初キッス的なお話
【田崎光の場合】
やっと待ちに待った椿の家に遊びに行く日がきた。椿が好きなモンブランを買ってから椿の家に着くと、椿とニコニコ顏の母親が迎えてくれた。
椿の部屋に入ったが、一般的に言うとあまり男の人には好まれないだろうピンクやレースに埋め尽くされた部屋は、椿には良く似合っていた。
ふと、椿の姿を見て、椿の着ている洋服が先週家に来た時のものと同じだということに気付いた俺は、椿が飲み物を取りに行っている間に、椿のクローゼットを開けた。
クローゼットの中にはいわゆるロリータファッションと呼ばれる洋服が詰め込まれていた。するとそこへ椿が戻ってきたため、俺は慌ててクローゼットを閉じて元の場所に座り直した。
「椿。なんで先週と同じ服着てるの?」
「え?」
「なんかおかしいと思って勝手にクローゼット開けたよ。」
「ゴメン!!あの、光くんと会う時は絶対普通の服着るから、だから…その…」
そこで攻めなければならないのは、俺がクローゼットを勝手に開けたことなのに、なぜか自分の趣味について謝っている椿を可愛いと思う反面、他の男に簡単に騙されてしまいそうで心配になる。
「椿。なんでそんな発想になるかな。別に怒ってるわけじゃないんだから。」
「ゴメン。だって男の人はああいう洋服着てる女の子嫌いでしょ?」
「そんなことないよ。俺はそんな椿も含めて全部椿のことを知りたいと思うし好きになれると思うよ。とりあえずその服脱いで、クローゼットの中の服に着替えて。」
椿はなぜ俺がそんなことを言うのかわからないとう表情をしながらも、立ち上がり着替えに行く。椿が着替えて戻ってくると、その姿が可愛すぎて襲いたくなるが、あまり怖がらせても逃げてしまうだろうから、慎重に椿との距離を縮める。
ロリータファッション特有のレースやフワッとしたスカートのせいで、本物の人形のようだった。
俺は椿を横に座らせ、
「今日は椿の好きなモンブラン買ってきたんだ。」
箱の中のケーキを取り出すと、椿の持ってきてくれた飲み物の横にあるフォークをつかんでモンブランを一口サイズとり、椿の口の前に持っていき「ほら、口あけて」と強制的に食べさせる。
お人形遊びのどこが楽しいのかと思っていたが、今の俺は、椿を動かない人形として扱って、全部を世話してあげたくて仕方がない。
「美味しい?」
椿は言葉が出なくて、頷いて美味しいと示してくれた。
「俺も味見していい?」
再び椿が頷くと、俺は椿にさらに近づき、キスをしてさらに椿の唇の間に舌を挿入した。椿の絡め取った柔らかい舌に残った、わずかなクリームの残骸が、ケーキの甘さを教えてくれる。
椿の唇を解放してあげると、椿は真っ赤で驚いた表情をしていた。
「ほんとだ。美味しいね。もう一回いい?」
椿は否定の言葉を口にしようとしていたみたいだけど、返事は聞かずにそのまま再び唇を塞いで、柔らかい舌を絡め取る。舌の絡まるピチャ、ヌチャ、という音が、俺をここから先に誘導しようとするが、まだ戻れるところで椿を解放してあげる。
椿はいっぱいいっぱいという感じで、涙目になってこちらを見つめている。
もっと泣かしたいなと思わず心の声が出そうになるが、怖がらせないためにも黙っておく。
「ゴメン。もうしないから、続き食べさせてあげる。」
「いい!自分で食べる!」
「だーめ!なんでも言うこと聞くって言ったよね?」
椿は黙って頷く。
「だったら、アーン。」
椿は黙って口を開けて、ケーキを食べる。目の前に差し出されたものをつい受け取ってしまうその様子から、椿はドMかな…などと楽しい妄想が頭に浮かんでは消えていく。
「光くん。なんでも言うこと聞くって言ったけど、これって何か変じゃない?」
「どうして?」
「ケーキ食べさせても光くんにメリットはないよね?」
「あるよ。でも本当はフォーク使わないで、俺の指で食べさせたいかな。」
椿は俺の言葉と態度にすっかり萎縮してしまい、黙って俺の与えるケーキを食べている。そんな椿を眺めながら、俺はニヤニヤしてしまうのを止められない。
俺としては椿を好きだと全開で表現しているのだけど、残念だが椿にとってはそれが怪しく感じてしまうのか、警戒心むき出しの猫みたいにこちらの様子を伺いながら、大好きな食べ物を恐る恐る食べている。でもその怯えた姿をみてもニヤニヤしてしまうから、結局今日は警戒心を解くことができなかった。
まあ、キスする目標は達成したから良いけどね。
【藤宮椿の場合】
朝から憂鬱な気分で過ごし、死刑宣告を受けた囚人のように執行人を待ち構える。
本当に現れた光くんを自分の部屋に案内する。
ちなみに私の部屋は思いっきり少女趣味というか、天蓋付きのベッド、ピンクピンクピンクで揃えられた家具やらにうめつくされていた。多分普通の男子なら引くレベルです。はい。
私は光くんの持ってきてくれたケーキを食べるために、飲み物や食器をキッチンに取りに行き部屋に戻って、大好物のケーキを食べようとウキウキしていると、光くんからとんでもない指摘を受けてしまった。
「椿。なんで先週と同じ服着てるの?」
そう、私は基本ロリータブランドの洋服しか着ないため、普通の洋服は先週着た服しか持っておらず、きっと男の人は女の子の格好なんて気にしていないだろうと高をくくっていた。
「え?」
「なんかおかしいと思って勝手にクローゼット開けたよ。」
私は自分が普段ロリータを着ていることを指摘されたことに慌ててしまい、クローゼットを勝手に見たことを怒るということに全く思い至らなかった。
「ゴメン!!あの、光くんと会う時は絶対普通の服着るから、だから…その…」
「椿。なんでそんな発想になるかな。別に怒ってるわけじゃないんだから。」
光くんの怒っているわけじゃないという言葉にホッとしてしまう。
最近は光くんに嫌われたくないのと同時に、少しでも好かれたいと思って行動している自分がいて、戸惑ってしまう。
学力の偏差値は前世からの凝り性気質も重なり、65は超えていると思うのだが、残念ながら恋愛偏差値は20を下回っているだろう。
今まで優等生であるために成績ばかりに目を奪われていたのだが、最近、私が本当に努力しなければならなかったのは勉強じゃなくて、男性を虜にするためのスキルだったのかもと思い始めている。
急にカッコ良くなって、社交的に振る舞う光くんに、今では私の方がドギマギしてしまって、なんだかすごく落ち込んでしまう。
「ゴメン。だって男の人はああいう洋服着てる女の子嫌いでしょ?」
と聞くとそんなことないと言う返事と、なぜか着替えてくるように言われてしまう。
何が目的かはわからなかったが、私は持っている服の中でもわざとレースがたくさん使ってあるものを選んだ。
私を溺愛してる母親と親友の亜美からはお人形みたいと好評だが、光くんの反応は冷めたものかもしれないと思うと、少し怖くなった。
光くんのところに戻ると、特別な態度の変化はなく、横に座らされて私の大好きなモンブランをなぜか食べさせてくれようとする。
目の前に好物を出されたせいで、条件反射でつい口の中に入れてしまう。
美味しいか?と聞かれて黙って頷くと、なぜか光くんの顔が近づいてきて、「俺も味見していい?」と言い終わるのと同時に、自分の唇に光くんの唇が重なった。
それと同時に、何か柔らかいものが入ってくる。
柔らかくて温かいものが口の中を一周してから解放された。
すぐ告げられたもう1回という言葉に拒否する言葉を声に出そうとしたが、その前に唇が再び重なり、舌が私の口の中に入ってくる。舌が絡まる度にヌチャと水音がするのが、もうなんか恥ずかしいを通り越して倒れそうだ。
こんなに長くするの?と思うくらい舌を絡ませて、ファーストキスなのにディープキスをさせられた怒りよりも、もっとキスしたいなとという欲望が湧いてくるのが不思議だ。
少し名残惜しい気もしたが、続きを食べさせてくれると言う光くんの申し出を丁重に断るが、なぜか「俺に嫌われたくないんだよね?」と聞かれて頷くと、結局強制アーンをさせられてしまった。
普通のケーキよりも甘く感じてしまうのは、きっと、光くんに食べさせて貰ってるからだと思う。光くんからも気のせいかもしれないが、甘い空気が感じられる。おまけにさっきから怖いくらいの笑顔で、嬉しそうに私に餌付けしている。
「光くん。なんでも言うこと聞くって言ったけど、これって何か変じゃない?」
「どうして?」
「ケーキ食べさせても光くんにメリットはないよね?」
「あるよ。でも本当はフォーク使わないで、俺の指で食べさせたいかな。」
完全にからかわれていることは理解できたが、光くんが私をからかって何をしたいのかまでは分からなかった。
キスした意味を聞きたかったけど、怖くて聞けなくて、それから後は光くんの顔をまともに見れなくなってしまった。