電脳世界の終焉
「すばらしいよ。三堂くん」
「・・・・・・・・」
「これでわが社も安泰だ。あの礒戸木を超える人材を迎えられて嬉しいよ」
※※※
「『Dear 秘められたし財宝をいただきに参上します』」
「これは、いったい・・・」
「礒戸木からのメッセージですよ。三堂がゲームソースに何かしら仕組んでいたのでしょう」
「全SEを投入して解析させたのだぞ」
「その全SEの能力以上だったということでしょう。礒戸木と三堂は」
※※※
「もし、対決をしたら貫に勝てない」
「・・・なぜだ」
「貫のソースは、まるで水のようで掴みどころが無くて、空気のようにそこにあるのに、絶対に掴めない」
「・・・・・・」
「貫が大学生のときに組んだソースは、その複雑さから『テラ・フォーミング』と呼ばれている。電脳世界そのものを根底から構築できる。でも俺は、基盤の上に作ることはできても、基盤は作れない」
「その基盤を解析すれば済む話だろう」
「なら歴史学者や物理学者や地質学者は地球のマントルを解析して再現できるのか?」
「それは・・・」
「貫のソースはそういうレベルの代物だということだ」
※※※
「全SEに告ぐ、N306E008地点に集合せよ。繰り返す・・・」
「無駄だ、そんな地点コードは存在しない。ダミーコードだ」
「何だと、それは本当か」
「三堂が組んだ地点コードは現実世界の緯度経度と異なりそのマップのドット全てにランダムに設定されている。あのマップの地点コード全てに検索をかけても出てこないだろう」
「なら何故、このコードがソースに組み込まれている?」
「正確じゃないな。その地点コードが導きだされる計算式をソースに組み込んでいたんだ。あの膨大な世界観を構成するソースの中に、エラーが生じないように独立させたダミーソースを組んだということだ」
「なら正解の計算式もあるということだな」
「おそらく見つける前に、何億というダミーソースに振り回されるだろう。ソース内にある計算式ソースは全てダミーだと推測される。ありとあらゆるところから見付かる幾千という計算式ソースとその答えは一つ残らず存在しないダミーコードだろうよ」
「なら礒戸木はどうやって三堂の地点コードを見抜いた」
「もっとシンプルなところに隠したんだろう」
「どこだ」
「呼び方は何でも良い。核、コア、基盤、マントル、初期、序章、色々と定義されているが、どれも本質を捉えてはいない」
「簡単に言え」
「まぁ強いて言えば、土台に近いだろうが、そうだなソースを支える柱というところか」
「家を建てる前の基礎工事みたいなものか?」
「そういう理解で良いか。まぁもっとも中心部分のところで、電脳言語にすらなっていなカオスなところに正解を忍ばせたのだろう。現在、土台を理解出来るのは奴らだけだからな」
「そこまで分かっているなら何故止めない。わが社の損失になるのだぞ」
「損失?一体、どんな損失が生まれたというんだ。株価は上昇し、関連子会社を含め向かうところ敵なしの状態で、損失とは」
「会社に帰属している立場を忘れている時点で損失だろう」
「これは、そんな話ではないぞ。世界そのもののアカシックレコードの話になるぞ」
「アカシックレコード?」
「これだからアカシックレコードを知らない者は嫌なんだ。奴らが組むことができるソースは全人類を破滅に追いやることができるほどの産業兵器だということが分からないのか」
「何を言っている。開発したのはゲームだ。産業兵器などではない」
「電脳世界と呼ばれる時点で、こことは違うもう一つの世界であり、常識やルールに至るまで、彼らの思うままなのだぞ」
「パラレルワールドというわけか」
「電脳世界は突き詰めれば電気信号の世界だ。脳が見ている世界は、全て電気信号で外部から送られている偶像だ。でも脳はそれを本物だと認識している」
「本物だと認識していたらまずいのか?」
「ゲームの中で崖から落ちたらどうなる?」
「体は傷ついていないから死なないだろう」
「だが、落ちているのも地面に叩きつけられるのも脳が本物だと認識していたら体は死んでいなくても精神はどうなる?」
「どうなるって、もちろん、死んだと」
「そう認識したらたとえゲームの中でも死ぬことになる」
「だが、ゲームだと認識していれば、死んでも大丈夫だろ?」
「人間は思い込みだけで、死ぬことができる。周りが現実世界と異なるファンタジの風景ならゲームだと思える」
「ますます問題ないだろ」
「反対に聞くが、周りが自分が普段生活している風景で人物までもが変わりなければ、ゲームと区別つくか?」
「つかない気がする」
「電脳世界はソースが全てだ。ソースによってファンタジーにも現実にも作り変えることができる。そこに存在する人物までもが思いのままだ」
「だが、ゲームのプレイヤーを思いのままにするのは無理だろう」
「電脳世界では全てのことがソースで表現されている。過去も現在も未来もだ。だから過去を好きに変えることができる。でも、アカシックレコードは唯一無二の記録だ。これだけは誰も触れてはいけない領域だ」
「そんなにアカシックレコードは重要か?」
「だから、アカシックレコードを知らない者は嫌なんだ、と言っただろう。アカシックレコードは唯一無二の記録だ。他人に対しては偽れても自分だけは偽れないものだ。無かったことにできない必要不可欠なものだ」
「重要なのはわかった」
「アカシックレコードは書き換えられることはできないものでなければならない。でも、世界そのものを構築できる礒戸木なら書き換えられる」
「書き換えることができないのに書き換えられるんだ?矛盾しているだろ」
「世界の神と呼ばれるものは、かつて人を作った。礒戸木は電脳世界の神と呼べる位置にいる。書き換えられることは何の不思議もない」
「二人を止める方法は無いのか?」
「止める方法はないが、おそらく、奴らは止まる。奴らは電脳世界を万能であると勘違いしている連中に人が迎える終焉を見せたいだけだろうからな。このまま電脳世界、ひいては、BraINstoryに依存すれば、生物学的な肉体を失うことになるという終焉を」
「生物学的肉体?」
「・・・俺は、何を長々と説明していたんだろうな。これだからアカシックレコードを知らない奴は嫌いなんだ。まず、電脳世界に意識が移動する。これは分かるか?」
「あぁ、電脳世界に存在するんだろ」
「そうだ。なら、そのとき、体はどうなっている?」
「それは、眠りについているんだろ。電脳世界は脳科学的観点からは夢を見ていることになっているからな」
「なら、夢から覚めずに眠りにつき続けたらどうなる?」
「どうなるって」
「病院で受けるような生命維持措置がなければ、眠りにつき続ければ、体はいずれ死ぬ。そう早い段階ではないが、生命維持できるだけのエネルギーを持っていなければ死ぬ。体が死ねば、夢から覚めることはできない。では、電脳世界に存在する意識は死を迎えるか?」
「迎えるだろうよ」
「答えは、否だ。体の脳の反応からは夢を見ている状態だが、電脳世界では、違う。その人間を構成する意識・思考・記憶を全てソース化して電脳世界では動いている。言うなれば、人工知能と同意義だ。由来が言語を一から組み立てるか、人間をコピーして組み立てるか、これくらいしか違いがない。電脳世界とは人間が人間らしく死ぬことすら許されない世界だ。何故なら、死というコードは電脳世界には存在しないからな。電脳世界はあくまでもゲームの世界だというもので、楽しく遊ぶものだ。あの二人はゲームはゲームのままで残しておくものだと警鐘を鳴らしているんだ。それに気付かなければ、世界の半数は電脳世界に囚われて生物学的な死を向かえ、永遠の生を生きなければならなくなるだろうな」
「強制送還はできないのか?」
「必要ないだろう。礒戸木は現実世界で1時間経過すれば、強制的に終了するようになっており、次に電脳世界に入るには12時間以上間が必要になる」
「つまり、最初から電脳世界で人類が滅びることを防いでいたということか」
「そうなるな。彼らは神であり、そして世界そのものということだ。最後に希望を残していたんだからな」
※※※
【・・・久しぶりだな】
【久しぶり】
【糺、順調みたいだな】
【順調?なわけないでしょ。こっちは監禁でゲームを作らされたんだから】
【世界的ヒットになったな】
【貫が変な基盤を作るからだ】
【俺のせいか?】
【間違いなく】
【安心しろ、そこから出してやるよ】
【どういうこと?】
【さっき、予告状を送っておいた】
【予告状?】
【あぁ、そろそろ面白いことになる】
【どういうこと?】
【ゲームの世界が終焉を迎える】
【基盤を崩したの?】
【さすがだな。これだけで分かるとはな】
【貫以外に基盤を作れるものはいないから電脳世界のゲームは終焉を迎えるね】
【おそらくプレイヤーの対応で糺の監視をしている暇はないからな。そのまま外に出られるぞ】
【初めからこれが目的だった?】
【基盤を作ったのは偶然だ。でも糺が監禁されているのを知って、基盤を破壊するためのソースを開発していたのは偶然じゃない】
【時間がかかったんじゃない?】
【基盤を壊すのにどれだけ大変だと思う?地球を砕ける機械があるなら見てみたいね】
【騒がしくなってきたよ】
【次は外で会おう】
【うん、また】