■第13話:敵は誰なのか ~ invisible enemy ~
4人は地下へ降りると、そこは広間になっており、反対側に大きな扉が見えた。扉の前にはいかにも屈強そうな男が1人で立っており、白装束は着ていなかったが、頭には2本の角が生えている。ここにいるということは当然アカデメシアの関係者だろう。
屈強そうな男 「誰だお前達は?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
テオ 「その角はホーン族だな?体だけは大きいようだが、ミロス村最強の俺に敵うと思うのか?怪我をしないうちにさっさとそこをどくんだな。」
屈強そうな男 「ぶはははっ。聞いたこともない村だな。田舎者のガオン族が何を言っているんだ。」
テオ 「なんだと!」
ギリー 「酋長、ここは俺に任せてくれませんか?さっきから酋長が1人で暴れちまってるもんだから、俺の体が鈍ってしまいますよ。」 これまであまり出番のなかったギリーが前に進み出て言った。
テオ 「う、うむ。大丈夫か?」
ギリー 「俺だって闘技大会の徒手部門で準決勝まで勝ち残ったんですからね。まぁ、見ててくださいよ。」
屈強そうな男 「俺の名はウーノだ。お前達は名乗らなくていいぜ。どうせすぐにこの世からいなくなっちまうんだからな。ぶはははっ。」
ギリー 「こっちのセリフだ。いくぞ!」
地下広間でギリーとウーノの闘いが始まった。規格外の体の2人の激突は、地下に大きな音をたてて繰り広げられた。
数分後-。
ウーノ 「がはぁっ!参ったわい!」 ウーノが床に膝をついた。
ギリー 「腕の骨が折れたようだな。もう動けんだろう。命まではとらんさ。」 ギリーはそう言ってテオ達に拳を上げてみせた。
テオ 「なかなかやるなギリー、ガオン族はそうでなくてはな。・・・むっ?気をつけろ!何か企んでいるぞ!」
ウーノ 「・・・ぶははは、甘い奴らだわい。」 ウーノは折れていない方の腕で素早く懐から袋を取り出し、袋に口をつけて勢いよく『何か』を吸い込んだ。
数秒後、ウーノの体に異変が起きた。見た目はほとんど変わらなかったが、ウーノの表情をよく見ると、左右の目の焦点が合っていないようであった。
ウーノ 「ぐぁぁあ・・・!」 ウーノは雄たけびをあげてギリーを視界にとらえると、そのまま体当たりするように突っ込んできた。
テオ 「気をつけろギリー、様子がおかしいぞ!」
ギリー 「なぁに、こんな奴何度やったって勝てますよ!」 ギリーはそう言って、突っ込んできたウーノに対して体を低くし、腹をめがけて拳を放った。
ズン!!拳が腹にぶつかる鈍い音が聞こえた。普通の人間ならひとたまりもないであろう。
だが、ウーノの突進の勢いはまったく衰えず、そのままギリーごと壁にぶつかるまで止まらなかった。
ギリー 「ぐはっ!な、なんだコイツ、すごい力だ!うぐぐぐ・・・。」 ギリーは思いもよらない衝撃を全身に受け、思わず苦しそうな声をあげた。
ウーノ 「グルルルッ・・・!」
ギリーは今度は密着するウーノの頭をめがけて拳を振り下ろした。
ゴスッ!ガッ!ギリーは何度も拳を打ち下ろしたが、それでもウーノはギリーの体を放さず、そのまま壁に押しつけて潰そうとしている。
テオ 「あいつは痛みを感じないのか!?」 テオは深手を負ったはずのウーノの底力に驚いていた。
リヨン 「テオさん、このままじゃまずいよ!加勢しよう!」 リヨンは途中で研究員から奪った警棒を握りしめる。
テオ 「あ、ああ、いくぞ!」
テオとリヨンがギリーに加勢しようとするところであった。
ギリー 「ま、待ってください!そいつは卑怯というもの!ふんぬっ、ぬおおぉ!」 ギリーはありったけの力をこめてウーノの体を持ち上げたのだった。
ウーノ 「な!?」
ギリー 「くらえっ!」
ギリーはウーノを頭から地面に叩きつけた。大きな鈍い音がしてウーノの体が地面に沈み、そのままピクリとも動かなくなった。
リヨンが恐る恐るウーノに近づいてみると、かろうじて息をしているものの完全に気を失っているようだった。
ギリー 「ぜぇっ!ぜぇっ!」 肩で息をしたギリーがテオ達に向けて再び拳を上げてみせた。
そして、すべての力を使い果たしたのか、そのまま壁を背に腰を下ろしたのだった。
リーン 「本当にガオン族の力ってのはすごいもんだな・・・。」 闘いの一部始終を見ていたリーンが感心して言った。
テオ 「それでこそガオン族だ。だが俺も少し冷や冷やしたぞ。ギリーよ、しばらくここで休んでいろ、戻るときに合流するぞ。」
ギリー 「ちょ、ちょっと油断しただけですぜ・・・。ふぅ・・・。(とんでもない力だ。それに何度殴ってもまったく効かないようだった・・・。)」
ギリーはテオ達に手を振って、ここで待つという合図をしてみせた。
テオ 「ああ、相手も強かったと思うぞ。(何かを吸い込んだとたん、様子がおかしくなったな・・・。ひょっとするとあれは・・・。)」
リヨンが床に倒れているウーノの体を調べてみると、鍵の束を見つけた。
リヨン 「この鍵は牢の鍵じゃないかな?目の前の大きな扉の鍵ではなさそうだよ。」
リーン 「・・・よし、次はこの大きな扉だ。鍵がかかっているようだな。テオさんよ、一応聞くが、ぶち破れるか?」
テオ 「やってみよう。」
すかさずテオが門番のリザート族を気絶させたように扉に向かって体当たりをするが、扉は頑丈でびくともしなかった。
テオ 「ふん、これだけ分厚い扉は逆に怪しいな。きっとこの扉の中だ。しかし思ったよりずっと頑丈だぞ。なんとか鍵を開けられないか?」
リーン 「ここは俺の出番だな。(ガオン族の体当たりでもこの扉は壊せないようだな・・・。)」
リーンが前に進み出て工具を取り出した。ガチャガチャと鍵を開けようとする。
リヨン 「早く早く!」
リーン 「うるせぇな、急かすんじゃねぇよ!もうちょっと待ってな。ここをこうして、こうやって・・・。」
リヨン達が焦った様子で見守る中、リーンは落ち着いた様子で作業を続ける。するとまもなく、ガチャリと音がして鍵が開いた。
ギィィィという音とともにゆっくりと扉が開く。テオとリヨンはすぐに中へ飛び込んだ。薄暗い地下の壁に灯篭がついており、辛うじて様子がうかがえた。
女性の声 「今度は誰なの?」
聞き覚えのある女性の声がした。
リヨン 「そ、その声はミトラかい!?」
ミトラ 「リヨンなの?」
男性の声 「リヨンだって!?」
リヨン 「あ、トマス兄さんじゃないか!」 リヨンが声のした方を見ると、牢の中にミトラとトマス、倒れているルクセン、それにガオン族の女性とカモイ族の女性がいた。
リヨン 「ミトラ、やっぱり捕まっていたんだね。トマス兄さんまでこんなところにいるんなんて!ルクセンさんは無事なの?」
ミトラ 「ええ、気を失っているけど、なんとか無事よ。」
リヨン 「よかった。」 リヨンは全員が無事であることに、ひとまず安心した。
ジル 「テ、テオ!なんでここに!?」 ジルはテオの姿を見て思わず叫んだ。
テオ 「ジル、やはり捕まっていたのか!ガオン三戦士の娘とあろう者が情けないな。」 テオもジルの姿をみると安心して皮肉を言った。
ジル 「本当に面目ないわ。でも、よく助けにきてくれたわ。ありがとう。」
テオ 「まあな、お前とは小さい頃からの付き合いだ。お前に何かあったらと思うと、居ても立っても居られなくてな。」
リヨンはウーノの持っていた鍵で牢を開けた。牢が開くと、暗がりの中で彼らはお互いの無事にほっと一息ついていた。
リヨン 「あ・・・、君がレイアかい?」 リヨンは牢にいた小さなカモイ族の女性に話しかけた。
レイア 「ええ。あなた達は一体・・・?」
リヨン 「ダンテさんに頼まれたんだ。『娘を助けてくれ』と。」
レイア 「よかった!パパは無事なのね?」
リヨン 「・・・。」
レイア 「無事なのよね・・・?」
リヨン 「ごめん、アカデメシアにやられた傷が深くて・・・。」 リヨンはそう言って首を横に振った。
レイアはダンテの死をあらためて聞くと、どっと大粒の涙を流した。家を襲われたときの状況から最悪の事態は覚悟はしていたものの、最愛の家族が亡くなったという知らせに、どうしても涙をこらえることはできなかった。
テオ 「事情はわからんが、どうやら悲惨な目にあったのだな・・・。」
ジル 「レイア、辛いかもしれないけど、とにかく元気をだして!私が仇をとってやるわ!」
レイア 「・・・。」
トマス 「とにかく家に帰るんだ。確か路地帯だったよな?きっとカモイ族の仲間がレイアの無事を待っているさ。」
リヨン 「そうだよ。路地帯の皆が君を助けようと舞台広場に集まっていたんだ。それで、この塔に詳しいリーンさんがここまで案内してくれたんだよ。」
レイア 「うう・・・。リーンさんが?」
テオ 「皆、とにかくここは危険だ。話は後にして早く外へ行こう!路地帯まで行けばひとまず安心だ。行くぞ!」 テオは号令をかけた。
その時-。ギィィィ・・・。バタン!ガコン!
重いものがゆっくり動く音と、その後に奇妙な音がした。それは入り口の大きな扉がしまり、外から閂がかかる音であった。
トマス・テオ・ジル 「扉が!?」「なんでだ!」「嘘でしょ!?」
さっきまで開いていた入り口の扉は閉ざされてしまっていた。
リヨン 「あれ・・・?」 リヨンはキョロキョロとあたりを見回した。
トマス 「おい、どうしたリヨン?」
リヨン 「リーンさんがいないんだ!」 リヨンはこの場にリーンがいないことに気がついた。
リーン 「黒き特質を受け継ぐ者達よ。これほどの数が一度に集まるとは、俺にもツキが回ってきたのかもしれんなぁ。」 扉の外からリーンの声がした。
テオ 「な!?扉を閉めたのはリーンか!なんの真似だリーン!」 テオは閉ざされた扉に向かって叫んだ。
リーン 「魔の胞子を吸ったウーノを倒すとはたいしたもんだ。正直驚いたさ。しかし、自分から地下に入ってくれるなんてな。」
リヨン 「リーンさん、どうして!?」 リヨンも信じられないという表情で叫んだ。
リーン 「我ら路地帯の人間が生き残るためには、ドーリアを提供してくれるアカデメシアへの協力が必要なんだよ。」
レイア 「そんな・・・。本当にリーンさんなの!?」 レイアはわけがわからず困惑した。
リーン 「同じカモイ族のレイアには悪いがね。黒き特質を受け継ぐ者は、あの方にとって重要でな・・・。私がネクロマンシーをダンテの家に手引きして、ダンテはともかく、君だけは傷つけないようにさらったのさ。いや、実際にはすぐに手術をするから生死は問わないんだがね。」
ジル 「よくわかんないけど、ここまでテオと一緒に来たっていうカモイ族もアカデメシア研究員の一味なのね!」
リーン 「そうさ。秘密の多い塔の内部の修繕なんて大事な仕事を、関係者でない者に任せると思うのか?それにしても、仲間を助けようと周りを疑わずに地下に入っていくなんて馬鹿な奴らだな。この分厚い扉が閉まっていれば簡単に逃げ出すことはできまい。」
テオ 「き、貴様ぁ!」
ドスン! テオは扉に体当たりをしたが、やはり分厚い扉を壊して開けることはできなかった。
テオ 「ぐぬぬぬ・・・。はっ!そうだ、ギリー!近くにいるか?気をつけろ!リーンが裏切ったぞ!」 テオは外に聞こえるように大声で叫んだ。
リーン 「無駄さ。満足に動くこともできないアイツなら、とっくに研究員に捕まっているさ。それより、あまり暴れないでくれよ?無駄に怪我をされるとアルキス様の手術に影響しちまうかもしれないからな。」
テオ 「くそう!」 テオは力一杯扉を叩いた。




