物語
少女は硝子が好きだった。人よりも、硝子が好きだった。少女は本物の宝石を見たことがないから、この世でいちばん美しくて可愛らしいものは、透明できらきらした硝子なのだと思っていた。
少女は硝子が好きだった。人よりも、硝子が好きだった。少女が何かものを言うと、人は決まって文句をかえした。少女が何かものを言うと、硝子はやさしく、きらきら光った。
青い目をした猫が、少女のお気に入りだった。少女は本物の猫を撫でたことがないから、猫はいちばんのお気に入りになりえた。
「あなたは特別」
と、少女は言って、青い目をした猫は宮殿に住まわされ、少女がランプを近づけると、きらきら光ってよろこばせた。
少女は硝子を割ったことがあった。可愛がっていた亀を床へ落として、亀の甲羅を割ってしまった。少女はびっくりして泣きそうになったけれど、やがて兎を取り出して……それも床へ、落っことした。
少女はそれから狐を割った。子熊と馬と、牡牛も割った。それから思い出したように泣き出して、欠片を集めて箱にしまった。
なぜだか少女は、前よりも硝子が好きになった。
青い目をした猫は何も言わない。けれども少女には、声が聞こえた。少女はいつも思っていた。
「わたしはなんでも知っている」
青い目をした猫は掌へ載せられて、ころころと、少女をよろこばせた。
ある夜、少女は夢を見た。家中の硝子が割れる夢。窓硝子が割れて、少女の足を突き刺した。痛い……少女は泣いて、仲間を探した。いつもの場所にはだれもいなかった。
家中を探した。廊下を走って、階段を駆けおりて……それでもなかなか見つからなかった少女の硝子の仲間たちは、クローゼットを開けた瞬間、少女の頭へ、重たい硝子の塊となって、落っこちてきた……
真っ赤に染まった蜥蜴の目玉が、じっと、少女を見つめる。怖くなって助けを求めた先に、子熊と馬と牛と……彼らは首を反らして、天井を見上げた。少女の視線は否応なく糸で引かれて吊りあがり、そこへ、亀の甲羅が落ちてきた。
叫び、悶え、首筋を掻き毟って……少女はベッドで目を覚ました。部屋には土が舞い込んで、ドアは外れ、窓硝子が割れていた。放心してしまった少女の視界に舞い込んだのは、ランプの下でやさしく微笑む、青い目をした猫だった。少女はそれを胸に抱えて、硝子のような涙を流して、ほっと、ため息をついた。




