ニンゲンとゴリラのママはジャングルで暮らしています。
子供向けに作ってみました。
でも大人の皆さんも試しに読んでみてください。
とあるジャングルに一匹のメスのゴリラが暮らしていました。
ゴリラには家族がいません。
パパやママはとっくの昔に死んでしまって、兄弟も子供もいません。
ですが、それを寂しいと思いませんでした。
ジャングルにはたくさんの友達がいます。
なんでも知っている物知りの狼、勇敢でみんなから頼られる虎、身軽で愛らしい鹿、七色の羽を羽ばたかせる極楽鳥、木のように長い体を持った大蛇、みんなゴリラの友達です。
みんなで遊んだり、食べ物を食べたり、楽しい毎日を過ごしているから少しも寂しくはありません。
そんなある日、ゴリラがバナナを探してジャングルを歩き回っていると、遠くの方から聞き慣れない鳴き声が聞こえてきます。
「オギャー! オギャー!」
ゴリラはおそるおそる鳴き声のする方に向かっていきます。
すると、そこにはいたずら者の山猫がいました。
そして山猫の眼の前には白い布で包まれた小さくて丸くて薄桃色の肌をした生き物がいます。
「オギャー! オギャー!」
「うるさいなあ。こんなのがいちゃ昼寝もできないよ。
もう食べてしまおう!」
そういって山猫は大きな口を開けて、小さな生き物を食べようとしました。
「待ちな。私のナワバリでなにやってるんだい?」
ゴリラは山猫の首根っこをつかんで止めました。
「ひいい! ご、ゴリラさんじゃないですか!
いやあ、これはおはずかしいところを」
山猫は冷や汗を流しながら笑いかけます。
「あっちの方の川に死んだ魚が打ち上げられてた。
食べるならアレにしな」
「ええ〜、死んだ魚はくさくて気持ち悪くて……
とてもグルメなボクが食べるようなものでは」
「ガタガタぬかすんじゃないよ!
私がお前を食ってやろうか!」
「ひいいいい! おたすけ〜〜!」
山猫はいちもくさんに川に向かって逃げていきました。
ゴリラは取り残された小さな生き物を見ます。
とても小さいですがその生き物にはゴリラのように手と足が2本ずつあって、指が5本あって、目や鼻や口もどことなく似ています。
「これはなんという生き物だろう?」
興味を持ったゴリラはその生き物を抱き上げます。
力を入れると壊れてしまいそうなので、そうっとそうっと優しく包み込むように抱えます。
ゴリラはその小さな生き物を物知りの狼のところに連れていきました。
「ああ、これはニンゲンだな。
いたずら者の山猫が拾ってきたということは捨て子かなにかじゃろうな」
物知りの狼はひと目見て言い当てました。
「ニンゲン?」
「ジャングルの外にいる生き物だ。
昔ワシも世話になっていたこともある。
利口で仲間には優しいが他の動物には恐ろしい生き物だ。
虎や象だってニンゲンにはかなわない。
だが、コイツはまだ赤ん坊でとても弱い。
放っておけば死ぬだろう。
死んだらワシの飯にしていいかの?」
ゴリラは腕に抱えたニンゲンを見ます。
ニンゲンはその小さな手でゴリラの指をつかんでいます。
そのすがたにゴリラの胸は熱くなってしまい、
「冗談じゃないね。
コイツは私のモノさ!
私がコイツを育てるんだ!
邪魔したらぶっ殺すよ!」
そう言って狼のもとを去りました。
さて、ニンゲンを育てようと思ったゴリラでしたが、ニンゲンが何を食べるのかよくわかりません。
とりあえず、自分のお昼ご飯のバナナやりんごを与えましたが小さな口にはとても入りません。
それどころか歯も生えていないので口の中に入ったとしても食べられそうにはありません。
「こまったなあ、どうしたものかね」
ゴリラはこまってしまいました。
すると軽やかに鹿が現れました。
「やっほー、ゴリラさん。
なにをこまっているんだい」
ゴリラは鹿にニンゲンがご飯を食べられないことを言いました。
「あはは、そりゃあ無理だよ。
その子、まだ赤ん坊だし。
よければアタシのミルクを分けてあげようか?」
そういって、鹿は自分のお乳を差し出します。
赤ん坊を近づけると、飛びつくようにお乳をくわえ、ミルクを飲みだします。
「全部のんじゃダメだよ。
うちの子どもたちの分は残しておいてね」
ニンゲンはお腹いっぱいになるまで鹿のミルクを飲みました。
すると、ニンゲンは満足そうに寝息を立てて眠ってしまいました。
夜になりました。
ジャングルの夜は危険でいっぱいです。
夜の闇にかくれて生き物を襲う動物がたくさんいるからです。
ゴリラは強いので襲われることはありませんが、ニンゲンはそうではありません。
ゴリラがウトウトしているといろんな動物がニンゲンを食べようと襲ってきます。
ニンゲンを抱えて逃げ回ったゴリラは虎のすみかに辿り着きました。
「虎さん! お願いだ!
この子を守ってやってはくれないか?」
ゴリラは虎にお願いしました。
「やれやれ。得にならないことはしたくないんだが、アンタの頼みなら聞かないわけにはいかないな」
虎はゴリラとニンゲンが同じ住処で寝ることを許してくれました。
たとえ眠っていたとしても虎のすみかで悪さをした動物に命はありません。
ニンゲンを狙っていた動物はため息をついて、虎のすみかから離れていきました。
それからしばらくの月日が立ちました。
ニンゲンはミルクだけでなく柔らかい果物を食べ、ヨタヨタと2本の足で歩けるくらいになりました。
「まったく。成長が遅い生き物だねえ。
こんなんじゃいつまでたっても私の元からはなれられないじゃないか」
ジャングルの動物たちは一人で生きていけるようになると親からはなれてくらします。
なのにニンゲンはまだまだゴリラの世話なしには生きていけません。
「マッマ、マッマ」
でも、最近ニンゲンはゴリラのことをこんな風に呼ぶのです。
ヨタヨタとおぼつかない足取りでゴリラに近づいて胸に抱きつくのです。
その姿を見てしまうとゴリラは顔をゆるめて、
「まっ。もうしばらくは一緒に暮らしてやってもいいか」
と、ニンゲンに語りかけるのでした。
ある日、ニンゲンは何も食べなくなりました。
心配したゴリラはニンゲンの体をまさぐり、おでこに手を当ててみます。
「アツい! まるで火のようだ!
このままだと体が燃えて死んでしまう!」
ゴリラはニンゲンを抱え、雄叫びを上げながらジャングルを走り回ります。
「誰か! 誰か! この子を助けてあげてくれ!」
必死でゴリラが叫んだおかげで土の中で眠っていた大蛇が目を覚まして現れました。
「ううっ! 寒い!
ゴリラ〜、こんな寒い日に起こさないでくれよ」
「すまないね。だけど大変なんだ!
この子が火のように熱くて、今にも燃えてしまいそうなんだ」
「ふーん。それは大変だな」
大蛇はとぐろを巻いて考えます。
「いいこと思いついた。
その子どもは体を冷やしたい。
俺は体を温めたい。
だったら俺が巻き付いてその子を冷やしてやるよ」
そう言って大蛇はニンゲンの体にゆるく巻き付きました。
「強く締めちゃダメだよ。
その時はアンタの体を引きちぎるからね」
「おお怖い。そんなことしないよ。
はああ、暖かい。
生き返るなあ」
気持ちよさそうな大蛇につられるかのようにニンゲンの体の熱も冷め、次第にごはんを食べられるようになりました。
物知りの狼になんでニンゲンがこんなことになったのかと聞くと、ニンゲンは寒さに弱いからだそうです。
そのくせニンゲンは毛皮に覆われているわけでもないので、服というものを着るのだとか。
ゴリラはニンゲンが着れるものを探しに、ジャングルを歩いていると極楽鳥に出会いました。
極楽鳥に服がほしいと相談すると、
「だったら僕の抜けた羽を使ってみれば。
いっぱい集めれば温かいと思うよ」
ゴリラは極楽鳥の羽を集めて、木の液でニンゲンの体に貼り付けました。
たくさんの羽を貼り付けたニンゲンはとてもご機嫌でたくさんゴリラに甘えたのでした。
それからまた、しばらくの時が経ちました。
ニンゲンはとても元気に成長し、体の大きさも倍以上になりました。
飛んだり跳ねたり笑ったり、時には自分で果物を取りに行ったりしてゴリラと仲良く暮らしていました。
「おまえもりっぱになったね。
もうひとりでも生きていけるだろう」
ゴリラがそういうとニンゲンはゴリラの胸に抱きついて、
「ママと一緒じゃなくちゃイヤだ!
ぼくはずっとママと暮らす!」
そういって赤ん坊の頃のように泣きわめきます。
「まったく、これじゃあいつまでたっても一人じゃ生きていけないね。
しかたないから一緒にいてあげよう」
すると、ニンゲンはパッと笑顔になってゴリラの頬にキスをしました。
ゴリラははにかみながら、こころの奥底でホッとしたのです。
ニンゲンはどんどん賢くなっていきます。
死んだイノシシの皮を固くて鋭い石で剥ぎ取り、首や腕を通す穴を開けて服を作りました。
硬くて長い草をつなげて、先に削った石をつけて川にいる魚を釣り上げるひもを作りました。
ジャングルの中にこんなことをできる動物は他にいません。
そして、これからもずっと賢くなっていくように思えます。
そのことがゴリラにとってはニンゲンが遠くに行ってしまうように感じて少し寂しく思えました。
それからしばらくして、ジャングルの中にライオンや象といったジャングルの外で暮らしている生き物が住み始めるようになりました。
「ニンゲンが俺たちの住処をうばったんだ!
取り返そうと脅したら、バーンと音が出る棒で仲間を殺していくんだ!
もうあんなところでは暮らせない!」
「私達なんか何もしていないのに殺されて川や牙を奪われていくんだ!
くそ! ニンゲンめ!
殺してやりたい!」
ジャングルにやってきた動物たちは口々にそう言いました。
虎はそんな彼らの話を聞いてジャングルに住むことを認めましたが、ゴリラはいやな予感がしました。
そしてその予感は的中します。
「おい! このゴリラ、ニンゲンを育てているぞ!」
「本当だ! おいそのニンゲンをよこせ!
私が踏み潰してやる!」
ライオンや象はゴリラに詰め寄ります。
「やめろ! この子はアンタたちを殺したりなんかしない!
とても優しい子なんだ!」
「信用できません!
その子どもは鋭い石で物を切ったり、不思議なひもで魚を捕らえたりしているじゃないですか!
そのうち私たちを殺すようになりますよ!」
象は鼻を震わせてそう叫びます。
「俺は絶対にソイツを噛み砕いてやる!
仲間のカタキだ!」
ライオンは大きく吠えてゴリラを脅します。
ニンゲンはゴリラの背中にしがみついて怯えています。
このままではいつか、この子が殺されてしまう。
そう考えたゴリラはみんなの目を盗んでニンゲンと一緒にジャングルから逃げ出しました。
ジャングルを離れると低い草が生える草原に出ました。
ゴリラとニンゲンは来る日も来る日も歩いて、やがてニンゲンがたくさん住む場所に付きました。
そこには石や木で作られた立派なすみかがあり、豊かな食事を分け合って楽しそうに暮らしているたくさんのニンゲンたちがいました。
「あの動物は僕によくにているね」
「ああ、そうだね」
「仲良くしてもらえるかな?」
「ああ、きっとお前なら大丈夫さ。
ほら、遊んでもらってきな」
ゴリラが背中を押すと、ニンゲンは別のニンゲンの元に歩いていきました。
「……さよなら」
ゴリラはニンゲンのすみかに背を向けていちもくさんに走り出しました。
「ママ?」
ニンゲンの声が聞こえました。
でも、ゴリラは走るのをやめません。
「ママ!? ママ!!」
ニンゲンは大きな声で叫んで追ってこようとします。
ですが、ゴリラにはとうてい追いつけません。
石につまづいて転んだニンゲンの元に他のニンゲンは心配そうにかけよります。
「ああ、大丈夫だ。
ニンゲンはニンゲンには優しい。
ジャングルよりもニンゲンのいる場所のほうがあの子にはふさわしいんだ」
「ママっ! ママーーーッ!!」
泣き叫ぶニンゲンの声に耳をふさぎ、ゴリラは走って走って、ジャングルに戻りました。
ひとりでジャングルに戻ってきたゴリラを友達はみな優しく迎えました。
でも嬉しくはありませんでした。
寂しい。
ゴリラは好きな時間に起きて好きなように果物を食べてのんびりと過ごしました。
ニンゲンといるときは守るために必死でのんびりと過ごす時間なんてありませんでした。
なのに、寂しい。
ライオンや象もニンゲンを捨ててきたゴリラを仲間として認めました。
ジャングルの動物は昔より増え、にぎやかな毎日を送っています。
それでも寂しい。
ゴリラは寂しくて寂しくて仕方ありませんでした。
夜になると寝ている自分の横にニンゲンがいるのではないかと思って必死に探してしまいます。
おいしいバナナを食べると、ニンゲンに食べさせてあげたいと思って半分残してしまいます。
寒い朝は抱きしめあって、熱い昼は水をかけあって、そんなふうに過ごしていたのに。
ゴリラはニンゲンを他のニンゲンの元に置いてきたことを後悔していません。
そうしなければニンゲンは死んでしまったでしょうから。
自分に言い聞かせて、寂しさに耐えながら毎日を過ごしました。
それから、途方もなく長い時間が過ぎました。
物知りの狼は死に、虎の息子とライオンの娘との間に出来た子供がジャングルの長になるくらいに長い時間です。
ゴリラも年をとって昔のようには動けませんが、それでも生きてきました。
寂しさはあの日から収まったことはありません。
それでも、自分が育てたニンゲンが元気に生きていることを願って生きてきたのです。
「ニンゲンだ! ニンゲンが襲ってきたぞ!」
ライオンががなりたてるように吠えて、ジャングルにいる仲間に伝えます。
ですが、その声はバーン! という大きな音とともに消えてしまいました。
ゴリラは大きな音のした方に近寄ります。
そこには死んだライオンとその周りで喜ぶ大きなニンゲンたちがいました。
その大きさはゴリラよりもずっと高いところに頭があって長い手足をしています。
「ああ、ニンゲンとはこんなにも大きく成長するのか」
自分が育てていたニンゲンのことを思い出してぼんやりとしてしまいました。
「おい! こっちにはゴリラがいるぞ!」
「よし! 今度は俺の獲物だ!」
ニンゲンの一人が棒をゴリラに突きつけました。
ニンゲンは仲間には優しいが、他の動物には恐ろしい。
狼はそう言っていました。
だから、ゴリラは自分が殺されるのだと悟りました。
年老いたゴリラには逃げる力はもうありません。
あきらめて、だらりと腕を下げ、バーン! という音が聞こえるのを待ちました。
ですが、音は聞こえず、そのかわりに聴こえてきたのは、
「やめろやめろ!
このジャングルの動物を殺すことは禁止されている!
撃ったらお前らを撃つぞ!」
別のニンゲンの声でした。
その声を聞いたニンゲンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出しました。
追い払ったニンゲンは背が高く大きなニンゲンです。
なのにまったくゴリラは恐ろしいとは思いませんでした。
なぜなら、
「ママ……ママだよね?」
ゴリラはすぐに気づきました。
そのニンゲンは自分が育てたあの小さなニンゲンだということに。
「ママ! 会いたかったよ!」
ニンゲンはゴリラの胸に飛び込んできました。
その長い脚を折りたたんでゴリラと同じ体の高さになって、その長い腕でゴリラの体をすっぽりと包みました。
ゴリラもニンゲンを自分の腕で抱きしめました。
「アハハ、痛いよ。ママ」
ゴリラは自分が力を入れて抱きしめていたことに気づきます。
ですが、ニンゲンは死にません。
それくらいにたくましく、強い動物にあのニンゲンは育っていたのですから。
ニンゲンはジャングルの中に木ですみかを作りました。
怪我をしたり、病気をした動物を治したり、親がいない子供の動物を育てたりして毎日を過ごしています。
時々、ジャングルを出ていきますが必ず戻ってきます。
そしてゴリラに、
「ただいま、ママ!」
と元気に挨拶をするのです。
だから、もう寂しいだなんて思うことはありません。
ニンゲンが住むようになってジャングルに平和が訪れました。
最初は警戒していた動物たちも次第にニンゲンになつき、彼をジャングルの仲間として認めるようになりました。
やがて、ニンゲンはメスのニンゲンを連れてきて一緒に暮らし始めました。
メスのニンゲンは髪が長く、柔らかい体をしていて、ゴリラの育てたニンゲンのように他の動物にも優しいニンゲンでした。
そして、二匹のニンゲンの暮らしに小さな小さなニンゲンが加わるようになりました。
ゴリラが拾ったあの時のニンゲンにそっくりでした。
その小さな手はゴリラの太い指をしっかりと握りしめます。
「お前は一人で生きていけるだけでなく、たくさんの動物を守れる立派なニンゲンになったんだね」
ゴリラは自分が育てた立派なニンゲンの姿を見て誇らしくなりました。
それからずっと、ゴリラはニンゲンと動物たちに囲まれながらジャングルで幸せに暮らしたのでした。




