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フレームウォーズ!  作者: old_solider
1/1

僕のトラウマ

「いや、はっ、これは死ぬ、はっ、ダメ死ねる、はっ」



僕は今、森の中にいる。


方向も時間も一切把握できない森の中で、ひたすら走っている。


全身が小さな傷まみれになっていて、昨日までは新品同様だった制服は泥まみれで所々が破れている。



『ほら急げ!捕まったら死ぬぞ!』



たった今僕を追いかけている奴らの名前は、ゴブリン。


名前といっても、それは種族的な名前なのであって、個人の名前ではない。


容姿は小柄で醜悪、腰に布切れ一丁というゴブリンの中のゴブリン。戦い方は至極単純で、獲物を囲んで叩く。


なんでも、捕らえた獲物を苦しませた末に煮込んで食べてしまうという。


この森、通称エジット森で最も有名なモンスターだ。


本来なら魔法を用いて用心して戦えば苦労するモンスターじゃない、らしい。


らしいけど。



『…なぜお前は魔法が扱えない!?エルフだろう!?』


「使えないものはしょうがないじゃないか!はっ、はっ、ああもうこわいな!」



エルフの投げたのであろう棍棒が僕のすぐ隣を通り過ぎていき、木の根と当たって音を立てる。


僕は魔法を放つことができない。刃物の扱い方はある程度教わってるけど、どうあがいても数には勝てない。


世の中にはモンスターを拳や包丁で狩る人がいるらしいけど、それはごく少数だ。



「はっ、はっ、だめだ、方角が掴めない、死ねる、はっ」



数分いや、数十分だろうか。そろそろ体力と足が限界だ。





そもそも、なぜこんなところで、こんなゴブリンの大群に追いかけられて死にかけているのだろうか。


走りながら、簡単に頭の中を整理する。


元をたどれば、この森の中に入ることになった理由はただ一つ。学校の入学試験だ。


その試験の内容は、"エジット森に自生している薬草を持ち帰る"というもの。


その薬草は、村から数時間歩いた場所で群になって生えていて、特に危険なモンスターもいないらしい。


本来なら僕もその試験を昨日のうち終わらせて、今頃は図書館で静かに本を読んでいるはずなのに。


道を間違えた上に道中で足を滑らせて、崖下に身を落としてしまったのだ。


幸い、崖がそこまで高いものではなく、崖下に葉が茂っていて落下を緩めてくれたことで命は助かった。


けど、常に持っていた配られた地図は風に乗って彼方に消えた。



「はっ、そうだよ、地図さえ、地図を落とさなきゃ、今頃はもう、ああ痛い!あ゜っ!」



子供でしかない僕が必死に逃げていても、森の狩人であるゴブリン達からは逃げられないらしく。


ゴブリンの投げた棍棒の一つが、必死に働かせていた左足に直撃した。


それだけならよかったのかもしれないが、直後に背中に棍棒が直撃してしまい、その場で倒れこんでしまった。


あぁ。ダメだ、これは。



『マッズイ!早く立てよ殺されるぞ!』



僕の頭上で宙を舞っているタコモドキが声を荒げて言う。



「いや、待って足が動かナ”ッ」


『ああクソッ!』



震える足を急かしてその場で立ち上がろうとするも、後頭部に強烈な衝撃を受けた。


ああ、これは身をもって体験したことがある。おそらく頭を棍棒で打たれたのだろう。


この痛さは学校でよく体験しているからすぐにわかるんだ。



(そういえば、ゴブリンに殺されかけた英雄がいたんだったっけ)


『おいーーー!ーー!ーー逃げーー!』



顔が液体で濡れていくのがわかる。視界はもう途切れ途切れになっていて、意識も朦朧としてきた。


多分、僕はもうゴブリン達に囲まれているのだろう。ゴブリン達に捕まったら最後、どうなるんだったかな。



『ーー!』


(捕まったら最後、なぶり殺しにされてから、鍋でぐつぐつにされて死ぬんだったかな)


「…し、しにたくな、いなぁ」



無意識のうちに口が死ぬことを拒んでも、視界の端に映るゴブリンはじりじりと近づいてくる。



(いや、でも待てよ?その英雄って最後は助かったはずだ)


(どうやって助かったんだったっけ、思い出せない)



ドサッと。僕の目の前にゴブリンが現れた。


いや、現れたのではない。このゴブリンは僕同様に倒れていて、後頭部には煙が上がってる。


すると、ゴブリン達が騒ぎ始めた。地面に伝わる足音から、何かの儀式で踊り始めたのだろうか。



(確か、その小さな英雄は疲れ果てて、倒れて、それで…)


「ーー!---!」



聞き覚えのある声が森の中に広がる。この声は確か、誰だったかな。


地面を伝って、何かが倒れる音が聞こえた。一つ、また一つと、同じ音が聞こえてくる。



(最後は、確か、ああ、思い出した)


「ーーー!」


やがて、森の中に静寂が取り戻されていった。先まで響いていた地面を踏む音は減っている。


すると、体が何者かに優しく抱かれる感覚を覚えた。



(ーーー師匠に助け出されたんだった)



辛うじて映る僕の目の前には、優しくも厳しい、僕の教師の顔が映っていた。


そこで、僕の意識はプツンと途切れた。

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