222話 最後のメッセージ
「終わりだぁ‼‼」
魔神の拳を宿した強烈な一撃が黒い巨人に直撃した。
そして、黒い巨人は液体と化してしまい、もう、動かなかった。
「終わったのか……」
立ち上がり、床に突き刺さっている天魔の錫杖を手に持った僕は言う。
すると天魔の錫杖は光と共に消え、僕の天魔化および悪魔化と天使化は解け、元の人間に戻った。
だが、そのとき……。
「ぐぅ……‼あぁ……っ‼‼」
とうめき声を上げ、足を押さえながら僕はその場に横たわった。
とてつもない痛みが左足から感じる。
そう、あのときだ。
黒い巨人のパンチを避け切れず、左足に直撃したとき、天魔化したおかげでダメージは感じなかったが、実際、身体は大ダメージを受けていたのだ。
左足の骨が折れているのか、僕は歩くことも立ち上がることもできなくなってしまった。
ドカンンン‼‼
城の一部が爆発した。
どうやら、少しずつ爆発して行くのだろう。
僕のいるホールはまだ爆発していないが、いずれ爆発する。
僕は逃げたい気持ちでいっぱいだったが、逃げられなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‼‼
と地響きとともに、聞こえてくる爆発音。
死の恐怖が漂う中、立ち上がることができない僕は、空を見上げた。
天井はかなり遠いが開いていて、歪んだ空が見えたのだ。
「みんな……」
と一言、歪んだ空を見上げた僕は言うと、ポケットから携帯を取り出した。
携帯はボロボロだが、幸いにも中身は無事だった。
僕は携帯のメニューの通話機能を選択し、携帯を耳に当てた。
《ティリリリ♫》
ジンの城から離れるために、ジャックさんの車に乗り、移動する天真たち。
「おい!城が爆発したぞ!」
と気を取り戻した聖弥は言うと、突如、真司の携帯が鳴り始めた。
「なんじゃ⁉何事じゃ⁉」
と携帯を知らない神話時代のルークさんは着信音を聞いて混乱したが、真司は綺麗にルークさんをスルーし、携帯の通話ボタンを押した。
そして、僕に問いかけた。
「もしもし!隼人か!今はどうなっている⁉城が爆発してるぞ!」
《俺はもう……多分、ここで死ぬ》
という僕の返事を聞いた真司は僕に問いた。
少し震えた声で。
「死ぬってどういうことだ……?」
《奴を倒せばこの城は爆発することはわかってた。倒したらすぐに逃げようとしたが、先ほどの戦いで、足の骨を折られたんだ》
「おい、冗談よせよ。隼人」
《城は今もなお爆発し続けている。そのうち、俺がいるこのホールも……》
「ふざけんなよ‼‼」
と真司は携帯に向かっていきなり怒鳴った。
ジャックの車は城から少し離れた山道で停車した。
真司は携帯を耳に当てたまま、車から降り、山道から城のようすを見た。
所々爆発していた。
真司は携帯に向かってさらに怒鳴った。
「ここで死ぬなんて、おかしいだろ!お前は昔、俺たちに死ぬなよって何度も言ったのに!お前は勝手に死ぬ気かよ!」
《……あぁ、そうだ》
と僕は答えた。
そのとき、城の一部分が爆発した。
真司たちがいた山道にも爆発音は聞こえてくるが、害はなにもなかった。
「隼人⁉無事か⁉」
と真司は爆発した城のようすを見て言う。
《大丈夫だ……。だけど、火がホールに燃え移って来たな》
「なんだと⁉今ならまだ間に合う!」
と真司は言うと、僕は真司を止めた。
《よく聞いてくれ、真司。俺にとってお前は一番最初にできた友達なんだ。だから、友達をこれ以上、危険な目にはさせたくないんだ》
その声は真司だけでなく、真司の近くにいる人たちにも聞こえた。
《お前を含め、今の俺にはたくさんの仲間がいる。マースさんや黒鳥や朱希羅、天真たち天使に狩武、ジャックさんや、一緒に旅したルークさんと江川とルリ、デリットにラーシにラース……。そして……レアル。皆は俺のために、命を賭けてくれたんだ。だから、ここで死のうが、俺は良い!皆が平和な世の中で生きることができるなら!皆が幸せになれるなら!だから、皆は生きてくれ!俺の分まで!》
そして、通話が途切れた。
みんな、僕の死に涙目になっていた。
いやぁ、本当に良い仲間たちですね。
真司は涙目になりながら、次々と爆発して行く城を見た。
「……行こう」
と真司のとなりで城を眺めていたレアルは言った。
ジャックはレアルに聞く。
「行こうってどこに……?」
すると、黒鳥が答えた。
「行く場所は一つじゃないですか!」
そしてルークさんが言う。
「こんなムードで幸せになれるわけないじゃろう」
天真も立ち上がり言う。
「俺の天使の継承もあいつが持ってるしな」
「よーし!行くぞ!」
と真司は言うと、皆はジャックの車に乗り込んだ。
「わかった!運転は俺に任せろ!」
とジャックは言い、車をUターンさせて、再び走り出した。
そのころ、爆発していく城のホールに横たわっていた僕は、歪んだ空を見上げていた。
《チャンチャカチャン♫》
と携帯がいきなり鳴り始めた。
このメロディーはメールがきた着信音だ。
僕は横たわったまま、携帯を開き、メールを見ると、なんだか涙が込み上げてきた。
『全員、生きて帰るぞ!』
というメッセージだけだった。
だが、それだけでも涙が出て来たのだ。
そのとき、ホールの壁が崩壊した。
崩壊した壁の向こうには皆が立っていた。
「帰るぞ、この野郎」
と真司は言うと、横たわっている僕の肩を組んだ。
「すぐにこの城から脱出するぞ!」
とレアルは言うと、僕たちは急いで車に乗り込み、城から脱出した。
脱出した瞬間、城が爆発し、僕たちは被害を受けなかったが、車が爆風で猛スピードで走っていった。
「よし、このまま天魔の聖堂の山のふもとの町まで行くぞ!」
とジャックは言い、僕たちが乗った車は山のふもとの町へと向かって行った。