204話 朱希羅の過去【前編】
死神の黒刀Ⅱを受け取った朱希羅は昔を思い出しながら、刀を構えた。
「朱希羅ー!早く幼稚園に行かないと遅刻するわよー!」
という声が一軒家に響いた。
「ママ、今いくよ!」
と幼少の頃の朱希羅が母親の近くに駆け寄ると、二人は手を繋いで家を出て行った。
「ねぇ、ママ。今日の夜はパパも帰ってくるんだよね?」
と道を歩いている朱希羅は母親に聞くと、母親は明るい笑顔で答えた。
「ええ、もちろんよ。お父さんは普段は会社で忙しいけど、今日はすぐに帰れるって!何だって今日は朱希羅の誕生日だものね!」
「うん!パパにお願いしたんだ!新しいサッカーボールを買ってって!」
と幼少の朱希羅は言い、幸せそうに笑っていた。
朱希羅の母親はとても美人さんで、朱希羅と同じ赤髪である。
近所の主婦からも評判は良く、真面目で子供思いな母親だった。
朱希羅と母親は幼稚園に到着し、母親はそのまま仕事に、朱希羅は幼稚園で時を過ごした。
「朱希羅!鬼ごっこしようぜ!」
と幼稚園の児童たちが朱希羅を遊びに誘うことが多かった。朱希羅も幼稚園では評判が良く、他の児童のみんなから信頼されていた。
「「「ジャンケン、ポン!」」」
「あ、朱希羅くんが鬼だ!」
と男の子は言うと、児童たちは朱希羅から逃げて行った。
「18……19……20!よ~し!」
と朱希羅は1から20までの数を数え、幼稚園の校庭を走って行った。
やがて、夕方になり他の児童たちの母親がそれぞれの子供のお迎えに来た。
「朱希羅くん、ばいばい」
と男の子が母親と手を繋ぎながら、朱希羅に言った。
「ばいばい、また明日ね!」
と朱希羅は手を振り、答えた。
いくら待っても、朱希羅の母親は来なかった。
「ママ、来ないよ」
と朱希羅は幼稚園の先生に言うと、先生は笑って朱希羅に言った。
「じゃあ、先生といっしょにしりとりしよっか!」
「うん」
と朱希羅は答え、朱希羅と先生はしりとりを始めた。
時刻は19時。
まだ朱希羅の迎えはこない。
心配した先生たちは朱希羅の家に電話をかけた。
「……さくらんぼ!」
「ぼ……ぼ……帽子!」
「し?し……シマウマ!」
と朱希羅と先生はずっとしりとりを続けていた。
そして、しばらくして朱希羅の父親、閻が幼稚園に来た。
「あっ、パパだ!」
と朱希羅は言い、閻に向かって走って行った。
「ゴメンね、朱希羅。待たせちゃって」
と閻は笑いながら朱希羅の手をつかんだ。
「お母様はどうされたんですか?」
と先生が閻に聞くと、閻は答えた。
「妻はちょっと出かけてて、もうすぐ家に帰って来ると思うのですが……。ご迷惑おかけしてすいません」
「いえいえ、子供を預かるのが幼稚園ですから」
と先生は笑って答えた。
朱希羅と閻は手を繋いで帰って行った。
「パパの手……なんか臭い」
と朱希羅は言うと、閻は朱希羅に聞いた。
「本当かい?どんな臭いがする?」
「なんか……鉄の臭いがする……」
「……そうか、ちゃんと手を洗わないとな」
と閻は言うと、朱希羅は閻に聞いた。
「ねぇ、ママはどこにいるの?」
「ママ?ママはねぇ……」
と閻は言い、自分の家の前に立って言った。
「あの世にいるんだよ」
「あの世ってどこ?」
と朱希羅は聞くと、閻は家の鍵を開け、二人は家の中に入って行った。
朱希羅はリビングに入ると、リビングには母親が横たわっていた。
「お母さん寝てるよ。あの世から帰って来て疲れて寝ちゃったみたい!」
と朱希羅は言うと、閻もリビングに入ってきた。
朱希羅は母親の死体を死体と思わずに見ていた。
「あれ?ママ、目を開けながら寝てるよ!すごいねママ!」
と朱希羅は言うと、閻はリビングの扉を閉め、朱希羅に言った。
「いいかい?朱希羅、ママは天国にいるんだ。死んだんだよ。ママは」
「え?なんで死んだの?」
と朱希羅は閻に聞くと、閻は笑いながら答えた。
「パパがママを殺したんだよ」
母親が死んだ。その事実を朱希羅は受け止められなかった。
だが、閻の手に付いた血の鉄分の臭い、そして目を開いたまま寝ている母親の姿を見れば、幼少の子供でも死んだことぐらいわかる。
「なんでよ!ママを連れて来てよ!」
と朱希羅は閻の身体に飛びかかって来たが、閻は朱希羅を殴り飛ばした。
まるで降りかかる火の粉をはらうかのように、朱希羅を殴り飛ばしたのだ。
朱希羅は気絶してしまい、閻はそのままその場から立ち去ってしまった。
この日から、朱希羅の運命は大きく変わってしまった……。