■第12話:少数精鋭 ~ the elect few ~
路地帯の舞台周りには人だかりができていた。集まっていた者のほとんどが小柄なカモイ族(長爪人種)である。舞台の上にいつもの歌姫の姿はない。人だかりの中にいた1人のカモイ族の男性が舞台に上って大きな声で叫んだ。
ドラン 「もう我慢できねぇぜ!平和に暮らしている俺達のところに土足で上がり込んできて、ダンテさんの命まで!」
リーン 「ドラン、早まってはダメだ。俺達より大柄な種族との戦いは無理だ。」 舞台の上で騒ぎたてるドランを、ベテラン大工のリーンが止めに入った。
ドラン 「止めてくれるなリーンさん!リーンさんは悔しくねぇのか!」 ドランの興奮はおさまらない。
するとそれに続いて別のカモイ族達も騒ぎ始めた。
若い男 「そうだそうだ!あんな薄気味悪い奴らにやられっぱなしで済ませるもんか!ダンテさんの仇は俺らでとるんだ。なぁ、バン婆さん?」
バン婆 「ああ、十数年前のミーティアの件もあるさね。ただ、今回はさらわれたレイアを助けるのが先さ。」 年老いたカモイ族のバン婆は答えた。
小太りの男 「それにしても、なんでレイアはさらわれたんだ?」
バン婆 「聞いたことがあるさね。昔、ミーティアは黒き爪をもっていて、『アカデメシアの人間研究をする者どもに突然さらわれた』とダンテが言っておったわ。おそらく、レイアも灰色の爪だからさわられたのさ。」
年配の男 「なんてことだ。それじゃダンテさんがあまりにも不幸ではないか。やっぱりアカデメシアの野郎どもは許せねえ。俺らで一泡吹かせてやるだぁ。」
痩せた男 「でもよう、本当に非力な俺らだけで大丈夫かいな?武器を持った門番もいるでねぇか。それに、今やアカデメシアは、いろんな種族が何十人もいるっていうし、戦いになったら勝てないかもしれんぞ。俺達は無駄に争うこともなく路地帯でやってきたでねぇか。」
年配の男 「むむむ、じゃあどうにかレイアだけでも助けるんだ。」
小太りの男 「どうやってさ?」
ドラン 「正面から行って入れてもらおうぜ!」
痩せた男 「それは無理だ。中には加入希望者しか入れんし、噂じゃアカデメシアに加入を希望しない者が忍びこんだりすれば捕まって牢屋に入れられ、二度と表に出さねぇって言うでねぇか。」
ドラン 「じゃあレイアはどうすんだ!助ける気があるのかよ!」
話がまとまらないまま路地帯の住人達は思い思いに喋り始めた。こうなると収拾がつかない。その状況をみかねたバン婆は次のように言った。
バン婆 「ここで騒いでいても意味がないじゃろう。とにかく、アカデメシア本部に乗り込む者だけ、立候補で決めたらええわさ。」
年配の男 「あ、ああ。それがいいな。さすがバン婆だ。誰がいつ乗り込むか決めるべ。それじゃ聞くぞ?乗り込む勇気のある者は誰だ?」
一同 「・・・。」 あれだけ騒いでいた者達が急に押し黙ってしまった。
リーン 「なんだ?誰も立候補しないのか?」
実は、路地帯の者達は少なからずアカデメシアに対する怒りはあったものの、日々自分達が生きていくのに精一杯であり、本当に乗り込む覚悟をもっていた者などいなかったのだ。一番に声をあげていたドランですら、手を挙げるのをためらっていた。
リーン 「だったらやめだ。せっかく中に入ったことがある俺が先導してやろうと思ったのによ。臆病者の集まりだったってわけか。」 リーンは騒いでいた者達を馬鹿にしたように見渡した。
一同 「・・・。」 悪態をつくリーンに言い返せる者はいなかった。
このまま解散してしまうと思われたところに、見慣れない姿が割って入ってきた。それは塔の外側を偵察して路地帯に戻ってきたリヨンであった。
リヨン 「話があるんだ!」
ドラン 「おめえはウィング族の旅人じゃねぇか。どうしたんだ?」 ドランはリヨンの姿を見て不思議そうに言った。
見慣れない人間が急に話に入ってきたため、他の者達もポカンとした顔をしている。
リヨン 「僕が塔の中へ忍びこむよ。確かリーンさんは昔、塔の内部の修繕をしたって言っていましたよね。知っている限りの情報を教えてくれませんか。」
リーン 「なんでお前が忍びこむんだ?ダンテさんを助けようとしてくれたのはありがたいが、他種族の力は借りんぞ。」 リーンはよそ者を疑うように言った。
リヨン 「この際、全部説明するよ。実は、僕の双子の妹のミトラという女性は、僕と同じように灰色の翼をもっていて、 旦那さんと一緒にアカデメシアに捕まっているかもしれないんだ。」 リヨンは自分の灰色の翼を皆に見せた。
バン婆 「なぬ?灰色の翼とな?」
リヨン 「うん、ミトラの家は焼かれ、僕もミトラ達を探しにブレメンに来るまでの間に、街道で白装束達に襲われたんだ。アカデメシアは灰色の体をもっている人間をさらっている。そして何らかの悪さをしているのは間違いないんだ。」
一同 「・・・。」 皆、リヨンの言葉を静かに聞いていた。
リヨン 「そう思ってこのブレメンまで来たんだけど、ダンテさんの家から白装束達が慌てて逃げていくのを見つけて、何が起きたのかと確認したら、家の中でダンテさんが深い傷を負って倒れていたんだ。そして息を引き取る間際のダンテさんと、娘のレイアを助ける約束をしたんだよ。」
バン婆 「なんと、そうじゃったか・・・。」
リヨン 「信じてくれる?まぁ、信じなくてもいいけど・・・。リーンさん、とにかく僕が行くから塔の中について詳しく教えてよ。」
リーン 「・・・。」
リヨン 「ねぇってば!」
リーン 「ああ、わかったよ。だが、その必要はねぇ。」
リヨン 「え?」
リーン 「俺も行くからさ。」 リーンは観念したかのように言ったのだった。
ドラン 「よし、それなら俺も行くぞ!」 ドランは勇気を振り絞るように言った。
若い男 「やっぱり、これ以上は奴らの好きにはさせねぇ。レイアは返してもらおう。俺らの手でこの路地帯の歌姫を助けるんだ!」
一同 「そうだそうだ!」 話を聞いていた他のカモイ族達もリーンやドランの発言に賛同した。
リヨン 「ありがとう!でも、もしアカデメシアと本格的な戦いになったら路地帯の人達は大丈夫なの?戦えない人達も巻き込まれてしまうかもしれないよ?」
一同 「う・・・。」 再び皆は黙ってしまった。
太い声 「・・・話は聞かせてもらったぞ。」
リーン 「だ、誰だ!?」
リーン達が声のする方を向くと、この狭い路地帯には似つかわしくない、2つの巨体が立っていた。
テオ 「少数精鋭、戦いになっても誰も巻き込まれないような、よそ者で腕っぷしが強い者が必要なのだろう?俺達もたまたま通りかかった旅人さ。旅人が暴れても路地帯の者に迷惑はかからんだろう。」
2つの巨体とは、ガオン族のテオとギリーであった。テオはニヤリと笑うと話を続けた。
テオ 「うちの村の『おてんば姫』が、ひょっとすると塔の中に入ったかもしれなくてな。ただ、おたくらの姫と違って、たださらわれてるって可能性は少ないと思うんだがな。」
ギリー 「そうそう。あんなゴツイ姫なんて誰も好んで・・・あ、」 ギリーは咄嗟に口をふさぐ。
テオ 「ギリー、何か言ったか?」 テオはじろりとギリーをにらむ。
ギリー 「い、いえ・・・。」
テオ 「さて、お前達と俺達の目的は一緒だろう?俺達は少しばかり気性が荒いかもしれないが、むこうから仕掛けてこなきゃ基本的に乱暴はしない。」
一同 「・・・。」
リヨン (ガ、ガオン族だ・・・。アモリスと争っているらしいけど、助けにくるアポロ達と会ってしまったら大丈夫かな?) リヨンは少し別の心配をした。
テオ 「な?俺達も塔の中へ案内してくれないか?協力するぜ。」 テオがリーンに向かって言った。
リーン 「・・・話はありがたいんだがな。いきなり現れたおめえ達を信用する理由が無い。」
テオ 「理由ねぇ・・・。さらわれたカモイ族の娘は灰色の爪と聞いたが、きっとこんな色なのだろう?」 テオが口の中を見せると、灰色の牙がキラリと光った。
リーン 「ア、アンタも灰色の・・・。」
テオ 「探しているガオン族の女も俺と同じ灰色の牙でな。なんとしても村に連れて帰らなければならんのだ。」
リーン 「まったく、いろんなことが起きるな。わかった、忍び込むには夜の方が都合がいいだろう。今晩、俺とウィング族の兄ちゃんとガオン族の2人の、4人で行くか・・・。ドラン、お前は留守番だ。」
ドラン 「そ、そんなぁ・・・。」
リーン 「もしもの時は、『よそ者』が俺に無理やり案内させたことにして、路地帯が奴らに恨まれないようにするんだ。お前さん達、悪いがそれでいいな?」
テオ・ギリー・リヨン 「構わない。」「わかった。」「僕もそれでいいよ。」
リーン 「じゃあ、とりあえず俺の家で作戦会議といくか。」 リーンは決心したように言った。
4人はいったんリーンの家へ移動し、それぞれの事情を説明したのだった。
リヨン 「ふぅん、じゃあ、テオさん達は、ジルという女性が塔の中にいると思っているんだね?
テオ 「そうだ。どうも奴らは怪しい。確証は無いんだがな、塔に近づいただけで雨でもないのに髭がピクついたのさ。」
ギリー 「酋長の勘は当たるんだぜ。この前も、酋長が『嫌な予感がする』と言いながら歩いていたら、誰かが捨てたドーリアの食べカスに足を滑らせて川に落ちたんだから。あの時は皆で引っ張りあげるのに大変だったんだぜ!」
テオ 「ギリーよ。頼むから少し黙っていてくれ。」
夜-。
複数の声 「準備はいいな?」「ああ。」「門番は1人のようだな。」「そうみたい。」
アカデメシア本部の塔の近くでヒソヒソと相談する4つの影があった。それはカモイ族のリーン、ウィング族のリヨン、ガオン族のテオ、それにギリーであった。
リーン 「おそらく、おそらくだけどな。人を捕まえておくとしたら地下だ。」 リーンは他の3人に向かって静かに話す。
テオ 「それは確かなのか?」
リーン 「少し前、アカデメシアに頼まれて2階から6階までの石壁を修理したんだが、上から下までバタバタと移動が激しく、かなり忙しくてな。ある時、地上階を2階だと思って勘違いしちまってよ。」
リヨン 「ふんふん、それで?」
リーン 「地上階に下りようと思って、もう1つ階段を下りたら、分厚い扉があったんだ。何かと思って見ていたら研究員に、『ここは立入禁止の地下だ』って、すごい剣幕で追い返されてよ、ひょっとして見られたらまずいもんがあるんじゃねえかと思ったんだ。今思えばあの分厚い扉は人を捕まえて閉じ込めておくにはもってこいだ。中から大声で叫んでも外には聞こえないと思う。」
テオ 「ふむ。わかった地下だな。よし、いくぞ。」 テオはそう言うと迷いなく門番のいる入り口にさっさと近づいていった。
リヨン 「え、テオさん?ちょ、ちょっと!」
門番 「な、なんだお前は?」
門番は背中に固い鱗を持つリザート族(有鱗人種)のようで、テオに気がつくと持っていた警棒を構えた。
テオ 「見りゃわかるだろう。通りすがりの旅人だよ。中へ入れてくれるかい?」
門番 「何をばかな、こんな時間に。見学希望者なら札を見せ・・・。ぐあっ!」
喋っている途中の門番に対してテオが勢いよく当て身をすると門番は声も出せずに吹っ飛んで壁に激突し、そのまま気絶してしまった。屈強そうな門番もガオン族最強と言われるテオにかかれば一捻りであった。
テオ 「ふん、他愛もない。ギリーには悪いが、帰りの道案内以外にはお前の出番はないかもな。」
ギリー 「さすが酋長。」
リーン 「なんて気性の荒い旅人だ・・・。怖いもんだな。」 リーンが驚いた表情を見せる。
リヨン 「すごいや。」 リヨンも素直に感心してしまった。
声 「あっ!お前達そこで何をしている!誰かー!」 別の研究員がリヨン達を見つけ、大声で叫んだ。
リーン 「まずいな、見つかったか。急ぐぞ。」
リーンを先頭に4人は塔の中に入り、地下に下りる階段へ向かった。途中、何人かの研究員に遭遇したが、テオ1人で瞬時に気絶させてしまった。
リーン 「あったぞ。あれが階段だ。」
4人は急いで階段を下っていった。
その頃-。
研究員 「アルキス様!大変です!侵入者です!」 塔の上の方の階にいるアルキスを呼ぶ研究員の声がする。
アルキス 「なんだ、こんな時間に騒々しい。」
研究員 「た、大変です。研究員ではない4人組が、門番を気絶させて殴りこんできました!巨体で、えらく腕の立つ者がいるようで、警備の研究員も手当たり次第やられています。」
アルキス 「巨体だと?さてはガオン族だな。あいつらはプライドばかり高く、争いの好きな頭の悪い連中だ。放っておけばいいさ。」
研究員 「へ?し、しかし、奴ら、地下の牢の方へ行ってしまったのですが・・・。」
アルキス 「どうせ路地帯の奴が裏で手を引いているのだろう。ならば私の一番の手下、アイツが相手をする。うまくやるはずだ。」
研究員 「は・・・。アイツというとウーノですか?」
アルキス 「もう1人いるのさ。さて、多くの黒き特質を手に入れ、これから手術で忙しくなる。もっと魔の胞子が必要になるな。最上階の研究室へ行くぞ。」




