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エルマグニア帝国の花嫁奴隷  作者: 蔵武世 必
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第五章 花嫁奴隷 救出クエスト 二日目

 十一月十一日朝、宿泊している宿から行商人の格好で外出したリックは市街地に向かった。以前バルコスキが語っていたセーフハウス(隠れ家)を探すのが目的だった。

「ジェネラル閣下、我々がなぜ長きに渡って帝国内で諜報活動を続けられるか分かりますか。それは現地協力者とセーフハウスがあるからですよ。しかもいたる処にね」

 バルコスキの言葉に嘘はなかった。根無し草のような活動では長続きしない。現地に溶け込み、場合によってはそこで所帯を持って人知れず諜報活動を続ける。それぐらいの気概がなければ、有力な情報に接することはできないのだとリックは身に染みて感じた。同時に己の無力さを知った。

 午後遅くまで歩き回ったが、徒労に終わった。何の情報もつかめず、バルコスキにも接触できない。

 落ち込んだ面持ちで噴水が舞う中央公園のベンチに腰かけた。ここは帝都市民の憩いの場であり、夕方だというのに、人通りが絶えることはなかった。親子連れが噴水の周りで遊んでいる姿が微笑ましかった。

 だが、リックの心はまるで晴れない。あと九日しかないのだ。


 アーヤの性格からして、ホルギン総裁の公邸に到着しても、肝心の和平協定が締結されないかぎり、心を許すことはないだろう。そしておそらく和平協定締結を見届けたのち、命を絶つ・・・。

 アーヤのブレない信念をここ数日の間に何度も見せつけられたリックはそれが彼女の真意であろうと理解した。

────そんなことがあってはならない。アーヤは我が国の宝、わたしの剣だ。なんとしても救い出す。

 しかし・・・そのすべが見つからない。

「すまない・・・アーヤ」

 リックは力なくつぶやいた。


 街中の酒場に帝国軍兵士の姿がほとんど見当たらない。これは不思議なことだった。ローライシュタイン大公国では外出許可を得れば、軍人でも街の酒場等に繰り出すことができる。ときには息抜きも必要だというのが基本的な考え方だった。

────帝国軍将兵に外出許可が与えられないとは考えにくい。ならば、なぜ酒場に軍人の姿がない?

 リックは街を巡回する憲兵の姿を追い、帝国軍兵舎の場所を突き止めることにした。だが、かれらは交代時間になると一箇所に集まり、幌付きの荷馬車に乗って去っていく。徒歩で追いかけるのは困難だ。

 リックは一時的に宿へ戻り、(うまや)に入れてあった愛馬ティタンの係留を解いた。これなら容易に荷馬車を追うことができる。夜になって別の交代用荷馬車が留まっている場所を発見し、物陰からようすを伺った。あの荷馬車を尾ければ、兵舎の場所がわかる。そして兵舎を張っていれば、なぜ軍人たちが街中に繰り出さないのかも自然と判明するだろう。それがリックの見立てだった。

 何時間監視を続けただろうか。すでに時刻は深夜に近づいていた。寒さをこらえながら監視を続けていると、突然背後から声がかかった。

「おまえ、こんな時間になにをしている?」

────まずい! 後方にまったく注意を払っていなかった。巡回中の憲兵に見つかったのだろうか。

 なんとか言い訳を考えつつリックは後ろを振り返った。頭巾をかぶった男が一人、そこにたたずんでいた。

「白馬のティタンを横に置いて監視の真似事ですか。ジェネラル閣下、夜でなければ拘束されていますよ」

 リックはその声に聞き覚えがあった。

「バルコスキ! おまえなのか?」

 男は頭巾を脱いだ。まぎれもなくバルコスキ本人だった。



 リックはバルコスキに案内されて、そこから少し離れた場所にあるセーフハウス(隠れ家)にやってきた。バルコスキは暗号化された順番で扉をノックし、解錠の音を確認すると中へ入った。リックも続いた。

「おかえりなさい」

 女の声が聞こえた。部屋の中には声の主である女が一人、ほかに男が二人いた。

「皆に紹介する。本来ならこんな場所に来るはずがないお方だ」

 そしてバルコスキはリックを仲間に紹介した。

 栗色の髪、地味な顔立ちの二十歳過ぎの女はヘリアンソス、そして奥で机に張り付いている五〇代とおぼしき男はセドロ、ソファに座っていた三十代の男はトラスニックという名だった。もっとも、全てコードネームだったが。

 かれらはリックの正体を知ると驚き、全員が立ち上がって右手を九〇度に掲げて敬礼した。

 バルコスキが続けた。

「ヘリアンソスは街中での聞き込みが任務、セドロは身分証、通行証等の偽造担当、トラスニックは解錠・潜入のプロです」

 バルコスキ以外は知らない顔だった。ヘリアンソスはローライシュタイン大公国出身だったが、他の二人は帝都ジースナッハで生まれ育ったと聞かされた。生粋の帝国出身者がなぜローライシュタイン大公国の諜報活動に与するのか、リックには分からなかったが、プロ中のプロ、バルコスキが選定したのだから、間違いはないのだろう。

 リックはソファに腰かけ、ジースナッハに来た経緯を説明した。

「なるほど、それはかなり難しい任務ですな」

 バルコスキが応じた。

「期限が切られていなければ、さまざまなチャンネルを使って確認する方法があります。だが、今回の場合、残り実質八日間しかない。取れる手段は限られています」

「どういう手を選択すべきだろうか」

「一晩考えさせてください。泊まる部屋を用意しますから、今夜はここに宿泊していってください」

 リックはバルコスキの申し出を受けることにした。

週三回の更新を行います。月、水、金の予定です。

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