異世界行き100番窓口。厨二病編
ここは、異世界行き100窓口。
「おや…、珍しいですね。輪廻の魂ですか。此処には外れたものしか来ないはずなのですが」
「…りんね?よくわかんないけど…。キラキラした神様とかいう人にここに行けって言われたの」
「神?ふむ…管理者の一端に触れたものですか。ならば確かに、ここに来るのも可笑しくないですね……。
お嬢ちゃん…、その神様とかいったふざけた奴は、ほかに何か言ってませんでしたか?」
「願い事を言えとか…、君は死んだとか言ってたよ?」
「可笑しいですね?確かに君は輪廻の魂ですが……、汚れていない。言うならば原初の魂に近いしいものです」
「原初の魂?よくわかんないけど…、願い事を言えって言われたから僕は答えただけだよ」
「そう……聞いてもいいですか?あなたの願い事を…」
「……うん。いいよ!
僕はね、僕の願いはね!」―――。
厨二病、100番窓口に立つ。
ここは、世界と世界を繋ぐ100番目の窓口。
ここに来る者たちの願いは様々だ、迷いしもの、人生に迷いしものと…とても、多種多様、様々だ。
「我が名はシルベスター・スターリン。黒き闇に誘われて参上した。汝我が漆黒の炎に身を焦がしたくなければ重々用心することだな。
我は、漆黒の審判者、黒き魔を見に宿す、最後の時を告げるものなのだから……」
「ええと、山田太郎(31)さん(笑)ですね?
ご職業はNEET警備会社所属の自宅警備員で間違いなかったでしょうか?」
「我は漆黒の審判者!決してニートなどではない……くくく」
「特技は、冥王闇竜殺。成績は中の下、顔は中の下、体重は上の中、身長は中の下でよろしかったでしょうか?」
「ああ、我が冥王闇竜殺を出してしまうと世界が滅びてしまう故、決して開放することは叶わぬがな!」
「某県某市に生まれ、小学校時代は虐めにあい、その頃アニメにはまり込む。中学時代には、黒い服を好み包帯を巻きつけ眼帯をした奇抜なファッションに目覚め周囲に引かれる」
「ふ…、わが闇の正装を愚弄するのか?
我包帯は最悪の災厄を閉じ込めた封印…、これを解くことは決してまかりならん…」
「高校時代は、魔法少女物にはまり込み。
魔法場所に俺はなる!と、魔法少女のコスプレにはまり込み、周囲に引かれる」
「この右目は、その時代に傷を負ったものだ……。ああ、あの戦いは熾烈であった」
「高校三年生の夏。魔法少女のコスプレに使用していたコンタクトを外し忘れ、それから右目にコンタクトレンズを入れることができなくなり、代わりに眼帯を装備したと」
「あの戦いは…熾烈であった」
人生に迷うもの、人として迷っているもの、道に迷うもの。
やはりここには沢山の人が来る。
やはり、ここは、とても……、とても。面白い。
本当に、面白い。
「えーと。
希望は転生……、ですか」
「ああ、我人生に相応しい場に。我を行かせてくれ!!」
「そうですねー。まあ、私の所には色物の物件が回ってきますから」
「ふむ!そうか」
「例えばですね……、ドルマン星人とか?」
「ほ、ほう?ドルマン星人?どんな、星でしょうか?」
「ええ、素晴らしい星ですよ。空気は一酸化炭素に硫化水素30%配合!ほぼ地球の空気にそっくりです!」
「え…、あの。どちらも人体には有毒物ですよね?」
「何を言っているのですか?ドルマン星人に有毒な空気なんて存在しませんよ?」
「君こそ何言ってるの!僕は人間だよ!」
「人間なのですか?」
「ふっ!我は人間などではない、ある時は黒の審判者!ある時は天の代わりにお仕置きする魔法少女!我が名はシルベスターぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!スタァァァァァァァァァリィィィィィィィン!!」
「うるさいですよ山田太郎さん」
「……すいません、でもせめて名前は、シルベスター・スターリンでお願いします……」
「ああ、山田・シルベスター・太郎・スターリンさんですね」
「山田太郎はやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「黙れ!……人間のクズが!」
「え。あ、……すいません」
「大体ですね、なんですかシルベスターって?スターリンって?馬鹿なんですか?爆発するんですか?」
「え、あの、この名前考えるのに三ヶ月かかったんですけど…」
「豚野郎……、人間のクズ」
「え?何、なんで、僕いきなり罵倒されたの??」
「何を言っているのですか、私は、あなたの名前を呼んだだけですが?」
「僕!豚野郎で人間のクズなんて名前つけた覚えはないよ!!」
「何を言っているのですか?
極東三次元宇宙方面の共通言語において、シルベスターは豚野郎、スターリンは人間のクズの意味です。
確かに地球圏は極東三次元宇宙方面において言語面で独特の文化を築いてはいますが、私たち管理者側にとっては、極東三次元宇宙方面においての共通言語は厭くまでスペーステリアンが作り上げた、ベルコロイドに準ずるわけです。
つまり貴方は地球人である前に極東三次元宇宙に属する以上、あなたの名前は私たちにとっては、地球言語風で言うところの豚野郎な人間のクズといった意味合いとなります。
理解できましたか?」
「……はい。済ませんでした」
「分かればよろしいのですよ、豚野郎で人間のクズな山田・シルベスター・太郎・スターリンさん」
「すいませんでした。ごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい。豚野郎でごめんなさい。人間のクズでごめんなさい。ごめんなさいごめんさいごめんなさいごめんちゃい」
「うぜ……」
「魔法少女でごめんなさい。黒の審判者でゴメンなさい。右手に悪魔を宿してごめんなさい。右目にすべてを殺す魔眼を宿してごめんなさい!!」
「黙れシルベスター・スタローン!!」
「は、始めて名前を……よんで、と、見せかけて罵倒されただと!!!そして、……微妙に間違えている……だと」
「失礼。豚野郎な変態ショタ紳士様」
「しかも、微妙でありながらとても嫌な間違えだぁぁぁぁぁぁ!!」
「はあ、本名が素晴らしいのですからもっと胸を張ればいいですのに…」
「へ?」
「英雄たる者よ、栄光の道を歩け、さすれば汝、真たる英雄とならん……」
「へ…?へへ?」
「ヤマダ・タロウ…。極東三次元宇宙方面に置いて語り継がれる伝説の名前です。
スペーステリアンが語り継ぐ極東三次元宇宙方面の歴史に置いて、歴史にヤマダ・タロウの名が出てきたのは三度存在すると言われています。
一度目は極東三次元宇宙方面、第48銀河ドルイド恒星の第2惑星五九に現れた邪馬堕 蛇楼と呼ばれる英雄でした。
彼は、ドルイド恒星を救い。第48銀河をも救った……。
ドルイド恒星には、邪馬堕蛇楼記念館まであるくらいですよ」
「やまだ…たろう…きねんかん」
「ええ…。
次にヤマダ・タロウがスペーステリアンの歴史に現れたのは、極東五次元宇宙歴に置いて144487973397年の事でした。
第263銀河に置いて、星喰いと呼ばれることになる災厄を打ち破り、創造主を打倒し、果ては銀河宇宙全体にまでその名を轟かせたる山 堕太郎。
彼の右腕のひとふりで海を切り裂き、彼が指を鳴らすと星が弾け飛んだ。
そのせいで、第48銀河ドルイド恒星がはじけ飛びましたが、彼がヤマダ・タロウの名を歴史に刻んだのは確かですね」
「……え?なぜか今、さらっとドルイド恒星滅びたよね?ヤマダ・タロウ記念館滅びたよね?」
「三度目にヤマダ・タロウが歴史に現れたのは…」
「いや!もういいよ。山田太郎の歴史はよくわかったから!もういいからぁぁぁぁ!!
なんか…、自分が惨めになるから…。
もう、勘弁してください」
「理解できましたか?自分の馬鹿さ加減が。
貴方は、親から頂いた素晴らしい名前を、勝手に捨てた上に豚野郎で変態紳士な名前を自分につけたんですよ!」
「もういいよ。いいから…、さっさと転生でも…トリップでも…夢オチでも…好きにしてくださいよ……」
「ええ、ええ。そうですね。こちらも、そろそろお仕事を終了に致したいです。
転生の様式には、対象者の了承が不可欠なのですが、そちらの方も既に取れましたので、さっさと終わらせましょう」
「…ああ、はい。お願いします」
「極東三次元宇宙方面第13銀河、メテオグレイシス。環境は地球に酷似しており、生態系もほぼ変わりません。
文化環境の成長が若干地球より遅れてはいますが、そこは想像の範囲内。
人は逞しい生き物です、貴方なら大丈夫だと判断いたしました」
「ええ、はい、ありがとうございます」
異世界行き100番窓口。
ここは迷い人たちの集う場所。今日も新たに運命を開かれた旅人が去っていく。
「ああ、すいません山田様、最後にひとつだけ」
「はい、なんでしょうか」
「貴方は転生し、きっとひとりの少女と出会います。その出会いを大切にして、彼女を守ってあげてください、それが私からのこれから生まれ変わる貴方への願いです」
「それが僕の人生に関わりのある事なんですか」
「いえ、私からの身勝手なお願いです。強制は致しません……、ただ、私は彼女の夢を叶えてあげたいだけですから」
「彼女の願い?」
「ええ」
「それを聞いても、……いいですか?」
「貴方が、聞きたいのでしたら」
「お願いいたします」
「解りました、お教えいたしましょう。
彼女の願いはですね―――」
旅人は去り。残る少女の口元には笑が残った。
彼女は今日も笑う、旅立つ二つの魂への願いを込めて、欲張りすぎたかなと悲しげに笑う小さな魂に祈りを込めて。
「僕の願いはねー、生きること。空を見ること、友達を作ること。
そして、子供として生まれることです」
儚き魂は胸を張るように小さく揺れ、そして困ったようにフワフワ揺れる。
「ぼく…、欲張り過ぎかな?」
「そんなことない、大丈夫。おねーさんに任しておきなさい!おねーさん凄いんだからね」
小さな少女を不安がらせないために彼女は笑う。決して涙を見せることはない。
彼女は受付嬢であり、何より管理者であるのだから。
彼女は決して微笑みを崩すことはない。
「あなたの綺麗な夢、絶対に叶えてあげるわ」
「うん…。おねーさん、ありがとう!!」
少しだけ少女の微笑みから、儚さが薄れていた―――。
とある星、とある街。
今新たな生命が生まれ落ちた。
新たな命を抱え笑い合う夫婦、彼らの真ん中には可愛らしい赤ん坊の姿があった。
「あなた、この子の名前はもう決めたの?」
「ああ、天からお告げがあってね、この子はきっと将来立派な人間にあるよ」
「まあ、素敵、なんて名前なの?」
夫婦は嬉しそうに赤ん坊を抱え上げ、最高の笑を漏らす。
「ああ、この子の名前は!」
―――ヤマダ・シルベスター・タロウ・スタローンだ!!!!