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すがりつく女

「ぷぅ…」


ぽんぽん、と我愛が腹をさする。こんな大物を食ったのは久々だった。一週間は水だけで生きていけそうだ。

それにしても、ここ最近は怪人が多い。小粒の雑魚ならそこそこ見かけたし退治もしてきたが、大物に合う確率が明らかに多くなってきている。ただの波かそれとも何かの前触れか。震災や噴火などの大規模な自然災害の前には動物達が騒ぎ出すというが…。


「あ、あの!」

「ん?」


声のした方に顔を向けると青い顔をして倒れ込む女に寄り添う別の女がいた。確か淵子とか言ったか。


「あ…ありがとうございました!ホント…危ないところでした!あなたがいなかったら私達二人とも絶対死んでました!」

「そりゃよかった。でもその女大丈夫なの?足スパっとやられてたけど…。」

「あ、はい!ですから簡単な止血をしてさっき救急車を呼びました!そろそろ来てくれるはずですが…。」

「そうかい。だったら後は公共施設のお仕事だ。俺は行くよ。」


我愛は踵を返し立ち去ろうとした。しかし。


「あの!待ってください!さっきの力…もしかしてあなた10年ぐらい前にヒーローとして活動してませんでしたか!?」

「…してたら、なに?」

「わ、私…小さい頃ヒーローに助けてもらったことがあるんです!その人が使ってた能力…なにか小さなものにバラバラに分かれる力でした!もしかして…あなたじゃないですか?」

「さあね。そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。似た力持ってる奴なんて結構いるだろうから分かりっこないよ。」

「待って下さい!」


淵子は我愛の手を掴みすがり付く。


「10年前…ジャスティス歴になる一年前の1992年2月6日の午後5時頃!打倒町の凱旋橋の下!忘れもしません!怪人に殺されそうになって泣いていた私を助けれくれたヒト!あなたなんじゃないですか!?」

「…分からない。覚えてないよ。顔は見たの?」

「いえ…薄暗かったですし、涙で目が霞んでましたから。でもその人は優しく私の頭を撫でて…もう大丈夫だっていってくれたんです!それが本当に嬉しくて暖かくて。えへへ、それでまたないちゃったんです。命の恩人の顔、一目見たかったのに。ダメですね、私…。」

「いや…。」


その時。どこか遠くからかすかにサイレンの音が聞こえてきた。淵子が呼んだ救急車がやっとご到着したのだろう。


「おい、救急車が来たよ。良かったな、あの子も助かるだろう…多分。」

「あ…良かった…これであの子も…。」

「そうだ、助かるんだ。それでだ、俺はそろそろここを去らなきゃいけない。人に見つかると色々と面倒なんだよ。だからこの手を離してくれないか?」


少女は動かない。


「おい、頼むよ。きっと俺はあんたの憧れのヒーローじゃない。ただのしがない元ヒーローさ。」

「………。」

「ちょっと!人に見つかるとまずいんだって!早くここを離れなきゃ…」


その時だ!


「あらあらまあ…派手にやったわねえ…」


背後から聞こてえてくる声に我愛があからさまに嫌そうな顔をする。だってこの声は聞き覚えがあった。


「ああ…だから嫌だったのに…だから早く…はあー…。」

「あら、久しぶりにあったお姉さんに随分な態度ねえ?」


振り返る。そこにいたのは長身の女だった。Yシャツにジーパンというラフな格好。右目には星が浮かんでいる。

情熱的な燃えるような赤髪が暗い闇の中輝いて目立っていた。


「…よう真城衣。聞いたぜ、今は病院の護衛ヒーローやってるんだってな。救急車に付き添ってなくていいのか?」

「それは別にいるからいいの。私は速攻で現場に付いて救急車が来るまで保護するのが役目。で…これはどういうこと?『ヒーロー以外の怪人に対する戦闘行為を禁ず』…。この法律、忘れたとは言わせないわ。」

「あー…いや、まあ…。俺はどうなる?」

「当たり前、捕縛して確保。あとは警察のお仕事よ。」

「だよなあー…。はあーめんどくさ…。」


我愛は淵子をちらりと見る。彼女は未だにこちらを強く掴んで離してくれない。これを振りほどく暇はない。

なぜなら目の前のこいつはそれだけ厄介な相手だからだ。ならばやることは一つ。


「いやーまともに生活出来てるみたいで安心したよ。あの人も安心してるだろう。」

「…まあね。それと話を逸そうとしないでくれる?逃げるのも禁止。当たり前よね?」

「ああ。そんな言葉に素直に従わないのも俺としては当たり前だ。そうだろう?」


笑顔と笑顔。二つの仮面が睨み合い、場の重力を上げてゆく。

二人が叫んだのはほぼ同時だった。


「バグズ!!!」「デビルウィッチ!!!」


我愛の全身が無数の屑虫へと変わっていく。淵子もいっしょに。

後ろに跳び、飛ぶ。屑虫の塊は空中を切り裂いて闇夜をかける。屑虫が数瞬前までいた場所には電車の車両並に巨大な手があった。持った魔女のとんがり帽子を網のようにふるい虫を捕まえようとしたのだ。

手は帽子の先っぽを掴むと反対側を地面につけ、再び持ち上げた!地面とツバの隙間から複数のコウモリが溢れ出す!奴らはホウキに乗り手には魔法の杖を持っている!そして屑虫の群れへと突っ込み、杖を振る!光だ!真っ白な閃光が辺りを騒がしく照らし虫を焼き尽くす!我愛絶体絶命!やられた!?


「…?おかしい…。」


違和感の原因はその手応えの無さ。光に手応え云々いうのもおかしい気がするが、とにかく何か軽い感覚がしたのだ。


「…逃げられたわね。全くもう、いつの間にこんな技身につけたのかしら。…次はないからね。」


そう、先程光が焼いたのは我愛そのものではなく彼が作り出した分身。彼は自分からいくらかの虫を分離させ囮として利用したのだ。

男子三日会わざれば刮目して見よ。それを怠った彼女の負けだった。

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