BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY
この相棒。レミントンM700BDLは、元メンバーの、”ヤクザ屋さん”が餞別として俺にくれたものだ。餞別……、いや、形見分けと言うのが正しいのかもしれない。
彼は、このコミュニティに、大きな恩恵をもたらしてくれた。
ヤクザ屋さんは、その名の通り、ヤクザだった。
それが、人類再建派と呼ばれる組織に属していたのだから、なんだかおかしい。
人類再建派とは、元警察官、元自衛隊、元ヤクザ、そんな猛者達が寄り集まった。武装集団だった。
それはまだ、このコミュニティにも、十数名の同志がいた頃だ。
ヤクザ屋さんと、そしてコトは転戦しながら、このショピングモールに辿り着いた。
コトとの再会には、俺は本当に驚いた。
やはり、神様かなんかが、俺の都合のよい世界を作ろうとしているのか、とも勘ぐった。
そりゃあそうだろう。終わる世界で、初恋の相手が目の前に現れたのだから……。
コトも、政府崩壊後から、人類再建派に属し、戦い続けていたらしい。
ヤクザ屋さんは、その時には負傷していて、今思えば、すでに感染していたのだと思う。
彼は、我々に戦い方を教えてくれた。
なぜか、特に俺に目をかけてくれたように思う。
どうしてかはわからない。しかし、俺がコトに惚れていることは見抜いていたようだった。そんな気がする。
彼は、最後まで抗い続けた、
深夜、一人屋上で、
「けっ! ムシなんかに負けるかよ!」
と、叫んでいたのを見たことがある。
おそらく、自分の脳内に潜む微生物と、己が精神をかけた攻防を繰り広げていたのだろう。
しかし、最後は、自分を撃ち殺してくれ、俺に頼んできた。
俺は、地下のコンテナの中で、彼の首の後ろを撃った。
頸椎を完全に破断した。
俺はためらわなかった。
あれは、確かトカレフかなにか、小さなハンドガンだった。
”コトと一緒に戦ってきた”。そう、俺はヤクザ屋さんに嫉妬していたのだろう。
彼とコトの間に、男女の関係があったかどうかは知らない。いや、そんなことはないだろう。コトには愛する旦那が、梨元くんがいるのだから。
しかし、
俺は、彼を、邪魔だと思った。
だから、ためらわず。
引き金を引いた。
まるで、介錯をするような、とにかく、粛々と進められた処刑だった。
俺は、心静かに引き金を引いた。
「うまくやれよ……」
彼は最後にそう言った。
苦しむことなく殺してくれよ、という意味にとらえたが。もしかかしたら、”コトとうまくやれよ”、だったのかもしれない。後になって思ったのが、単に、”達者でな”と、言っただけかもしれない……。
彼が遺したメモには、人類再建派が各地に残した銃器、爆薬の在処が記されていた。
ずいぶん長い時間をかけてそれらを回収して回った。
”外出”と呼ばれる物資調達の度に俺は、近い場所からそれらを探して回った。
彼が後生大事に持っていたライフルは俺がもらった。
それが、レミントンM700BDL。
今の俺の、相棒だ。
彼の遺してくれたそれらのおかげで、このコミュニティ、……鳥越ホームズ小平店のメンバーは、今日まで生きて来られた。
だから、俺はこうして。硝煙の臭いを感じる度に、ヤクザ屋さんの冥福を祈らずにはいられない。