立場が逆転的なお話
【田崎光の場合】
家から逃げて、友人のところへ漫画を届けて、悪あがきとはわかっているが少しでも長く居座ろうと、友人の本棚から一度読んだことのある漫画を手に取る。
友人に「それ、この前読んだよな」と突っ込まれたが、「また読みたくなった」と嘘をついた。
しかし、いくらなんでも一時間くらいが限度だろうと考えて、友人の家に来てから一時間たったところで自分の家に戻った。
もしかしたら、一人にして出て行ったことを怒って家に帰ったかもと期待して玄関のドアを開けたが、残念ながら藤宮さんの靴は残ったままだった。
重い足取りで自分の部屋をそっと開けると、なぜか熱心にゲームをしている藤宮さんがいた。
ゲームなんて誰でもやるものだし、女の子のゲーマーだって腐る程いるはずなのに、なぜか藤宮さんとゲームというのがどうしても結びつかず、しばらくその様子をながめる。
明らかにはじめてやりましたなやり方じゃないことから、ゲームが好きなのはすぐにわかったので、俺はなんだか藤宮さんに少しだけ親近感を覚えてしまい、声をかけた。
「藤宮さん、ゲーマーなんだ。」
俺の気配に全く気付かず夢中でゲームをしていた藤宮さんは、振り返りこの世の終わりみたいな表情をした。
しばらくよくわからない沈黙の中、最初に口を開いたのは藤宮さんだった。
「田崎くん…」
「ゴメンね、放っておいて」
俺が謝るとなぜか藤宮さんは俺の前で土下座をして
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
俺は藤宮さんが何に対して謝っているのかが分からず、
「え?何?」
戸惑う俺に藤宮さんは、なぜか立ってる俺の足にすがりついてきて、
「ゲームを勝手にしたことも、ゲーマーなのを隠してたことも謝ります。何でもします。だから、このことは両親にも誰にも言わないで!!!」
藤宮さんに誰にも言わないでと言われて、俺はますます混乱してしまう。それと同時になぜか、藤宮さんの不安げな瞳がなんかすごく可愛く思えて、彼女を征服して全てを自分のものにしたい欲求が湧いた。
「言ったりしないけど、そんなに隠さないといけないこと?」
「隠さなきゃ今まで築き上げた地位やイメージが全部無くなっちゃう…だからお願い、かわりに田崎くんのお願いならなんでもするから。田崎くんが望むなら今すぐ婚約破棄だってするし!」
なぜだか分からないが、藤宮さんの何でもするという言葉に、身体中の血流がはやくなるような熱くなるような感覚に襲われた。
「何でもしてくれるんだ…。
じゃあ、今度は椿の家に行きたいな。あと、これからはゲーマーなのとか隠さなくて良いから、あと、俺の前では素の椿でいるって約束して。」
「隠さなくて良いの?私、自分で言うのも何だけど、カワイイ二次元の女の子が大好物な普通のオタクだよ?」
「別にいいよ。じゃあ、来週は椿の家に行くからね。言っとくけど、俺が行くからって部屋を模様替えしたり、見せたくないものを片付けるのもなしだから。」
【藤宮椿の場合】
私は田崎くんが戻るまでのホンの少しの時間だけ、ゲームをする予定だった。
しかし、前世で刷り込まれた筋金入りの癖というものはすぐに抜けるわけはなく、すっかり夢中になり、田崎くんの存在を全くわすれてしまっていた。
「藤宮さん、ゲーマーなんだ。」
不意に声をかけられ振り向いた先にはもちろんこの部屋の主が立っていた。
そして、いままで自分には合わないぶりっ子キャラを演じてまで気に入られようとした努力も全て無駄になったという虚無感で私は頭がくらっとした。
「田崎くん…」
「ゴメンね、放っておいて」
この状況の言い逃れは無理だと悟った私は、なんとか今までのことを謝ってとりあえず最悪の事態を回避することしか考えられなくて
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」と繰り返してひたすら謝罪の言葉を口にした。
「え?何?」
戸惑う田崎くんの足にすがりついてひたすら謝った。
「ゲームを勝手にしたことも、ゲーマーなのを隠してたことも謝ります。何でもします。だから、このことは両親にも誰にも言わないで!!!」
「言ったりしないけど、そんなに隠さないといけないこと?」
「隠さなきゃ今まで築き上げた地位やイメージが全部無くなっちゃう…だからお願い、かわりに田崎くんのお願いならなんでもするから。田崎くんが望むなら今すぐ婚約破棄だってするし!」
なんでこの時、なんでもするという言葉を使ってしまったのかは分からないが、優しい田崎くんなら、謝れば許してくれて、私を貶めるようなことはしないだろうと考えてしまった。
田崎くんにすがりついたまま、頭をあげて田崎くんを見ると、前髪で隠れていつもはよく見えない人懐っこい瞳と目が合って、なんだか動けなくなる。
「何でもしてくれるんだ。
じゃあ、今度は椿の家に行きたいな。あと、これからはゲーマーなのとか隠さなくて良いから、あと、俺の前では素の椿でいるって約束して。」
「隠さなくて良いの?私、自分で言うのも何だけど、カワイイ二次元の女の子が大好物な普通のオタクだよ?」
「別にいいよ。じゃあ、来週は椿の家に行くからね。言っとくけど、俺が行くからって部屋を模様替えしたり、見せたくないものを片付けるのもなしだから。」
こんな変な女にも優しい田崎くんを私はすっかり信用しきってしまった。