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エルマグニア帝国の花嫁奴隷  作者: 蔵武世 必
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第一八章 フィナーレ

 セーフハウスへ戻った六名は仲間と再会し、今後の進路を決定した。リック、アーヤ、ドーラ、ラフィーに加えて、エスカニア、カリーニャ、カスターニャがローライシュタイン大公国へ向かうことになった。当初クローネは単独でフェスランキシュ王国へ帰る予定だったが、リックの提案により道中の安全を考えて、いったんローライシュタイン大公国へ赴き、そこでルージュとの旧交を温めた後、帰国するという旅程に変更となった。

 バルコスキ、トラスニック、セドロ、ヘリアンソスの四名はこれまでと同様、今後も帝国内に留まり、諜報活動を続けるとリックに誓った。


 十一月一九日の夜はこのセーフハウスで初といえる盛大な晩餐会が開催された。ミッションの成功を信じて、残った仲間たちが晩餐の準備を進めていたのである。

 苦しい日々が続いたこともあり、その日の料理とお酒の味は格別だった。皆が喜び合い、宴は夜明け近くまで続いた。


 十一月二一日、いよいよリックたち一行はローライシュタイン大公国へ帰郷する旅路についた。この日のために、リックは大枚をはたいて寝台付きの大型馬車を四台手配させた。二名ずつ分乗できるようにするためである。その組み合わせだが、リックとアーヤ、ドーラとラフィー、エスカニアとクローネ、カリーニャとカスターニャ、これが全員一致の結論であった。当初、アーヤは遠慮もあって、ティタンに乗って併走すると申し出たが、リックの「わたしと一緒はイヤか?」という問いかけにうつむき、「いいえ・・・ご一緒させてください」と応じたのであった。


 車中、アーヤはリックに問いかけた。

「リック様、最終交渉の場でもしもホルギンが実際にリック様を傷つけようと画策したら、どうなさるおつもりだったのですか?」

「うむ、その想定はしていなかった。こちらも必死だったからな。そうなった場合はどうしただろう。やはり抵抗するのかな?」

「いやです。リック様、もうそんな危険な賭けはやめてください。そうなる前に交渉を打ち切ればよかったのです。アーヤはリック様が命を賭したことに戦慄を覚えます。二度とそんなことをなさらないとわたしに約束してください」

「それはできない。アーヤを救うためには賭けに出るしかなかったのだ」

「・・・わたしがどれほど心を痛めているのか、お分かりになりますか?」

 そう言ってアーヤはリックの手を取り、自分の左胸に押し当てた。

「わたしの鼓動が伝わりますか? リック様がいなくなってしまうなんて、アーヤには考えられません。そのときには躊躇なくわたしを切り捨ててください。リック様がいない世界でわたしだけが生き長らえるなどありえないことです」

 感極まったか、アーヤはリックの胸にすがりついた。

「・・・リック様、大好きです。愛しています」

 リックは初めて本心からアーヤの気持ちに応えようと思った。小刻みに震えるアーヤの華奢な躰を抱きしめた。二人は自然に熱いキスを交わした。


 十一月二四日、旅の一行は無事に首都シュタインズベルクへ到着した。大公エリーゼ・ローライシュタインと妹ルージュが大公宮殿で出迎えた。

 馬車を下りてからアーヤはリックの隣に寄り添い、腕を組んで離れなかった。その瞳は熱く潤んで、女の眼差しになっていた。

「あ────ッ!!! あ゛あ゛あ゛、あぁぁあぁぁぁあぁ・・・・」

 二人の間のただならぬ雰囲気を瞬時に嗅ぎつけたルージュは指差しして、わなわなと震えたが、それ以上なにも言えなかった。

────アーヤ、想いを遂げたのね。よかった。本当によかった。

 エリーゼは二人を素直に祝福した。


 雪が降り始める直前の季節である一二月六日、エリーゼとリックを乗せた大公専用の八輪馬車(通称88)が帝都ジースナッハへ向かって出発した。和平協定調印のためである。護衛部隊指揮官には一個中隊を率いてアーヤが就いた。当初、アーヤの精神面の負担に配慮して、リックは護衛役を別の者に依頼するつもりだったが、アーヤは自ら志願して大役を務めたのであった。


 一二月一〇日、ジースナッハの元首官邸にてエルマグニア帝国とローライシュタイン大公国との和平協定が無事調印された。指導者フォイエル・ドラスの提示した四条件のみが合意文書に記載された。


 翌年、大陸暦九三九年の春に実施されたベアヴォラーグ同盟の総裁選挙において、マグナー・ホルギンは対立候補に大差をつけられて落選した。「約束」を守らなかったホルギンに対して、帝国内の有力者たちが一斉に離反したせいだと噂されたが、真相は不明のままであった。

 アレイアウス大陸の群雄さまざまな思惑を秘めて、九三九年、雪解けの季節が到来した。

エルマグニア帝国の花嫁奴隷

あなたのために死んでくれるヒロインはいるか? 第二部 完

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