■第16話:悪魔の末路 ~ end of devil story ~
塔の屋上に広場の様子を眺める1人の男がいた。ネクロマンシーのリーダー、アルキスである。塔の中から屋上へ出る観音扉を開けて出てきたのであった。
アルキス 「むう・・・。リーンの奴め。この騒ぎで、ネクロマンシーの維持どころか、今後アカデメシアに協力しようとする者が激減してしまうだろう。長年続いたアカデメシアの拡大も、もはやこれまでか・・・。ゴーラよ、なんとか助けてやりたかったが・・・。」 そう言いながらアルキスは自分の腹をさすった。
テオ 「ふん、誰を助けるだと?」 アルキスの後ろから怒りに震えるテオが現れた。
アルキス 「追ってきたのか。ということは、ギリーは殺したのか?」
テオ 「1人の戦士として、敬意を払って向き合ったのさ。命をもてあそぶようなお前とは違う。この私欲の塊め。」
アルキス 「もてあそんでいるわけではないさ。しかし私欲の塊と言われれば確かにそうだ。私欲をもつことこそが人間の証。私の欲望の下に群がる人間達に、少しだけ生きる希望を与えてやっているのさ。」
テオ 「お前の私欲などどうでもいいが、1つだけ確認したい。お前達はなぜアモリス団の連中と我々ミロス村のガオン族を争わせようとした?」
アルキス 「簡単さ、大量の死体が手に入るじゃないか。もともとネクロマンシーは死体研究で大きくなった派閥。活きのよい材料はいくらあっても足りん。」
テオ 「やっぱり狂ってやがるな。無駄口はもういい、罪を償ってもらうぞ。素手で十分だ!」
アルキス 「私を殺そうというのか?そんなことをしても無駄だ。魔の胞子はやがて世界を覆いつくす。今日のことなど、その前兆にすぎんよ。」
テオ 「世界を覆いつくすだと?」
アルキス 「そうだ。魔の胞子は確実に増えているのだ。」
テオ 「何を戯言を。」
アルキス 「ククク・・・。無知なガオン族には理解できないだろうな。ところで、この塔は元々何だったのか、お前にわかるか?」
テオ 「遺言か?好きなだけしゃべるがいいさ。」 テオはそう言いながらじりじりと間合いを詰めていく。
アルキス 「墓さ。」
テオ 「墓だと?ああ、お前のだな?(武器を隠し持っているかもしれんな。)」
アルキス 「馬鹿を言うな。大昔の話だがな、このガイアを統治していた者が権威を示した自らの死に場所さ。ここにある書物にも記録として残っている。」
テオ 「ガイアを統治だと?(よし、この間合いならやれる。逃がさんぞ。)」
アルキス 「大昔の人間も、我々と同じように食糧を採集して暮らしていた。ただ、今のドーリアとは別の呼び名で、種類も多くあったという。それを豊富に採れるかどうかは、初めのうちは神の定めた運命次第だった。だが、強欲たる人間は、いつしか『食糧を栽培して増やす』という手段を身につけた。そして自分達が食べる以上の量を蓄えだし、採集不足の恐れを無くした人間は、より欲望を増大させていった。」
テオ 「・・・。」 テオは警戒をとかずに様子をうかがっている。
アルキス 「人間は、栽培技術、道具、様々なものを手に入れようと、様々なものを発明していった。その中で最も偉大な発明は統一言語だった。統一言語を手に入れた人間は、支配する者と支配される者にわかれていき、支配する者はまた長い年月をかけて、さらに欲望を増大させていった。」
テオ 「そんな大昔の話がなんだ?だからどうしたと?」
アルキス 「そしてついに支配する者の中に、自らを神と錯覚する者が現れた。それが『王』だ。この塔は遥か昔の王が建てたものらしい。一方では、ただの墓であるだけでなく、遠くの地と会話するための拠点としても使われていたようだがな。」
テオ 「お前がその王の末裔だとでも言うのか?」
アルキス 「そうではない。大昔の話だと言っただろう。もっとも、欲望を限りなく増大させ、象徴たる高い塔を建てた人間に、ついに神が罰を与えたのかもしれん。言い伝えではガイア中に雷が落ち、その地に住まう人間の姿形を変えてしまったという。幸い、統一言語だけは変わらなかったようだがな。」
テオ 「さっきから、お前が何を言いたいのかわからないな。お前の私欲の犠牲になったギリーの復讐をさせてもらうだけだ。」
アルキス 「大昔の人間の残した真理は今でも変わらないという話だ。欲望こそが発明を生み、この世界を変えてゆくという話をしてやったのさ。ギリーの復讐だと?それこそが勘違いさ。お前達などそもそも私の踏み台にすぎんのだよ。」
テオ 「魔の胞子よりもお前の考え方の方が危険だな。」
アルキス 「それでは灰色の牙よ、お前の牙も頂くとしよう。」
アルキスは懐から薬瓶のようなものを取り出して、地面に向かって投げた。
ガチャン。瓶が割れると、辺り一面に紫色の粉が舞う。至近距離まで近づいていたことが裏目に出て、テオはまともにそれを吸い込んでしまった。
テオ 「ぐはっ、体が動かん?」
アルキス 「いかに黒き特質を受け継いでいようと、これだけ高濃度の胞子を一度に吸い込めば無事ではいられないはずだ。」
テオ 「ぐっ、お前も無事では済まないはず・・・。」
アルキス 「既に私の体にはいくつもの黒き特質を移植している。お前の牙も移植し、より強靭な体を作れば問題ない。さっさとこの胞子を塔の上からバラまいて、このくだらない戦いを終らせようではないか。下にいる人間には全員狂い果てて死んでもらう。」
テオ 「狂人め、全員だと?屋上に出たのは初めからそれが狙いか!?させるかっ!」
テオはありったけの力を振り絞ってアルキスに向かって突進した。魔の胞子を吸っている状態とは信じられないほどの速さであった。
しかし-。突然、テオの死角から矢が飛んできた。テオは足を射抜かれ膝から崩れ落ちてしまった。
テオ 「ぐっ・・・!」
アルキス 「馬鹿め。お前に魔の胞子の効き目が薄いことは想定済みさ。ここには精鋭のネクロマンシーもいるのだ。」
物陰の横から1人の白装束を着た研究員が弓を引いて現れた。
アルキス 「そのまま弓で射殺してしまえ!」
テオ 「くそっ!これしきのことで!」
テオは数本の矢を躱すも、体が思うように動かなくなっており、今度は腕や腹にまで矢を受けてしまった。無数の矢を受けたテオは、ついに膝をついたままその場で動けなくなってしまった。
テオ (くっ、これは毒矢か!?ぐ、さ、さすがに厳しいか・・・。せっかくあと数歩というところまで距離を詰めたというのに・・・。)
アルキス 「さすがのガオン族も、それだけの魔の胞子を混ぜた毒矢を受ければ動くこともできまい。あと数本この矢を受けたら死に至るだろう。終わりだ!」
声 「マテッ!」
次の瞬間、弓をひく研究員の前に巨体が立ちふさがるように現れた。その巨体はギリーであった。後ろにはリヨンとミトラの姿もある。2人はギリーに肩を貸して屋上までたどり着いたのだ。ギリーはいきなり目の前に現れた別のガオン族に驚き硬直している研究員を、そのまま一気に刃となった右腕で切り捨てた。そしてテオの近くまでゆっくりと歩いてきたかと思うと、その場に倒れこんだ。
ギリー 「シュ、シュウチョウ・・。コレデオレもミロスムラのセンシってミトメテクレマスカ?モウ、ヨソモノなんてイワナイデくだサイヨ・・・。」
テオ 「ああ。ギリー、よくぞここまで正気を保ってくれた。お前は村で2番目の戦士だ。」
ギリー 「イチバンにはシテくれないんデスネ・・・。ハハ・・・。」 ギリーはそう言うと倒れこみ、動かなくなってしまった。
塔の広間でテオと闘うことを命じられたギリーは、強烈な痛みと、魔の胞子の幻覚に負けずに自我を保ち、テオと闘うことなく道を譲ったのだ。それだけでも大きな苦痛をともなったであろうが、どうにかテオに力を貸そうとリヨン達の肩を借りながら最後の力を振り絞って階段を上ってきたのだった。
テオ 「たわけ・・・。1番は俺に決まっているだろう。やはりお前は頭が少し足りんな。だが、よくやってくれた。ゆっくり休んでいろ。リヨン達もありがとう。」
リヨン 「うん、水を飲ませていたら、だんだんと正気に戻ったみたいで、どうしてもテオさんの後を追うんだって・・・。うう・・・。」 リヨンは涙ぐんだ。
ミトラ 「腕がこんな状態で、体もボロボロなのに、絶対にテオさんを助けるんだって・・・。無理しないでって言っているのに。」 ミトラも涙を流していた。
テオ 「そうか・・・。」
アルキス 「この役立たずが!もうよいわ!残ったお前も瀕死ではないか。私が止どめを刺してやる。非力なウィング族達には何もできまい!」
憤るアルキスをよそに、テオは立ち上がり、ゆっくりとアルキスに近づいていった。矢で射られた傷口からは噴水のように血が噴き出している。
アルキス 「なっ!その体でなぜ動ける? !」
テオ 「これが魔の胞子の力かね・・・。体に感覚が残っちゃいないが、ついでに痛みも感じないぜ。お前みたいに人間の体をおもちゃにするような奴は絶対にゆるさんぞ。刺し違えてもここで殺す。」
アルキス 「ひっ、近寄るな!武器も持っていない死にぞこないに何ができる!」
実際、傷だらけのテオとアルキスが闘ったらアルキスが勝っていただろう。テオの怪我は深刻であり、ちょっと体を押しただけで倒れるぐらいなのだ。しかし、テオの凄まじいまでの気迫にアルキスは怯み、知らずのうちに後ずさりしていた。体が勝手に目の前の恐怖から逃げようとしているのだ。
リヨンもミトラもその場から動くことができなかった。
テオ 「ふん、どうせお前も、ちょっとやそっとの傷ではやられないとみた・・・。なら、これならどうだ?」 そう言って逃げようとするアルキスにしがみついた。
アルキス 「なっ!何をする?」
リヨン・ミトラ 「ちょっ!テオさん!?」「え!?」
テオ (ジル、村の皆、俺もこの傷では手当してもおそらく助からないし、運よく助かったとしても寝たきりだろう。・・・悪いが先に逝くぜ。)
アルキス 「や、やめろ!」
そして-。テオとアルキスの体は宙を舞った。2人は塔の屋上から落ちていく。
リヨン・ミトラ 「だめだっ!!」「だめっ!」 リヨンとミトラはテオを助けようと羽ばたいたが、とても間に合わなかった。
アルキス 「こ、こんなっ・・・!?」
テオ 「・・・ギリーよ、助けられなくて悪かったな。」
テオとアルキスは激しく地面に叩きつけられたのだった。
ジル 「ん?なんの音かしら?」
ジルは近くで大きな鈍い音を聞いた。
リヨン・ミトラ 「うわぁあ!」「きゃあっ!ダメよっ、テオさん!」
ジル 「リヨンとミトラの叫び声ね ?テオですって?」 ジルは声の元へかけつけた。
すると、そこにはテオの横たわる姿があった。屋上から落ちた体への衝撃はすさまじいもので、テオは指一本動かすことができなくなっていた。
ジル 「ああ!?テ、テオっ!屋上から落ちたのね!?」 ジルはピクリとも動かないテオにかけ寄って声をかけた。
テオの体はボロボロで、ひと目で助からないことがわかった。
ジル 「・・・テオ!テオ!死んではだめよ!頑張って!」
テオ 「そ、その声は・・・、ジルか?」
ジル 「そうよテオ!ああ、なんてことなの!」
ミトラ 「なんでこんな無茶をしたんですか!?」
テオ 「・・・俺はもう助からん。毒矢も無数に受け、血も大量に失ってしまった。魔の胞子を吸い込んだおかけでほとんど痛みがないがな。そもそも体に感覚が無くて全く動かん。ジルよ、死ぬ前に伝えたいことがある。」 テオはジルに向かって話す。
ジル 「あらたまって何よ・・・。『頑張って生きる』って誓うなら婚約だって考えてあげてもいいわよ。とにかく死んでは駄目よ!絶対によ!あなたはガオン族最強なんでしょ!」 ジルは泣きながらテオに話しかけ続けた。
テオ 「・・・。」
ジル 「何よ、意気地なしね。早く言いなさいよ!」 ジルは憎まれ口をたたきながらもテオが助からないことを覚悟していた。
テオ 「ジル、お前は本当はジェイク=ゴートの娘じゃないんだ。」
ジル 「え、今なんて言ったのテオ・・・?」
テオ 「俺も幼い頃の記憶はあまり無くてな。お前のことは半年前に俺の育ての母親から聞いた・・・。」
ジル 「え・・・。」
テオ 「当時、ジェイクには嫁がいたんだが、なかなか子供ができずにいたらしい。子供が欲しかったジェイクは、ある人物から子供を譲り受けたんだ。」
ジル 「そんな、信じられないわ・・・。」
テオ 「もう1つ話がある・・・。俺の父親も俺が小さい頃に消息不明になっている。」
ジル 「それは知っているわ。それも本当は違うっていうの?」
テオ 「消息を絶ったというのは、ある意味本当だ。」
ジル 「・・・?」
テオ 「俺はライオネル=アーサーの子なんだ。」
ジル 「ええっ!?
テオ 「ライオネルは当時、ミロス村で最強と評判だった。ライオネルは他の種族が攻めてきた際に最初に命を狙われるのは自分だと考え、家族を巻き込まないように俺と母親にはなるべく近寄らないようにしていたんだ。」
ジル 「そ、そうだったのね・・・。」
テオ 「そして、お前も知っているとおり、十数年前、漆黒の牙をもっていたライオネルはアカデメシアに命を狙われた。」
ジル 「・・・。」
テオ 「これも母親から聞いたんだが、アカデメシアに狙われたのは本当はライオネル1人で、ガオン三戦士ではなかったらしい。つまり、ジェイクは、巻き込まれて殺された形だったんだ。あの事件の後、ライオネルは復讐の旅に出るが、『自分の子供は1人も存在しないことにしてくれ』と俺の母親に言い残し、そのまま消息を絶ってしまった。」
ジル 「・・・。」
テオ 「俺の母親も、ライオネルの息子が生きていることがアカデメシアに知られたら、俺も狙われるかもしれないと思い、この事実をずっと隠していたんだ。」
ジル 「そ、そうだったのね。」
テオ 「それとだ・・・。ライオネルにはもう1人子供がいた。ジル、お前は俺の母親とライオネルの間に生まれた2番目の娘なんだ。」
ジル 「な、な、なんですって!?う、嘘よ!」
テオ 「この灰色の牙こそが紛れもない証拠だ。トマス兄弟達を見ればわかるだろう。最強の遺伝子を受け継ぐ、れっきとした兄妹の証さ。」
ジル 「そ、そんな・・・。」
テオ 「俺の母親はこの事実を俺達に言うべきかどうか、ずっと悩んでいた。お前がジェイクと育ての母親の娘として誇りをもって生きていたからだ。ところが、俺がお前に好意をもっていることを知って、焦って俺にだけ教えたのさ。俺も仰天してしまったよ。ふふ・・・。」
ジル 「・・・。」 ジルはあまりの衝撃に茫然としてしまっていた。
テオ 「ジル、お前は俺の妹として、そしてガオン族として恥じない生き方をしてほしい・・・。」
ジル 「テオ・・・?」
テオ 「・・・。」
ジル 「テオー!!」
ミトラとリヨンは言葉をかけることもできずに2人を見守っていた。
少し離れた位置でもう1つの巨体が地面に横たわっていた。周囲では銃声や騒ぎ声が続いている。
アルキス (この騒ぎが聴こえるか、ゴーラよ。一度は我々が助けようとした人間達が広場で殺し合っているぞ。ククク、おかしなものだ。最期に塔の屋上から見た地獄の景色はなかなか見ものだったよ。)
アルキスの独り言に反応する者はいなかった。
アルキス (そうだったな・・・。お前はもう、あの時に死んでいたんだったな。お前の死を認めないことが、私の孤独な闘いの始まりだったのかもしれんな。だが、お前とともに長年研究してきた塔の下で死ぬのも悪くない。思えば、この塔に戻ってきたとき、我々は既に『死んでいた』のかもしれないな。)
アルキス (今まで一緒にいてくれてありがとう・・・。)
ついにアルキスは息絶えたのだった。




