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異世界の観察者  作者: 931N
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第11話「暗き企みと教会騎士」

「オーガたちが全滅しただと!?」


 煉瓦の壁に覆われた窓のない個室に驚愕がうかがえる男の声は響いた。部屋には蝋燭が置かれた机が一つと、それを囲むように置かれた二つの椅子、そして椅子に腰掛ける二人の人間以外には何も存在しなかった。

 

「ああ。先ほど帰った騎士たちの話では、原型を留めぬほどの死骸となっていたそうだ。」


 帰ってきた言葉に男は顔をゆがませる。自分たちの計画が失敗に終わった事実に男は冷静ではいられなかった。


「そんなバカなことがあるか!?ありえないだろう!我々が用意したオーガは十体!逆に欠陥姫の部隊は魔法が使えない欠陥者の集まりではないか!たとえ欠陥姫が加速の魔法を使えたとしても勝てる道理がない!しかもオーガたちには《偽法の首輪》まで与えていたのだぞ!?」

「そうは言ってもな、確かにオーガたちは倒されその首輪も回収されている。救援に向かった騎士が我々の配下の教会騎士であったなら隠滅も可能だっただろうが、向かったのは伯爵お抱えの騎士団だ。いまさら言っても遅いだろう。」

「だがそれでは我々の計画が明るみに出る恐れがある!我らが神の神託によって任された計画が!」

「わかっている。だからこそ失敗を悔やむよりもまず、首輪の回収を急がねばならん。お前も言った通りあの首輪には我々の魔力が込められている。感知されたら我々の計画は終わりだからな。」


 向かいに座る男は首輪の回収方法を考え始める。しかし、声を荒げていた男は納得の色を示さなかった。


「やはりおかしい!!あんな欠陥部隊が我らの計画を阻むなど!」

「まだいうか。我々が欠陥姫の実力を見誤った。そういうことであろう?」

「魔力も低く、使える魔法が一つしかないあんな小娘が、実は実力を隠していたというのか!?なれば欠陥姫などという二つ名はつかないだろう!!」

「確かにそうだが・・・。しかしだとすれば他に理由があるか?あの部隊の人間はどれも魔法が使えない者たちだぞ?欠陥姫でないとすればいったい誰がやったというんだ?」

「そ・・・それはわからんが・・・・。」

「今はわからぬことを考えるよりも、首輪回収の策を考える方がよほど建設的だろう?それに所詮は下賤の生き物油断でもしたのかもしれん。」

「そう・・・だな。すまん熱くなった。」

「気にするな。あの欠陥姫を殺す機会ならまだあるさ。なんせ伯爵令嬢でありながら欠陥部隊に同情し隊長を務めるほどの甘さだからな。壁外警備をする以上再びのチャンスは必ず訪れる。そうすれば、跡取りのいなくなったこの都市はいずれ我らが神の供物となる。それまでの辛抱だ。」

「ああ。」


 荒げていた声を戻し、男はようやく首輪回収についての思案を始める。しかし今度はむかえに座る男のほうから信じられない話が上がった。


「そういえば聞いたか?教会所属の魔法使いが城壁に張った神域結界に先ほど揺らぎが起きたそうだ。」

「なに!?神より授かりし神域結界に揺らぎが!?」

「ああ。魔法使いたちが驚いて騒いでいたよ。我々がこの地に来て数年。こんなことは一度も起きこらなかったと。おびえている奴もいたな。」

「当然だ!我らが神より授かりし神域結界に干渉できるものなど存在していいわけがない!」

「確かに。だが事実として揺らぎが起きた以上何かしらの要因があるのだろう。もしかするとそれこそが我々の計画を阻止した要因とつながっているかもしれないな。とりあえず今まで以上に慎重に事を運ぶ必要がある。」

「わかった。しばらくはこうして会うのも控えたほうがいいかもしれないな。」

「ああ。そうしよう。」



 二人は席を立ち、互いに向かい合う。


「リヒト。我々の悲願は必ず成就させるぞ。」

「ああムハド。この命に代えても。」


 


「「簒奪されし我らの神に、崇高なる大地を還さんがために!!」」










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「へぇ。やっぱりこれだけの都市だと行きかう人の数も多いんだな。」


 マルコに案内され街を歩く誠は感じたことを素直に言葉にしてた。


「まあね。昼食時ならもっとにぎわうけど、今は少し過ぎてしまったからこれでも少ない方だよ。」


 これでも少ない方なのかと、誠は周囲を見渡す。昔の商店街を思わせる木造の家々が所狭しと並び、行きかう人も主婦のような格好の人が多い気がしていた。他には騎士風の男たちや、いわゆる冒険者のような格好の人たちもいた。


「なあマルコさん。さっきから何人かの騎士とすれ違っているんだが、模様や色が違ったりと色々いるんだな。統一されていないのか?」

「さんはいらないよ。君は我々の恩人だからね。それと、騎士の格好が違うのは所属が違うからさ。」

「所属?」

「ああ。例えば我々の鎧はほぼ銀一色で飾り気がないだろう?これはエレナ様を筆頭に活動する警備部隊の鎧さ。他には基本色が銀で、縁を赤く塗装されているのがこのレムナントを守護する伯爵家直属の騎士団。あとは、縁を青く塗装して胸に祈る聖女を刻んでいるのが教会騎士団だ。」

「ふーん。赤いのはわかったけど教会騎士団っていうのは何なんだ?」

「教会騎士団はその名の通り協会に所属している騎士団でね。全員信者なんだ。それぞれが神に与えられたっていう神域魔法を使えるのが特徴かな。神教国は知っているよね?」

「神教?いや知らないな。」

「神教国を知らないのかい?ずいぶんと田舎から来たんだね。」

「あ、ああ、まあな。」

「簡単に説明すると何百年も前に勇者の仲間が作った国だよ。まあ建国の時には聖女って名乗っていたようだどね。その聖女様が神託を受けて作った国が神教国さ。もともとは小さな宗教団体の集まりだったんだけど十年位前から急に勢力を伸ばし始めてね。今じゃ周辺の国家の主宗教になったんだ。僕らの住むリーズフェルト王国も例外にもれず、伯爵領のこの都市も彼らの要請を受けて三年前に教会を作ったんだ。」

「へぇ。そんなに素晴らしい教えを説いてんのか?」

「さぁ?私は信者じゃないからね。ただ黒いうわさが絶えないみたいなんだ。もともとリーズフェルト王家は宗教の導入に反対していてね、最初は断っていたんだ。それが五年位前から急に方針を変えだして、王国に連なるすべての都市、町に教会の設置を命じるって言い始めたんだ。それで国民たちは神教国の連中に王家が乗っ取られたんじゃないかって噂してたよ。」

「でも、勇者の仲間が作った国なんだろ?勇者の仲間っていうくらいだからいい奴だったんじゃないのか?」

「最初はそうだったかもしれないよ?でもさっき言った通り何百年も前の人物だ。今はその子孫が聖女をしているそうだけど、考え方はずいぶんと変わっているんじゃないのかな。」

「そういうもんか?」

「そういうものだね。」


 騎士の話から少し脱線したかなと思う誠だったが、神や勇者の話には興味があった。


「ちなみにだけど、今世界にどれだけ勇者がいるか知っているか?」

「勇者かい?そうだね、神教国が新たに召喚した勇者を含めて五人いると聞いたけど。」

「五人か・・・。それじゃあ、魔王になった勇者の話っていうのは知ってるか?」

「魔王になった勇者?ん~と、ああ!!五百年前のおとぎ話かな?」

「ご、五百年前!?」

「ああ、この国ができる前のおとぎ話だと思うよ?確か人に裏切られた勇者が世界を破壊する魔王になって暴れまわったっていう。違うかな?」

「あ、ああ。多分その話だと思う・・・。」


 そう答えながら誠は若干の違和感を感じていた。観察者の話では、勇者は俺のいた世界からきて、戦いを強要されて狂ってしまったと言う話だったはずだ。まあ、五百年も前の話なら脚色もされているかもしれないが・・・。なぜか誠はその違和感がぬぐえなかった。


「さてと、話しているうちに目的地に着いてしまったね。」


 納得は出き無かったが、そう言うマルコに促され誠は目の前の建物を目に入れた。


「ここは止まり木の宿と言ってね、短期滞在を目的とした宿なんだ。申し訳ないがあまり高い宿は用意できなくてね。三日分の宿泊料はこちらで払っておいたから。まあ君なら冒険者ギルドで登録すればすぐに生計を立てられるようになるだろう。また改めてお礼に伺わせてもらうから、もし宿を変えることがあったら、教えてほしい。」

「ああ、わかった。ずいぶんと世話になって悪いな。」

「かまわないさ。君は私たちの恩人なのだから。」


 そういって去っていくマルコを見送ると、誠は宿のドアを開け中に入っていった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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