恩師と傷。
「木村先生!」
僕は思わず大声を上げてしまった。
「久し振りね、陸くん。」
木村先生は笑顔で言った。
「あ、はい。お久しぶり…です。でも、なんで先生がここに?」
木村先生は目を細めながら、
「保健室の星野先生ね、私の教え子なの。
確か、彼女が小学校4年生の時かしら。
あの時からしっかり者で、優しい子だったわ。」
と懐かしそうに語った。
さらに、木村先生は続けた。
「私ね、小学校教師を辞めたの。で、今、スクールカウンセラーやってるのよ。」
え!木村先生が辞めた?
「な、なんでですか?」
「今の子供って、様々に辛い事情を抱えてることが多いでしょ?私は、そんな子供達と向き合いたいって思ったの。それだったら、教師を続けるより、スクールカウンセラーとして働いたほうがいいかな、て思ったの。」
……感嘆するしかないと思った。
木村先生は、聖職者と呼ぶにふさわしい人間だと僕は思った。
「さて、今度は陸くんのお話を聞かせてもらおうかな。」
木村先生が話題を僕に切り替えてきた。
「陸くん、星野先生の話だと、最近元気がないみたいだけど、どうしたの?」
「……」
「うーん…じゃ、別の質問をするね。陸くんは、今日何か辛いことでもあった?」
「…はい…」
「そっか…どんなこと?言える範囲でいいからさ、話してごらん。」
「朝来たら…」
「うん。」
「……すいません…やっぱり言えません…」
「そっか…まだ、気持ち落ち着かないか…今日はこの辺にしとくか。」
そして、その日のカウンセリングは終わった。
まだ、心の傷は深く、誰かに話せる状況ではないみたいだ。




