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はしがき
林の奥に、一軒の家があった。赤いレンガの二階建て、古めかしい洋館という風情。そこには映画のセットのような、どこか生気の感じられないはりぼてのような雰囲気もあったけれど、それ以上に気味が悪いほどの立体感も感じられる、不可思議な建造物だった。
この家を間近に見ようとして一歩足を踏み出せば、地面を蜥蜴が這っていき、顔には蜘蛛の糸がかかる。木の根には、作り物のような色をしたとりどりの茸が生えていた。
この家の住人は、十二、三の少女ただひとりだった。少女の両親は、半年前に出ていった。残された、年老いた乳母は、二日前に死んだ。少女は何日も部屋へ閉じこもっていて、そのあいだ、ドロップと水以外のものを口にしていない。乳母の死んだのを見つけたら、さすがにびっくりするだろう。
これから物語るのは、この家に住まう少女のお話だ。どこの話なのか、いつの話なのか……起こったことか、これから起こることか……、私は知らない。なぜ私が、この林のこと、家のこと、そして少女のことを知っているのか……それすらもわからない、そんなお話だ。