ざかるように走り出した。
声 「そこまでだ!お前さん達にはその場で死んでもらおう。」
アポロとジルがぎょっとして声のした方を見た。そこには小柄なカモイ族が鬼の形相をして立っていた。
声の主はリーンであった。騒ぎに紛れて演説台から少し離れた場所へ移動しており、爆発の嵐から逃れていたのだ。その眼は虚ろであり、なんとも恨めしい顔でアポロとジルを見ていた。遠くの方にいるリヨン達も異変に気がついたが、銃を持ったリース族達は既に皆退散しており、ゴンとウルの銃も弾切れであった。助けに行こうにも、やはり魔の胞子の存在が頭をよぎり、皆足を踏み出せないでいた。
リーン 「お前達、ずいぶんと勝手なことをしてくれたな・・・。アカデメシアで密かに築いた私の地位もこれでパーだ。それにこの騒ぎが知れ渡れば路地帯にも戻る場所が無くなるだろう。お前達さえこの街に来なければこんなことにならなかったのにな。」
アポロ 「路地帯で見た時はわからなかったが、その邪悪な顔がお前の本性だったようだな。まんまと騙されていたぜ。お前が今回の黒幕の1人だそうだな。この場でケリをつけてやる。」
ジル 「そうよ・・・。皆を騙し、道具のように扱うなんて、許せないわ!」 ジルの肩は怒りで震えていた。
リーン 「はぁぁあ?まだそんな寝ぼけたことを言っているのか。力も無い我々カモイ族が、生きるために支配者と手を組み、私がいる限り路地帯に手を出させないことを約束させたのだ。路地帯の者達も無駄に正義感が強いが、本当は自分達で闘うことすらできない臆病な連中だからな。漆黒の爪の1人や2人、犠牲にして何が悪い!」
アポロ 「犠牲だと!?何も知らないカモイ族の家族を・・・。」
ジル 「それにその支配者もテオにやられたわ!もうこの世にはいないわよ。そっちに転がっているのがアルキスの死体よ。」
リーン 「な、なんだと!?」 リーンは驚いて死体を見た。
そこには確かにアルキスの死体があった。リーンはアルキスの死体に駆け寄って揺すったが、死体はピクリとも動かなかった。
ジル 「驚いて声も出ないようね?」
リーン 「・・・クハハ、丁度良いわ。ならば私が代わりに支配者になるだけだ。」 リーンは笑い出すと懐から袋を取り出した。
アポロ 「なんだコイツ、気が狂ったか?」
リーン 「これは黄泉がえりの粉・・・。死んだばかりの肉体も操ることができると言われている、ネクロマンシーの中でも解明されていない禁断の呪術だ。だが、1つだけ不安材料があってな、誰も使ったことがないため私自身もどうなるかわからんのだよ。」
ジル 「あ~もう!アカデメシアの狂った馬鹿どもにはうんざりだわ。さっさとかかってきなさい!」 ジルは曲刀を持って構えた。
リーン 「後悔するがいい!」 リーンはそう言い残して勢いよく粉を吸い込むと、アルキスの死体に近づき、死体に重なるように倒れこんだ。
リーンはそのままアルキスの死体の上でピクリとも動かなくなった。
アポロ 「なんだ、動かなくなったぞ?自殺したのか?」
ジル 「馬鹿な奴ね。」
次の瞬間、彼らの前には目を疑うような光景が映し出された。ゆっくりと『アルキスの死体』が動き出したのだ。
アルキスは立ち上がってアポロ達を視界にとらえると、咆哮をあげた。それはこの世への恨みのような、言葉ともいえない不快音であった。
アルキス 「グォォォ!!グォォォ!!これはどういうことだ?なぜ私は・・・?」
ジル 「アルキス!死んでなかったのね!」
アルキス 「・・・アルキスだと?」 アルキスは自分の体をじろじろと見ると、急に笑いだした。
アルキス 「そういうことか!クハハハ!」
アポロ 「何がおかしいんだ!?」
アルキス 「私はリーンだよ。」
ジル 「な、なんですって!?」
アルキス(リーン) 「どうやら禁断の呪術は、使った者の意識はそのままに、別の人間の体を乗っ取ることができるようだ。それだけではない、素晴らしい力を感じるよ。黒き特質をもつとこんなにも力が溢れてくるのだな。」
アポロ 「リーンでもアルキスでもどっちでもいい!またすぐにあの世に送ってやるさ。」
ガウンッ!!アポロは銃でアルキス(リーン)を撃った。
銃弾は確かに命中したが、アルキス(リーン)はびくともしなかった。銃弾を受けた体には小さな穴が空いたが、血は一滴も流れていなかった。
アルキス(リーン) 「クハハハ、こんな弾、痛くもかゆくもないわ。全員皆殺しにしてやる。」 アルキス(リーン)はゆっくりと近づいてくる。
アポロ 「な、なんだ!?あんな奴、どうやって倒せば・・・?」
アポロとジルの前に不死の怪物が迫ってくる。その場から走って逃げ出してしまえばいいものの、迫りくる怪物の前に恐怖で体が動かなかった。
アルキス(リーン)がもう少しでアポロ達の前にたどり着く時であった。
アポロとジルは再び信じられない光景を見た。今、この街で『最も大きな体』が起き上がったのだ。
ジル 「あ、あ、あ・・・!?」
アポロ 「う、嘘だろう!?」
テオの死体が立ち上がったのだ。その目に光は無く、はっきりとした意識も無いようだった。しかし、テオの太い2本の足はしっかりとその体を支えていた。
ジル 「テオ・・・。生きていたのね!」 奇蹟を前に、ジルの目には涙が溢れてきていた。
次の瞬間、ジルにはテオの声が確かに聞こえた。
テオ (ジル、しっかりと見ていてくれ。これが英雄の息子の最期だ!)
ジル 「テオー!!」 ジルは叫んだ。
ジルの叫び声に呼応してテオはアルキス(リーン)をめがけて突進した。
アルキス(リーン) 「なんだと!?」
アルキス(リーン)は慌ててテオの方を向いて構えたが、テオの渾身の体当たりをまともに受けることになった。アルキス(リーン)の体には強烈な衝撃が加わり、大きく突き飛ばされ塔に激突した。
テオは最後の力を振り絞ったのか、地面に仰向けに倒れると、ついに起き上がることはできなかった。
テオ (・・・。)
アルキス(リーン) 「ぐはっ!死にぞこないめ!」
突き飛ばされたリーンは、再びよろよろと起き上がり闘う姿勢を見せた。体は斜めに傾いており、どうやら右足が折れているようだ。
アポロ 「ば、化け物め!まだ闘えるのか!」
アルキス(リーン) 「がぁぁあ!もうこの街ごと壊してやらんと気が済まん!貴様らこの街から逃げられると思うなよ!いや、どこへ逃げようとも、地獄の底まで追いかけてやる!魔の胞子もありったけばらまいてやるわ!」
ジル 「ま、まだ魔の胞子を持っているの!?」
アルキス(リーン) 「皆殺しだ!私の行く先に死体の山を築いてやるぞ!がははは!・・・ん?」
アポロ・ジル 「あ・・・。」「え・・・?」
ジルとアポロの視線は少し上へ向けられていた。アルキス(リーン)の背中にそびえたつ塔が大きく手前に傾いたのだ。
リヨン達 「あれ・・・。」「塔が・・・。」「倒れ・・・。」
リヨン達は離れた位置から塔がゆっくりと傾いていくのを見た。先ほどの爆発の衝撃で塔の土台部分の石が割れており、さらにテオの体当たりで大きな衝撃が加わったのだ。土台部分の石が少しずつ砕けながら、高層の塔がガラガラと崩れだし、手前に倒れてくる。そこにはアルキス(リーン)が立っていた。
アルキス(リーン) 「こ、こ、こんなことありえない・・・。認めないぞ・・・。」
爆発よりも大きな音とともに塔は崩れ落ちていき、辺り一面は砂煙で何も見えなくなった。
砂煙がおさまると、そこにはジルとアポロの姿があった。ジルとアポロは無事であった。悪魔に対する神の鉄槌とでもいうべきか、塔はジルとアポロを避けるように、アルキス(リーン)をめがけて倒れたのだ。ジルは仰向けに横たわるテオの手をとって泣いており、アポロもすぐ近くにいた。火もほとんど収まっている。
ジル 「テオ・・・。生きて・・・。」 ジルは全身傷だらけのテオを見て、それが叶わないことだとしても思わずそう言ってしまうのであった。
テオ (ジルよ・・・。もう泣くな。お前はもう迷子の子供じゃない。ミロス村を頼んだぞ・・・。) テオはかろうじて聞き取れるぐらいの微かな声で言った。
ジル 「うう・・・。」
テオ (さて、アポロだったか・・・。聞いてくれ。アモリス団は我々ミロス村のガオン族を『縄張りを荒らす存在 』と憎んでいるらしいな。ならばこのまま俺の首をとって皆の溜飲を下げるがいい。だからもう、争いはやめにしないか・・・。)
死を目の前にテオの考えは変わっていた。ジルの言っていたことは正しい。種族間の争いは何も生み出さない。いや、新たな憎しみを生むものであった。
アポロ 「・・・いや、必要ないさ。安心して眠ってくれ。」
アポロはテオの言葉を聞くと、それだけを言い残してその場を去っていった。




