ペンギンやめました。
ペンギンやめました。
ぼく、ペンギンやめました。
つまり、どういうことかというと、ペンギンをやめたということです。
これから、どうするかって?
そうですね。将来は、空をひとっとびして、海外旅行がゆめです。さかなのお友だちをつくって、深海旅行もすてがたい。
青い空の下、ゆめを膨らませていた元ペンギンの頭の上に、白い翼のことりが一匹とまりました。
「聞いたよ。ペンギン兄ちゃん。ペンギンをやめちゃうんだってね」
「ああ、ことり君。そうだよ。ぼくは、もうペンギンじゃないから、べつのなまえで呼んでほしいな」
「何て呼べばいいの」
「好きなように呼んでくれたらいいよ」
ことりは、少し頭をひねってから言いました。
「じゃあ、背中が黒いからクロ兄は、どうだろ。」
「かっこいいね。」
ことりが、かえった後も、元ペンギンは、新しい名まえに、こころをおどらせていました。
その黒く凛々しい肩を水辺にうつして、うっとりしていると、水面から、尖った頭の持ち主が顔を半分だけのぞかせました。
「ペンギンさん、ペンギンさん、あなた、ペンギンをやめるって、ほんとうなの」
「かくいう、あなたは、さかなさん。ええ、もう、ペンギンではありませんから、あんしんして、顔をみせてください」
「そう、私を食べることもないのね。もう、ペンギンさんと呼ぶのは、おかしいかしら」
「今、ことり君に新しい名前をつけてもらったところです。クロ。どうです。いい名でしょう」
「クロさん…」
さかなは、どうもしっくり来ないというような表情を見せました。それを察した元ペンギンは言います。
「好きなように呼んでもらって、かまいませんよ」
さかなは、少し頭をひねってから、はっと顔を輝かせました。
「でしたら、そのかわいらしいおなかにちなんで、まるさんと呼ぶのは、どうかしら。」
いつもよそよそしいさかなから、可愛いといわれて、元ペンギンは、スキップで家に戻りました。
木でできたドアを開けると、暖炉のそばの椅子で、ペンギンのママが編み物をしていました。
「おかえり。お前、ペンギンやめるそうじゃないか」
ママは、手を止めることなくマフラーを編み続けました。
「ああ、クロでも、まるでも、好きなように呼んでよ」
「ペンギンではだめなの」
「だって、母さん、ぼく、もうペンギンではないんだよ」
「なら、お前は、なにになったの」
「ぼくは、ぼくだよ」
彼のママは、ふふっと口許に笑みをうかべて優しく言いました。
「へぇ、そうかい」