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1 その世界の名は日本!

「......痛っ!」

 

 青年は無理矢理体を起こすと辺りを見渡した。修行で無理をして全身筋肉痛になった時と同じか、それよりも痛いが体を見ると傷は一つもなかった。

 いやあるにはあるのだが、それらは魔王との戦いでついた傷であり、それ以外は見当たらなかった。

 

「ここはどこだ......」

 

 見たことの無い光景、見たことの無い建物。青年は魔族討伐のために世界各地を飛び回っていたため、それなりに地理には詳しいはずなのだが、全く持って見たことの無い景色であった。

 

 ......そもそもあの長方形のカクカクした建物はなんだろうか?このような建物あっただろうか?それもこんなにいっぱい。

 それに夜なのに明るい。郎がもったいないので、夜になるとすぐに火を消して寝るはずなのだが。

 

「なんなんだここは」

 

 青年の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった。元々考えるのはそこまで得意ではないのも相まってパンクしそうになっていると、近くから声がした。

 

「うっ......」

 

 青年は声のする方―というより自分のすぐ隣なのだが―を見ると銀髪の幼い女の子が寝ていた、全裸で。全裸で。

 

「うわぁぁぁあああ」

 

 青年は素頓狂な声を上げて、少女と距離をとった。

 戦闘において青年は鬼神と恐れられるほどの強さを持っているのだが、事女性関係となると話は別で初恋すらしたことの無い初心な男なのであった。

 

 閑話休題、少女は青年の残念な叫び声を聞いて目を開けた。

 

「むぅ......ここは?」

 

 少女は眠たそうに目を擦る。まるで寝起きの小学生のようである。全裸であることを除けばその通りである。

 

「おい勇者よ、状況を説明せよ」

 

 少女は青年を見つけるとそう言った。

 

「何故俺が勇者だと知っている!?」

 

 青年は少女の言葉を聞いて警戒を強めた。ただし少女が裸であるため少女から目を逸らしているため、しっかりと警戒できてるかと言えば不安が残るとこではあるが。

 

「人間は猿から進化した存在だと聞いていたが、お前は猿のままなのではないのか?」

 

 少女は厳しくそう言い放つ。

 青年は少女の態度や自分の正体を知っていることなど色々整理して、やっと少女の正体に気がついた。

 

「まさかお前魔王か!?」

 

「まさかも何も余以外に魔王がいるはずなかろう?」

 

 何を当然なことを言っておる、と少女は目を細めて訝しげに青年のことを見る。

 青年は大きな溜息を一つ漏らすと、すぐ側にある川を指差してこう言ったのだった。

 

「とりあえず今の自分の姿を見て来い」

 

「何なのだ、全く......」

 

 ぶつくさと文句を言いながら川岸まで歩いていった。そこには柵があり自分の姿全てを写すことは出来なかったが、水に写った顔を見てリーフィアは全てを察した。

 

「なんだこれはー!!!」

 

 察してしまったのだった。

 リーフィアは大きな声で絶叫すると自分の体をぺたぺたと触り始める。

 

「な、無い!余の胸が......そう言えば先程勇者を見た時も少し視線が上からに感じたというか、勇者のことを大きく感じたがもしや......」

 

 リーフィアは一気に顔を青ざめた。

 後ろからついてきた勇者に恐る恐る尋ねる。

 

「もしかして余は小さくなってしまっておるのか?」

 

 青年は相変わらず目を逸らしたまま答えた。

 

「あぁ、色々小さくなっている」

 

「なん...だと...」

 

 リーフィアは白目を向いてパタリと地面に手をついた。魔王の威厳の欠片もない姿である。

 流石に可哀想になったのか、青年は自分の着ている服を脱いで魔王に投げつけた。

 

「...何だ、これは?」

 

「とりあえず着とけ。目のやり場に困る」

 

 ぶっきらぼうに答えると青年はあることに気がついた。

 

「あぁぁっっっ!?俺の聖霊装が無い!というか聖剣ダモクレスもない!!」

 

 青年もがっくしと両手を地面に着くのだった。どちらも青年にとっては相棒のような存在なのであった。

 

「...ふむ」

 

 青年の言葉を聞いてついにリーフィアは一つの仮説が思い浮かんだ。

 

「もしやここには魔力が一切ないのかもしれん」

 

「......どうしてそう思うんだ?」

 

 意地け気味だが、青年は魔王の話を聞くことにしたようだった。

 

「そうな...まず勇者の装備はどちらも魔法の力を持っておる。そして余の装備は全て魔力で出来ていた。極めつけは余の体だ......」

 

 リーフィアは自分の体を改めて見て、泣きそうになりながらも説明を続けた。

 

「魔族は体内で魔力を生成することが出来るのだ。魔力を用いて魔法を発動するのだが、ここでは魔力生成量が通常時の百分の一ほどしか出来てない。だから余の姿がこのような...ち、ちんちくりんになっているのだ」

 

 自分で言って自分で落ち込むリーフィア。なら言わなければいいのにと青年は思ったが口には出さなかった。

 確かに少女の言うことは一理あった。スキルを発動しようとしても全く発動しなかった。

 

「その様子からしてスキルもダメなようだな」

 

「魔法と似たようなものだからな」

 

 二人して大きな溜息を一つついた。

 

「とりあえずこれからどうするかだな」

 

「その前に勇者よ、相談があるのだが」

 

「何だ?」

 

「一先ずここから抜け出すまで停戦しないか?」

 

「わかった」

 

 青年にとってもそれは願ってもない話であった。別に今の状態で戦ったら負けるからとか、そういう話ではない。今の姿のリーフィアを殺すのは精神的に来るものがあるからでたった。

 間違いなく寝覚めが悪くなるだろう。

 

 ここに魔王と勇者による停戦協定が締結されたのだった。

 

 

 

「それで話を戻すがこれからどうする?」

 

「とりあえずここの情報を集めるのが先決だろうな。余達はここについて何も知らない。もし何かが起きた時このままでは何も手を打てないのでな。まずは情報収集だ」

 

 情報を集めたところで手を打てるかは別だが、とリーフィアは付け足す。

 

「ちょっと君達、そこで何してるの?」

 

 二人は後ろから急に声をかけられたため振り返る。勿論警戒も忘れない。

 

「何とは?」

 

「ダメだよこんな時間に外を出歩いていたら」

 

 男は二人に向かって注意すると、謎の黒い小さな箱に向かって声を吹き込んだ。

 

『未成年者と思わしき二人を発見しました。今からそちらに連れて行きます』

 

 黒い箱を見て興味が湧いたのか、リーフィアは男に尋ねた。

 

「ほぅ...その黒い箱のようなものは何なのだ?どうしてそこに向かって話をしたのだ?」

 

「黒い箱って」

 

 男はリーフィアの言葉を聞いて噴き出した。

 

「そうだね、じゃあお兄さんが交番に着くまでに色々教えてあげようかな!」

 

 男はやる気を出したかのようにガッツポーズをして、ニコッと微笑んだ。

 二人はお兄さんの部分に疑問を抱いてしまったが、口には出さないでおいたのだった。口は災いの元なのである。

 

 それからは、ひたすらリーフィアがここのことについて色々質問していた。自称お兄さんはわかる範囲のことはなんでも教えてくれたのだった。

 

 交番という場所に着くまでに二人はある程度の情報を入手していた。

 まずここは日本という場所であること。たまに見かける馬車の必要のないものは車ということ。魔法やスキルはげぇむ?やえすえふ?とやらの中でのみ存在するものであるということ。

 

 重要なことから割とどうでもいいことまで、子供の見た目を生かして色々聞いたのだった。

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