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翼の証明Ⅱ ~黄昏の星~  作者: ニンジン
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■第14話:脱出 ~ prison breaking ~

地下牢には、リヨン、トマス、ミトラ、ルクセン、ジル、テオ、レイアが捕まっていた。ルクセンを除き、黒き特質を受け継ぐ者達が見事に全員捕まってしまったのである。

7人となった虜囚は、すっかり元気をなくしてしまっていたが、各々の身に起きたことを互いに説明し、共通の敵はアルキスであることを認識したのだった。

レイア 「私達は一体どうすればいいのかしら・・・。」 レイアは、ようやく父を亡くした現実を受けとめつつあったが、このままでは自分もすぐに父の後を追うことになってしまうかもしれないことに、すっかり気力を無くしてしまっていた。

テオ 「ギリーがブレメンから逃げ出してミロス村まで辿りついていれば、すぐに村からランド達が助けにくる。皆、それまでの辛抱だ。」 テオは外にいるギリーが、なんとかアカデメシアの手から逃げ延びていることを願っていた。

ミトラ 「でも、このままではルクセンが死んでしまうわ・・・。」 ミトラが悲しそうな声を出した。

トマス 「確かに時間がないな。」

ジル 「とにかくこの扉を開けないことには何もできないわね。はぁ・・・。」 牢の鉄格子よりも頑丈そうな地下の分厚い扉を見てジルはため息をついた。

しだいに皆の言葉が少なくなると、それまでずっと黙っていたリヨンが決心したかのように口を開いた。

リヨン 「みんな危険だから壁際まで下がって。」 リヨンは懐から布で包まれた丸いものを取り出した。

ミトラ 「リヨン、それは何?」

リヨン 「これは途中で出会ったリース族のアポロから貰った爆弾なんだ。これを使ってあの扉を爆発させてみる。」

テオ 「何?リース族の爆弾だと?さてはアモリス団だな?そんなもの信用できん。危険だ!」 テオは敵対している他種族の名を聞いて顔をしかめた。

リヨン 「テオさん、アポロは僕とトマス兄さんの恩人なんだ。テオさんは会ったこともないから無理もないけど、あの人、アポロは信じていいと思う。使い方は聞いているんだ。これをあの扉に向かって思い切り投げれば、その衝撃で爆発して、扉を壊せると思う。」 

トマス 「投げた衝撃で爆発だって?それはすごいな。」

リヨン 「本当は人間を傷つける目的で作られたらしいんだけど、そんなことに使われなくて良かったのかもしれない。」

テオ 「・・・ふん。とにかく、扉を開けられるというなら勝手にやればいい。俺は全く信用していないし、俺やジルに怪我をさせたらただじゃおかないぞ。」

ジル 「本当に大丈夫なの?」 ジルもさすがに見たこともないアモリス団の武器を使うのは危険だと思ったようだ。

リヨン 「いえ、テオさん。お願いがあります。この爆弾は本当は銃で撃って使うそうで、相当な衝撃が加わらないと爆発しないらしいんです。一番力が強いあなたが投げてくれませんか。」 そう言ってテオに爆弾を差し出した。

テオ 「アモリス団の作ったものなど、お断りだ。」 テオは爆弾を受け取ろうとしなかった。

リヨン 「テオさん。あなたが村の仲間を想う気持ちはわかります。でも、アモリス団がいきなりガオン族を襲うなんて誤解だと思うんです。アポロはアモリス団とミロス村のガオン族との争いを止めようと、たった1人でブレメンまで来たんですから。」

皆はリヨンとテオのやりとりを因唾を飲んで見守っていた。

テオ 「・・・信じられるものか。お前の話がデタラメかもしれんし、今頃ミロス村は奴らに襲われているかもしれん。」 

リヨン 「・・・。」 リヨンはそれ以上反論できずに黙ってしまった。

すると、今度はみかねたジルがテオに話しかけた。

ジル 「テオ、私達ガオン族を襲ったのはアカデメシアとわかったじゃない。それにこれは脱出のためだわ。」

テオ 「お前はこのウィング族の話を、いや、このリース族の武器を信じるというのか?」 

ジル 「・・・そうよ。お願い。」 ジルは黙ってテオの顔を見つめた。

テオ 「・・・。」

テオは下を向いてしばらく考え込み、皆を見渡すと、ため息をついた。

テオ 「はぁ・・・。わかったよ。今回はお前を信じてみよう。皆下がってくれ。」

テオはリヨンから爆弾を受け取ると、大さく振りかぶって、閉ざされた扉へ向かって力いっぱい爆弾を投げつけた。

ズドオオン !! 耳を劈くような爆発音とともに、分厚い扉は跡形もなく吹き飛んでしまった。

皆 「すごい。」「ひゃあ・・・。」「なんて威力なの。」「み、耳が・・・。」 それぞれは驚きの声をあげた。

しかし、一番驚いているのは爆弾を投げたテオ自身だった。

テオ (なんてことだ・・・。俺達はこんな武器を持っている奴らと戦おうとしていたのか。間違いなく多くの死人が出ていた・・・。いや、そもそも俺は一体『何』と戦おうとしていたのか・・・。) テオは自ら投げた爆弾の威力に茫然としてしまっていた。

トマス 「よし、皆無事だな!この爆発音で奴らは混乱しているだろう。騒ぎに乗じて急いで逃げるんだ!レイアは俺の背中に掴まるんだ!」

トマスの号令を合図に、皆は急いで地下牢の部屋から出て地上階へ上がった。塔の中にいたアカデメシア研究員達は、今まで聞いたことのないほどの大きな爆発音に、何事が起きたのかと慌てふためき、多くの者が塔から避難しようと出口に向かって走っていた。

リヨン 「見て!研究員達が逃げていくよ。出口はきっとあっちだ!」

ミトラ 「早く行くわよ!ジルさん、ルクセンをお願い!」

ジル 「任せておいて!」

一同は研究員に見つからないよう身を低くして出口へと向かう。かろうじて誰にも見つからずに出口が見えるところまでたどり着いた。

リヨン 「皆、もう少しで出口だよ。」

ミトラ 「早く早く、ジルさんも!」

ジル 「ええミトラ。テオも早く・・・。え?テオ、どうしたの?」 ジルは急に足を止めたテオに声をかけた。

テオ  「先に行ってくれ。俺は塔の外へ逃げたと思わせて、親玉のアルキスとやらを始末する。リーンもそこにいるかもしれん。」

ジル 「なんですって!?だったら私も行くわ!」 

テオ 「馬鹿を言うな。得意な武器も無く、まんまと捕まっていたではないか。」

ジル 「でも、テオ1人ではさすがに危ないわ。」

テオ 「心配するな。俺より強い奴を見たことがあるか?」

ジル 「相手は魔の胞子を使うのよ!私だって気絶させられたわ。テオ1人に行かせないわよ!」 ジルは一歩も譲らなかった。

テオ 「ふん・・・。確かに魔の胞子への対策がない以上、少人数での深入りは得策ではないかもしれん。だが、これ以上奴を野放しにするのはもっとまずい。だからジル、お前は急いで村に戻ってランド達を連れてくるんだ。アカデメシアの陰謀の証拠があると言って、戦える男を全員集めるんだ。俺達の仲間に手をかけたのもアカデメシアで間違いないだろう。なに、心配するな。無茶はせずに奴が逃げないように見張っているさ。」

ジル 「・・・それならわかったわ。」 ジルはミロス村の皆を急いで連れてくるということに渋々納得し、テオと別れて外に出ることにした。

しかし、もう1人だけ足を止める者がいた。それは2人のやりとりを見ていたミトラであった。

ミトラ 「テオさん、あなたは親玉の素顔がわからないでしょう。偽者がいたらどうするの?私なら一度顔を見ているから親玉かどうかわかるわ。」

テオ 「む・・・。」

ミトラ 「だから、私がついていくわ。」

トマス・リヨン 「な、何を言っているんだミトラ!」 トマスとリヨンがびっくりして声をそろえて言った。

ミトラ 「テオさんがいれば大丈夫よ。それに、ルクセンをこんな目に合わせたトンチキをこの笛で一発ぶっ叩いてやらないと気が済まないってもんだわ。」

ミトラは笛を懐から取り出してブンブンと振り回した。どうやらさらわれたときからずっと持っていたようだ。

トマス 「ちょっ!そんなもん武器になるわけがないだろう!」

テオ 「そうだ。危険だ。この塔は奴らの拠点なんだ。また捕まってしまう危険もあるんだぞ。」

ミトラ 「そんなもん、トンチキよ!リヨンも来るわよね?」 ミトラは当然のようにリヨン向かって言った。

リヨン 「え・・・。」

トマス 「・・・リヨン、こうなったらミトラが言うことを聞かないのは知っているな?無茶をしないように止める役が必要だ。危険だと思ったらミトラを引きずってでも引き返して逃げるんだ。俺はルクセンが心配だから急いで医者のもとに行く。」

リヨン 「え・・・。」

ミトラ・トマス 「わかったわね!」「わかったな!」 

リヨン 「え・・・。」

リヨンは口を挟む間もなく、テオとミトラとともに悪の親玉ともいえるアルキスのもとに向かう羽目になったのだった。

レイア 「テオさん、本当に大丈夫ですか?」

ジル 「気をつけてね。」

テオ 「ああ。皆、早く外に出るんだ。」

トマス 「ミトラ、リヨン、悪いが先に出るぞ。」 トマスもレイアを抱きかかえて出ロに向かって歩きだした。

ミトラ・リヨン 「ええ、任せておいて!」「はぁ・・・。」

ミトラは怒りをこめて笛を振り回している。牢に閉じ込められてから鬱憤が溜まっているのだろう。

テオ (それにしても奴の考えは危険すぎる・・・。足止めとは言ったものの、できれば始末してしまいたい。) テオは1人、そのように考えていた。

テオ、リヨン、ミトラの3人は塔の上階を目指す。先ほどの爆発のせいで、ほとんどの研究員が塔の外へ避難しており、比較的簡単に上がっていくことができた。途中で何度かネクロマンシーと思われる研究員と遭遇したが、テオは持ち前の腕力であっという間に気絶させてしまい、ほとんど騒ぎにならなかった。

テオ 「ふん、歯ごたえのない奴らだ。やはり気をつけるべきは魔の胞子だけだな。だが、アカデメシアの下っ端は魔の胞子を持っていないようだ。」

リヨン・ミトラ 「やっぱりすごいや」「本当にすごいわね。」

3人は順調に階段を上がっていき、かなり高層の階までやってきたところで足を止めた。その階は上ってきた階段のすぐ先が広間になっていて、広間の奥には体格の良い仮面をつけた男の姿があった。どうやらこちらの存在に気がついているようだ。

テオ 「む、奴か?」

リヨン 「そうかもね・・・。」

ミトラ 「あの仮面は確かにアイツね。魔の胞子を持っているとすると、うかつに近づかないほうがいいのかしら。」

3人は仮面の男に近づけずに足踏みをしていた。そんな3人に仮面の男が声をかけてきた。

仮面の男 「ガオン族とひ弱なウィング族が2人だけか。腕力だけが自慢の単細胞など恐れるに足らず。ウィング族は闘い方すら知らんのだろう?」

テオ 「お前から魔の胞子とやらをぶんどってやろうと思ってな。」

ミトラ 「そうよトンチキ!アンタ、アルキスで間違いないわね!」 

アルキス 「そうさ。私は闘いが得意ではないのでな、闘いのお手本を腕力自慢の『2人』に見せてもらおうじゃないか。」

アルキスがそう言うと、アルキスの背後からテオと同じくらい体の大きな者が現れたのだった。

テオ 「ん?お、おい!お前はギリーじゃないか!無事だったのか?」

アルキスの横には、テオと一緒に行動を共にしてきたギリーが立っていた。

リヨン 「ギリーさん!?無事だったの?」

リヨンも呼びかけたが、ギリーは反応しなかった。反応しないというより、まるで生気がないようであった。

テオ 「ギリーどうした!?様子が変だぞ!」

ギリー 「・・・。」

ミトラ  「どうしたの?無口な人なの?なんなの?」 ミトラは状況がよくわからないようだ。

とまどう3人にアルキスは説明する。

アルキス 「こいつはな、もともとガオン族の村に忍び込ませた我々の内通者なのさ。ガオン族の強靭な肉体には前から興味があってね。」

テオ 「な・・・。」 テオは、信じられないといったようにギリーを見たが、やはりギリーは反応しなかった。

アルキス 「まあ、せっかく目にかけてやったのに、やっぱりガオン族は頭が悪いようだ。よほど同族との暮らしが気にいったのか、『今後はガオン族として、ミロス村で暮らしていきたい』などとほざいたから、つい先ほど無理矢理大量の魔の胞子を吸い込ませてやったのさ。」

テオ 「な、なんだと!?」 

アルキス 「魔の胞子を大量に吸いすぎて、まともな判断どころか、話すこともできなくなったがね。そして、おまけにこいつをプレゼントしてやったのさ。」

3人はもう一度ギリーの方を見ると、ギリーの体の異変に気がついた。

テオ・リヨン・ミトラ 「あ、あ・・・!」「ああっ!」「う、嘘・・・。」

ギリーの右腕の肘から先が『刃』になっていたのだ。

アルキス 「時間が無いため荒療治だったな。闘いやすいように腕を切断して、刃を直接刺してやったわ。魔の胞子の効果が続いている間は痛みを感じない。しかし、しばらくすると効果は薄れ、気が狂うほどの痛みが襲ってくる。それにこの胞子は中毒性が厄介でな、禁断症状が出始めるとさらに痛みが増す。もうこれがなければ正気は保てんさ。」

テオ・リヨン・ミトラ 「ギリー、しっかりしろ!」「ひ、ひどすぎる。」「悪魔ね・・・。」

アルキス 「さぁギリーよ、魔の胞子が欲しければ目の前のガオン族を始末しろ!」 

ギリー 「シュ、シュウチョウ・・・。」 ギリーは苦しそうにテオ達の間に立ちはだかった。

テオ 「アルキス!人間の体をなんだと思ってやがる!」

アルキス 「さて、私は最上階に行って魔の胞子を補充してくるから、ゆっくりと相手をしてやってくれ。さっきも言ったが、魔の胞子の効き目がある間は、どんなに傷を負っても痛みを感じない。手強いぞ?」 アルキスはそう言い残して広間の奥にある、階段へと消えていった。

対峙する3人と1人は、広間に残されたのだった。

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