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It's a true world  作者: masterball1000
1/1

Beginning

何番煎じかと問われても、総数を把握していないのだから仕方ない。リスペクトが過ぎて最早パクリレベルであることは明白である。それ一番言われてるから。

 僕の頭の中には哲学が渦巻いている。まあ、僕だけじゃなくて他の人もそうなんだろうけど、生憎僕は他人の頭を物理的にも精神的にも覗くことができないので、結局のところ僕の事しか断定できないわけだ。

 そんなことを思いながら、僕は同時にとある人物の事を考えていた。きっと彼の中にも哲学があったのだろう。僕はそれがどんなものか知らないし、これからも知ることがない。残念なことにそれが何であるか確かめる術はもうないのだ。そりゃあ、物理的にこじ開けることはきっと容易になっているけれど精神的な面で言うと、彼という意識を観測できなくなってしまった今、検視官だって彼の頭の中を知ることはない。

 自殺だった。何が、と言う者なんていまい。言葉通りでここに至って別の解釈ができるのならばぜひご教授願いたいところだった。まあそんなことはさておき、彼は自殺をした。手段は知らない。合衆国辺りだと拳銃が一般的なのだろうけれど生憎とこの国はそんな贅沢を許してくれない。もっと金がかからない死に方をしなさい、という事であろう。ということは首つりだろうか。けれど、みっともない死体になるそうだし、プライドの高い彼がそれを受け入れるかと言われると疑問だった。ならば身を投げたのか。いや、首つりよりもひどいことになる。とすると硫化水素でも発生させたか。アレはいけない、周りの人に迷惑がかかるし、遺された者達にも必要以上の迷惑がかかるからだ。彼はそういう事を善しとしなかった。ならば、なんなのか。

 正直に言わせてもらうと、彼が自殺したと聞かされた時、最初に思い浮かんだのが“どうやって”だった。“どうして”ではないことに薄情さを感じ取るかもしれないが、そもそも僕と彼の関係性について述べると僕たちは自殺志願者であった。友情があったわけではない、親しみはあったかもしれないがそれは同じ目的を持つ者同士の仲間意識のようなものだったのだろう。もちろん、彼もそんな認識だったはずだ。出会いは平凡だったし、そもそも目的さえ平凡だった。

 最近のニュースを見てみると自殺の報道がない日は無かった。決して他の事件が起こっていないわけじゃない。しかし、マスメディアというモノは流行に乗るものだ。社会問題といえど、最近の流行には変わりない。そう、自殺は相当深刻な社会問題となっている。という訳で、僕と彼とが自殺について語り合ったり、時には実践してみたりしても何らおかしなことではなかったのだ。自殺をファッション感覚で行う連中さえいるこの世の中では。

 けれど、そういう連中の中に僕たちが含まれていないかというとちょっと微妙なところだった。気持ちが本当でなかったわけではないけれど、冗談でもあったかもしれない。そもそも、日常的に自殺の話題に囲まれているのだ、興味を持って当然である。と言ってワイドショーを賑わしたコメンテイタ―が今では各番組に引っ張りだこなご時世だ、もうどうしようもない。

 そんなこんなで自殺は極々一般的なわけだ。今では国民の約半数が自殺願望を持っているとか言われているけれど、僕が実感している限りでは七割だ。残りの三割が全部自殺願望を持っていないかというとそうではなく、二割五分が日和見で、残った五分が自殺非難者だ。そして、なんとまあ奇遇なことに、僕の友人にその五分に当てはまるであろう人物がいるのである。彼女は自殺した彼と僕、二人共通の友人であった。さらには、かなりの美人――どのくらいかといえば、彼女が自殺非難者でなければ毎日でも告白されてたであろうぐらいには美人――であり、冴えない二人組である僕たちと何故つるんでいるのか全くの謎であった。


「やあ」


 彼女が話しかけてきた。僕は自宅近くの公園に居り、そこに設置されているベンチであろうものに腰かけていた。彼女の家はこの近くらしく、学校以外ではこの近辺で遭遇することが多かった。


「ああ、君か。何か用?」


 正直なところ彼女に話しかけられたのは不快であった。なぜなら僕は思考している最中であり、そもそもその思考は彼女に対しての物だったから。つまり、ドキリとさせられたということだ。


「何か用、とはご挨拶だね。とでもいえばいいのかな?用がなくちゃ友達に話しかけてはいけない決まりでも?そもそも、あんなことがあったんだ、話題は嫌でもアレだろう」


「そうかい。君がそんな平凡なことを言うとは。今日は洗濯物を早めに取り込んだほうがよさそうだ」


「はは、そんなことをしなくても、雨雲が近づいたら機械が勝手に取り込むだろう。ほら、なんだっけ、新しくでた家事用の機械。テレビでも結構宣伝してたアレ。買ったとか言ってなかったかい?」


 彼女が言っているのは最近大手メーカーから発売された機械であった。キャッチコピーは忘れたが、その機械があれば、旦那よりも主婦がいらなくなるとかいう触れ込みであった。家の母は面倒くさがりなので高価なのにも関わらず発売初日に購入したのだ。ネット上では誤作動の報告がかなりあるがメーカーが回収する様子はない。


「残念ながら買ったばかりの機械は信用しないんだ。それで、何?本当にそういう平凡な話をしにきたの?ほかでもない君が?」


「おいおい、私を奇人変人の類かなにかと勘違いしているんじゃないかね。私は普通の女子学生であり、ありきたりに恋もしている青春を謳歌する青少年だぞ?」


それを奇人変人と今ではいうのだ。まったく。


「青春を謳歌してるってのは今のご時世では異端なんだって。それに、君みたいにお花畑な人間が他にいるとでも?」


「そりゃあいるさ。私の目の前に」


「おっと、当てはまるのはお花畑なだけだぜ?君みたいに青春を謳歌しているわけじゃない」


「どの口が言うかね。こんな美少女に好かれていて、しかも友人関係ときた。一昔前のサブカルなら十分青春モノとして通用すると思うがね」


「そういうカビが生えたようなコンテンツには興味がないと言っているじゃないか。つまり、ネタを理解していない奴にネタを振るほど痛いことはないぜ」


「ならば問題ない。君の存在自体がネタであるから」


 実際、彼女と同じように一昔前のサブカルを好む集団からは、僕と彼女の関係はネタにされていたから間違ってはいないだろう。もちろん彼もいたのだが、なんだか彼女を狙うストーカーだったり、三角関係を形成する要素だったりといろいろと不憫であったことを憶えている。


「なんだその人権やらなんやらを無視した評価は。訴訟も辞さない」


「おいおい、やめろよ。最近じゃそういう案件での裁判が増えてるらしいぜ。まったく、ここはいつから合衆国になったんだ」


「そりゃあWWⅡが終わった頃からだろ」


「……そりゃそうだ」


 実にありきたりな話を続ける。しかし、そもそも彼女がいるところでありきたりな話をするというのが、その時点で異常といえば異常であった。理由がある。この変人がこんな話をするには理由がある。そして、その理由に思い当たることがないわけではなかった。

 彼女は彼の話をしにきた、と言った。あまりに平凡な反応だ。しかし、平凡であろうとなかろうと、彼女はその話がしたかったとしたら。詰まる所、彼女は本当に彼の自殺について僕と話がしたかったのであろう。確信をもってそう断定する。そして、その内容にも予測がつく。

 そう、自殺に彼女が関与しているであろうことを、僕は確信していた。

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