乙女ゲ病を治療します。
少し独特の雰囲気です。
終わりが尻切れトンボで、山も谷もありません。
苦手な方はご注意ください。
皆さんは現代病というと何を思い浮かべますか?
アレルギー性疾患、そうですね。
最近は増加の一途をたどっているようです。
パソコンなどによる眼精疲労、なるほど。
皆さんもドライアイなどには気を付けてくださいね。
うつ病、はい、これが一番有名でしょうね。
ストレスなどに耐えて、心に抱える病のこと……という認識で間違いはないと思います。
ただ、私は医師ではなくただのプロデューサーですので、間違いがあるかもしれません。
その場合はご容赦くださいね。
さて、では近年発見され、爆発的に患者数が増えている現代病のことをご存じでしょうか?
ご存じない。
そうですか、あまり有名ではないのかもしれませんね。
乙女ゲ病、という病気がございます。
私も多くを知っているわけではありませんが、実際患者の方々にお会いしたこともございますので少しだけご説明を。
まず、乙女ゲ病の患者はこの地球に存在しない乙女ゲームの内容をよく知っておられます。
あ、乙女ゲームというのは女性向けの恋愛シミュレーションゲームのことです。
それはもう、全てのルート、スチル、選択肢、エンド、キャラクターを網羅しておられました。
ただし、その乙女ゲームは存在しません。
そして、患者の方々は揃ってこう言います。
「この世界は乙女ゲームの世界だ」
と。
ただの戯れ言だとお思いでしょう。
ですが、これがまた違うんです。
患者の方々が言うキャラクターや舞台は確実にこの世に存在しているのです。
キャラクターの口調、性格、外見、悩みや家族構成、全て合致します。
ーーそう、皆さんですよ。
あなたたちのことを患者の方々はご存じでした。
まだ話は続きますので、気を失わないでくださいね。
正直、ここまでならまだ何の問題もありません。
個人情報を知られているのは気持ち悪いかもしれませんが、我慢してください。
何が問題なのか?
患者の方々の多くはこう言います。
「私はヒロインだ」
と。
血迷い言にしか聞こえませんね。
恋愛ゲームのヒロインーーつまり、患者の方々はあなたたちと恋愛をする気満々なのです。
これが非常に厄介です。
ほとんどの患者の方々は逆ハーレムというものを狙っているのですから。
逆ハーレムーーつまり、女性が複数の男性にちやほやされる状態のことですね。
浮気だとお思いの方は多いでしょう。
ですが、患者の方々にとってはそうではありません。
誰にも告白の返事は返していないのだから浮気じゃない、そうお答えになりました。
こうなると何が起こるか解ったものではありません。
患者の方々への不満が募ることでしょう。
ですが、想い人にそれをぶつけることはできません。
ぶつける対象は自然と決まってきます。
同じ女性を好くライバル、それ以外の周りの人、家族。
ーーこうして人間関係や信頼関係を壊してしまった方を私は何人か存じ上げております。
ーー逆ハーレムにならないようにできないのか?
はい、これに関しては可能です。
ただし、皆さんに鉄のように固い意思と周りに変だと思われても気にしない合金製の心が求められます。
患者の方々がルート、または好感度と呼ぶものに逆らうにはそれほどの忍耐を強いられます。
さて、ここまでのお話はご理解頂けましたでしょうか?
解らなかった?
そうですか。
あなたたちが患者の方々に会うと、ろくなことにはならねぇということです。
解りやすいですか、ありがとうございます。
つまり、会わなければ良いのです。
どうやって?
簡単です、患者の方々の興味を別のところに持っていけば良い。
ここに1枚のゲームディスクがあります。
君とぼくの恋する十日間、というタイトルです。
乙女ゲ病患者の方々の証言をもとに作られたものです。
患者の方々がいうところのキャラクターにご協力いただいて実写版、フルボイス、おまけつきのうえにアナザーディスクまでついています。
これを与えられた患者の方々は自然と逆ハーレムが云々だのヒロインが云々だのとは口にしなくなります。
何故か?
全てのルートを攻略し、好感度がカンストしたゲームはもう終わりだからです。
終わったゲームは思い出したときにまたプレイし直せれば良い。
同じことを二度も三度もやるのは、面倒だからーー。
そしてゲームをやっている内に思い出します。
そういえば、他にもあんなゲームがあったな、あれはなかなか面白かったな、という具合です。
そこで新しいゲームを与えます。
基本的にはこの繰り返しですが、その内患者の方々も気付きます。
ゲームと現実を一緒にするなんてとんでもない、ゲームはこんなに素晴らしいんだから。
こうして乙女ゲ病患者は他人に迷惑をかけないダメ人間になります。
これが全ての患者様に有効なわけではないですし、中にはこんな治療の必要ない患者の方もおられます。
ですが、かなり有効なことは私が断言いたします。
皆さんへお願いというのは、私どものゲーム製作にご協力いただけないかということです。
報酬はお支払します。
個人情報に関しても患者の方々が元々知っている範囲で何とかおさめます。
どうか、ご協力いただけませんでしょうか。
ーーあ、兄さん?
うん、皆さん協力してくれるって。
優しい人たちで良かった。
そういう憎まれ口叩かないの。
良いじゃない、手伝ってくれるんだから。
そうそう、素直が一番。
……それで、ヒロインさんは?
そっか、かなり積極的だね。
もう少し待ってね、すぐ作るから。
……そっちこそ、あんまり無理しちゃ嫌だよ。
母さんも心配してる。
うん。
大丈夫、安心して。
攻略なんて絶対にさせないから。
……ん、じゃあね。
また電話する。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字等あれば教えていただけると助かります。
浅脇でした。