0 プロローグ
はじめまして、ぱんの耳です。
同人作家さんのぱんさんとは全くの別人です。
「.........来たか」
そこは綺麗な赤色の絨毯の引かれた大きな部屋だった。一番奥にある、豪華な装飾のされた大きな椅子に座っていた一人の女性が、ポツリとそう呟いた。
その後すぐに女性とは反対側にある扉が、バタンと大きな音を立てて開いた。
「お前が魔王か」
一人の青年がそう言いながら、部屋の中へ入ってきた。
ここは魔王城の玉座の間。
人間最強と呼ばれる青年である勇者と、魔族の長であり魔族最強の存在である魔王が、対峙した瞬間であった。
青年は女性の答えも聞かず抜剣すると、扉から椅子までの長い距離を一瞬で詰め、女性に向かって斬りかかった。
「そう急くな、勇者よ。もし余が魔王とやらでなかったらどうするのだ」
「俺の剣を軽々と受け止めているのが、貴様が魔王であるという証拠だ」
実際青年の言う通り、女性は綺麗な雪のような白色の肌をした手で、剣を摘んでいた。
「それにもしお前が魔王じゃなかったとしても、魔族である時点でお前を殺すことに変わりはない」
青年は激しく魔王を睨み付けると、女性の腹部を蹴り飛ばした。
青年の攻撃により女性は椅子ごと壁まで吹き飛んだ。
「......おぉ、怖い怖い」
女性は立ち上がると妖艶に嗤った。
「では改めて名乗ろう。余こそが第162代目魔王、リーフィア・アリウス・クリムゾンである!恐れ慄くがいい、人間よ」
リーフィアは大手を振って盛大に名乗った。
「あっそ。じゃあ死ね」
青年は興味無さ気に吐き捨てると、又もや一瞬で距離を詰める。
「ソードスキル“天羽々斬”」
青年が文言を口にすると、手にしていた剣が蒼白く薄らと光だす。
スキルとはこの世界の人間が生み出した、魔族を滅ぼすための力の事だ。身体能力の強化から、このように目に見える変化をもたらすものまで、それの種類は多岐に渡る。
スキルを覚えるには才能が必要であり、勇者と呼ばれる人間最強の存在である青年は、数多の才能に恵まれて生まれてきた、神に愛されたと言っても過言ではない存在であった。
そんな青年が使うスキルはかなり強力なものばかりであった。
「ふっ、その程度か勇者よ」
だが相手にしているのは魔族最強の魔王である。
リーフィアは青年のスキルを見て鼻で笑うと、呪文を唱えた。
「ガードマジック“アイスウォール”」
その刹那、青年とリーフィアの間に大きな氷の壁ができる。
リーフィアが使ったものは魔法と呼ばれるものであった。
魔法とは魔族にのみ使える、世界を改変する力の事である。魔法には種類があり、先程リーフィアが使った身を守る魔法ガードマジックの他に、攻撃魔法アタックマジック、強化魔法フィジカルマジック、相手を弱体化するナーフマジックの、四つに分類される。
勿論のことこちらも才能の要因が大きく、また魔力量によっても威力が変わる。
実はスキルとは魔法に対抗して生み出された存在であった。
閑話休題、リーフィアは魔王であり、魔力量や才能は魔族の中では随一だ。そんな彼女の魔法の威力は一国を滅ぼす程度、いとも簡単に成し遂げれるほどであった。
「はぁぁぁぁぁあ!」
青年は目の前に現れた氷の壁を剣で砕くと、リーフィアの姿を確認した。
だが目の前に姿はなかった。
「どれ、先程のお返しだ」
リーフィアは既に青年の後ろに回り込んでいたのであった。
お返しとばかりに腹に回し蹴りを受け、吹き飛ばされた。青年は受け身をとってすぐに立ち上がる。
「ほぅ、今のを受けて顔色一つ変えないとは、自信をなくしてしまうぞ」
リーフィアはケラケラと嗤いながらそう言った。
「そうして余裕ぶっているといい。その軽い口をすぐに開けなくしてやる」
青年は剣を構えた。
「まぁ待て、余はお前のその強さを気に入った」
「魔王に気に入られるとはな、反吐が出そうだ」
青年はそう言いながら三度魔王攻撃した。
「勇者よ、お前の強さは四天王に匹敵、いやそれすら上回るだろう。この世界で最も我に近しいくらい、強大な力を持つ者と言えよう」
リーフィアは青年の攻撃を軽々と捌きながら会話を続けた。
「それがどうしたっ!」
青年は剣を打ち込んでいく度に、剣筋が鋭く剣速は速くなっていた。青年は戦闘中でありながら成長を遂げているのである。
「っ!」
リーフィアは青年の剣を強く弾き返した。仕切り直しとばかりに二人は息を整える。
「......ふふふっはははははは!やはり余の目に狂いはなかった!!」
リーフィアは狂ったように嗤うと、黄金の瞳で青年をギロりと見つめた。青年はその視線を受けて少し後ずさる。
リーフィアの目はとてもギラついていた。獲物を前にした猛禽類のごとき目で見つめていたので、勇者と言えどもまだ若き青年の彼が覇気を受け止めきれなかったのは、仕方の無いことだろう。
「な、何だ!」
絞り出すように青年はリーフィアに向かってそう言った。
「どうだ勇者よ、余の物にならぬか?」
「断る!」
勇者はリーフィアの誘いを即答で断る。
「せっかちはモテぬぞ?」
「よよよ余計なお世話だ!俺はお前ら魔族を滅ぼすために存在している!」
モテないという言葉を聞いてあからさまに動揺する青年。実はこの青年、強さを求めてひたすら修行と魔族討伐ばかりしていたため、未だに女というものを知らないでいた。俗に言う童貞であった。
青年は動揺を隠すように剣を構えた。
「まぁ待て人の話は最後まで聞くものだ」
青年を落ち着かせるとコホンと一つ咳払いをして話を戻した。
「勇者よ、お前が余の物となったのならこの世界を獲るのにそう時間はかからぬであろう。もし余が世界を手に入れた暁には、お前にこの世界の半分をくれてやろう......いや半分はやっぱりなしだ!四分の一、いや八分の一...キリよく十分の一だな、うむ!」
「うむ!じゃねえよ!」
青年は鋭いツッコミを入れる。先程の緊張はリーフィアの残念さのせいで色々吹き飛んでしまったようだ。
「不満か?世界の1割だぞ」
リーフィアは青年の態度を見て目を見開いた。
「最初の半分からどれだけ減ってるんだよ!百歩譲って俺がその条件を呑もうと思っていたとしても、あからさまに減らされたのを見せられたら呑む気も失せるわ!!」
「しかないではないか!余は魔王として配下を労る義務があるのだ!配下にも褒美を与えて更にお前に半分も渡したら、余の土地が無くなるではないか!!」
「知るか!」
「知ってもらわねば困る!」
魔王と勇者の戦いは実力行使から口喧嘩にグレードダウンしていた。
「勝手に困ってろ!そもそも受けやしないがな!」
「なんだと!?世界の一割を手にする権利を得るというのに何が不満なのだ」
リーフィアは青年の態度に顔を歪めた。彼女にとっては破格の条件なのだ。
「俺は人間最後の砦であり、最後の希望だ。それに今まで良くしてくれた人達だっている。そんな人達を裏切れるわけないだろ」
「ふむ、恩を仇で返したくはないと......だが世界を手に入れたら一生遊んで暮らせるほどの金は手に入るぞ?勿論そこにいる女はお前のものだ。煮るなり焼くなりヤるなり好きにできるのだぞ?」
青年は最後の言葉でピクっと反応してしまう。それを見逃す魔王ではなかった。
「イロドリミドリだぞ?人間だけではない、エルフにドワーフ、ハーピーやビーストまで、色んな女をお前の好きなようにできるのだぞ?」
「す、好きなように......」
青年はゴクリと唾を飲む。
「って俺は|絆<<ほだ>>されないからな!権力で手に入れたものに何の価値がある」
流石勇者と呼ばれる青年。鋼のごとき意思の強さでリーフィアの誘惑を断ち切ったのだった。
若干釣られそうになったが、それでも鋼の意思なのだ。
「そんな堅物だから未だに童貞なのだ」
「どど童貞言うな!」
リーフィアは、はぁ...と溜息をつくと気持ちを切り替えた。
「説得は不可能か」
「当たり前だ」
一瞬迷っていたくせにどの口がと、リーフィアは思ったが口に出さなかったのは優しさからだろうか。それとも憐れみからだろうか。
「ならば決着を付けるしかあるまいな」
「当然だ」
青年の表情は童貞と言われて狼狽えていた顔ではなかった。決意に満ちた凛とした表情であった。
「では行くぞ勇者よ!」
「来い魔王!!」
二人は次の一撃で決着をつける気のようで、現在自分が持てる最大の一撃を打つために力を込めていた。
「アタックマジック“永劫の絶望”」
「ソードスキル“災厄の聖なる十字剣”」
二人の奥義、強大なエネルギーとエネルギーがぶつかる。衝突の衝撃で城にヒビが入り、更に膨大なエネルギーの波動によって魔王城は崩壊し始める。
だがそんなことを気にしている余裕は二人にはなかった。
少しでも力を抜くと存在そのものを消し去るほどの力を浴びることになる。そのためその場から動くことも、奥義をやめることもできなかった。
だが城よりも先に一つのものが壊れた。
ピキピキッ!
「なぬ!?」
「なんだこれは!?」
あまりに膨大なエネルギーを世界が受け止めることが出来なかったのだ。
魔法とは世界を改変する力である。また魔法と対抗して生み出されたスキルも、世界を改変する力と言っても過言ではないだろう。
二つの強力な改変する力に世界の方が耐えられなかったのだ。
そして次元の狭間が姿を現す。
二人の奥義は次元の狭間に吸い込まれていった。
「くっ......」
「なんて力だ!?このままじゃ吸い込まれるぞ」
だが次元の狭間は二人の奥義だけでは満足しなかったらしく、二人も吸い込もうとしていた。
世界の頂点に君臨する魔王と勇者ですら抗えぬほどに、強力な引力を発生させていた。
「くそっ!」
「ぐぁぁぁああああ」
そして二人は次元の狭間に吸い込まれてしまったのであった。
二人を呑み込んだ次元の狭間は、緩やかに小さくなっていくと、やがて消えてなくなったのであった。
お楽しみ頂けたら幸いです。
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