メモ
この家の、とある一室から、メモが見つかった。
読点や空行の多い文章で、殴り書きのような箇所もあれば、神経質に何度もインクを塗り直しているような箇所も見受けられた。
床へ散乱したノートと、机から滴りおちた真っ黒いインクの跡、そして、それらとは反対にきっちりと収められた白い羽根のついたペン……、その光景は、メモの内容や筆致とともに、これを書いた人物の異様な心理状態をあますところなく顕にしていた。――
***
あの子の両親は、あの子にたいしてひどかった。
絵に描いたような、とは言いにくい、複雑な、
ひどい、
だった。
あの子は、両親の愛情のもとに育てられた。
そうしてあの子は、いま、自分の玩具に、おなじ愛情をそそいでいます。
私は、
愛情、
という言葉を使うたびに、
そんな言葉でしか書き表せない自分に腹がたつ。
それはどこかに、
もっとも憎むべきそれを、弁護しようとしている自分がいるから、
かもしれません。
あの子の玩具に投げかける、あの視線が、
いまにもこわれてしまいそうな、あのお優しいくちびるが……
……愛おしくて、たまらないのです……
私が死んだら、彼らは復讐をはじめるでしょう。
……こういう預言を、
冷たくなって言うこと、
いま、非情にも、
真っ黒なインキで、茶色い紙を、目いっぱいよごして……
鬼の形相をしながら、ふるえる手を、おさえてはっきりと明確に、
濃く、
……つつみかくさず書きしるす、こと……
それ、が……
私の取るべき、最後の行動のような気がいたします。
その理由はわかりかねます。
お嬢さん、
ご容赦くださいまーーーーー――
……
- FIN -