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2 頭の弱い勇者

 勇者は窮地に立たされていた。

 

「それで身分を証明するものは持っているかな?」

 

「えっと、なんですかそれは?」

 

 唯一救いがあったとすれば、何故かはわからないが言語が通じることであった。ただし言語が通じたとしても言葉の意味が通じるかはまた別の話である。

 青年は男の言う意味をいまいち理解出来なかった。

 

「お兄さんのことからかってる?それとも本当に知らない?」

 

 青年の見た目からして意味が伝わらないと思わなかったのだろう。男は青筋を立てながら青年に再び問う。

 

「本当に知りません。あっ、でも自分が何者かを証明できるものは持っています」

 

「あ、本当!良かったよ」

 

 男がホッとしたのも束の間、青年が取り出したものを見て顔をひきつるのだった。

 

「これは何かな?」

 

「エルファメル教会の教皇様から賜った聖刻です」

 

 青年はドヤ顔で男にそれを見せたのだが、男の表情が芳しくないことに気がつき、タラーっと汗をかき始めた。

 横にいるリーフィアが足をビシっ!と叩くと青年に向かって耳打ちをした。

 

(この戯けが!ここは元いた世界とは異なる世界であると、ここに来るまでの会話で気づくであろうが!お前は馬鹿なのか?お猿なのか?)

 

(だ、黙れ!仕方ないだろ!身分を証明するものって何だよ!あれさえ出しときゃ何とかなったんだから、そうする以外思い浮かぶわけないだろ!)

 

 リーフィアは青年の話を聞いて深い溜息をつくと、男の方に視線を向けた。

 

「えっと、すまないこの者はなんだ...あーその...残念なやつなのだ」

 

「ちょっ、残念なやつってどういう事だよ!」

 

「少しは黙っとれ!」

 

 青年を叱責すると、ゴホンと咳払いをした。

 

「こやつは少し馬鹿でな、そのー何だ......」

 

「あぁ〜いやわかった。ありがとう」

 

 男はリーフィアが言いにくそうにしているのを見て大体を察したのか、そう返事をした。

 実際男が思っていることは的外れなのだが、誤魔化せたので良しとするつもりだった。

 

 リーフィアがほっと一息ついた時、扉が開いた。

 

「どうだ、何か聞けたか?」

 

「いえそれが全く」

 

 扉から入ってきたのは厳つい顔をした強面のおじさんであった。男と同じ服を着ていることから、その服が何かしらの制服であると、リーフィアは予想した。

 

 男とおじさんは二人の今後について、話しをしているようであった。全ては聞き取れなかったが男の態度からして、おじさんの方が上司であることがわかった。

 

 話を終えると今度はおじさんの方が二人の目の前の席に座った。

 

「それでお二人さん、まずは名前を聞かせてもらえるかな?」

 

「あ、そう言えば名乗ってませんでしたね!俺の名前は痛たたたた!!何するんだよ!」

 

 名乗ろうとしたらリーフィアに足を抓られたのだった。リーフィアは一瞬ギロりと青年を睨むと、おじさんに笑顔を向けた。

 

「人に名を名乗る時は自分から名乗るものであろう?」

 

 尊大な態度でそう言った。おじさんはそれを聞いて嫌な顔一つせず名前を名乗る。

 

「そうだったね、すまない。私は伴哲也とものてつやという」

 

 次は君たちの番だと二人に目を向けた。

 

「私はくれないリーフィアだ」

 

「は?お前は痛てて」

 

 またもや青年が余計なことを言おうとしたので、足を強つ抓った。その後耳打ちをする。

 

(名前を聞いただろ?あれは極東諸国の名前の付け方によく似ていた。お前も少し名前を弄って名乗れ)

 

(極東諸国風か、了解。というかよくわかったな)

 

(猿でもなければわかる)

 

 リーフィアの発言にイラッとしたが、大人しく従う。確かに自分ではそこまで考えて行動はできない。しばらくの間は大人しく従っておくのが正解だろう。

 魔王の手下みたいで何か癪に障るが。

 

「俺の名前は、えっと、白上海人しらかみかいとです」

 

「海人君にリーフィアちゃんだね。2人はどういう関係?」

 

 伴は何か紙に書きながらそう訪ねた。

 海人は「敵です」と言おうとしたが、また勝手に口を開くと足を抓られるので、口を閉ざした。

 

(よく黙っていたな。あとは余に任せるといい)

 

 海人にだけ聞こえる声でボソリと言うと、伴の方に向いた。

 

「色々ややこしい事情があるのだが......そうだな、一言で言うなら同胞であろうか?」

 

「同胞とは?」

 

「同郷の者と言えばいいか?」

 

 伴の台詞を予想していたのか、すぐにそう返した。ここまで一つも嘘はなかった。

 

「親御さんの連絡先はわかるかな?」

 

「分からぬ。というよりいないと言った方が正しいか」

 

 リーフィアの親はとっくの昔に他界していた。海人については知らないが、この世界にはいないので間違ってはいない。

 

「じゃあ家は?帰り方とかわかる?」

 

「分からぬ。一刻も早く帰りたいのだが、如何せん帰り方が分からぬのだ」

 

 リーフィアの返答を聞いて、ふむと一つ頷く。

 

「これどうなるんでしょうかね?」

 

 後ろで控えていた男が伴に声をかけた。

 

「このまま捜索願がないなら児童養護施設しせつに預けられるだろうな。ただし青年の方は年齢的に微妙かもしれない」

 

 おじさんは振り返ると海人の方を向いた。

 

「君年齢は?」

 

 海人はチラッとリーフィアの方を見る。リーフィアはコクりと頷いた。許可をもらったため海人は口を開く。

 

「十九歳です。今年で二十歳になります」

 

「ギリギリですね」

 

 海人の年齢を聞いて男がそう言った。

 

「口を挟んですまないが、少しいいだろうか?」

 

「あぁ、なんだい?」

 

 伴は笑顔でリーフィアの方を向いた。

 

「我々で家を借りることはできるだろうか?」

 

「リーフィアちゃんでは無理だろうね、海人君でも多分無理だと思う」

 

「何故なのだ?」

 

「未成年...えーっと二十歳未満の人が家を借りる場合は保護者の同意が必要になるんだよ。だから保護者がいない君たちには少し難しいかもしれないということ。それに海人君はともかく、君はお金を稼げないだろう?」

 

 金ぐらい稼げると言い返そうとしたが、今の自分の姿を思い返して口を噤んだ。

 

「とりあえず何をするにもやはりお金は必要か」

 

「そうだね〜。もしかしたらだけど、君たちは戸籍がないかもしれないから、身分証明をできるものないと家は借りれないね」

 

 伴は優しく色々教えてくれた。その言葉は実は施設に入れる期間が短い海人のためであったりするのだが、当の本人は何も気づいてはいなかった。

 

「なるほど、情報提供ありがとう」

 

 一通り聞き終えたリーフィアはおじさんに感謝を述べる。

 

「さて、ではお役目ご苦労だ御二方よ」

 

 リーフィアはゆっくりと席から立ち上がる。様子の変わったリーフィアを見て、伴と男は動こうとするが体がピクリとも動かないことに気がついた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 リーフィアは立ち上がることの出来ない伴の隣まで行くと、耳元に顔を近づけてこう囁いた。

 

「有り金を全て余に捧げよ。そして余とこの男のことは全て忘れるのだ。ここでは何も無かった良いな?」

 

 伴は財布から金を出すとリーフィアに渡しす。

 

「私は君たちの事は忘れる。君達など知らない」

 

 伴は虚ろな目になってそう何度も繰り返して言った。それを見て満足したのが、リーフィアは指をパチリと鳴らす。

 

 そこで伴の意識はなくなった。

 

「さて、次は其方の番だ...何恐ることは無い。すぐに終わる」

 

「ひ、ひぃぃぃ!!!」

 

 ...

 ......

 .........

 

「お疲れ様です、ぐっすりでしたね」

 

「もしかして私は寝ていたのか?」

 

 気がつくと夜は明けていて日が昇っていた。勤務交代の時間であり、同僚が茶化しながら起こしてくれたのだった。

 伴は真面目な男で、仕事に対して誠実で通っている警官であった。そんな伴が寝ていたため、仲間は面白いものを見たと茶化すのであった。

 当の本人は昨日のことを不審に思いながらも帰路に着いたのだった。

勇者って何故か脳筋なイメージありますよね〜

…私だけかな?

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