194話 兄弟の想い
狩武がアルべラム大臣と戦闘を繰り広げていたころ、僕たちはそれぞれ聖水を持って天真の聖堂に集合した。
僕はジャックさんに聞いた。
「よし、ジャックさん、これで魔法結晶ができるんですね?」
「あぁ、だが、この聖水をどう混ぜ、結晶を生み出すかは知らん」
「じゃあダメじゃないですか……」
と僕は言うと、聖堂に誰かが現れた。
「ワシに任せなさい」
それはこの聖堂を見守り、魔法結晶を創りだした仙人、ヒュードラッド仙人だった。
僕はすぐさまヒュードラッド仙人に質問した。
「創れますか!?魔法結晶を!!」
「ちゃんと聖水がそろっていれば造作もないぞよ、ふぉっふぉっふぉ、貸してみんさい」
とヒュードラッド仙人は言うと、僕はヒュードラッド仙人に五つの聖水を渡した。
「簡単じゃ、混ぜるだけ~」
とヒュードラッド仙人は言いながら、一つのビンに全ての聖水を注いだ。
「……これで完成?」
と僕は聞くと、ヒュードラッド仙人は答えた。
「時間が経てばいずれ結晶となるじゃろ。な?造作もないだろ?」
「そ……そうですね」
僕はひどく苦笑いした。
そしてもう一人、その聖堂に誰かがやってきた。
「お……お前は!!!」
とそのやってきた人を見て僕たちは驚いた。
そこに来たのは田辺康彦だったのだ。
異空間を無数の斬撃が飛んでいた。
そう、狩武とアルべラム大臣が戦っていたのだ。城のホールがアルべラム大臣の幻眼の指輪が創りだす幻によって、異空間の中にいるような幻を創りだしたのだ。
「フン、逃げ回るその姿、まるでハエだな」
とアルべラム大臣は言いながら、魔覇の神剣から斬撃を狩武に向かって放っていた。狩武は翼で飛びながらその斬撃を避け続けていた。
「くらえ!」
と狩武は言い、アルべラム大臣に向かって光線を放った。が、光線はアルべラム大臣に直撃せず、アルべラム大臣の目の前でそのまま消えてしまった。
「なに?消えただと?」
と狩武は言うと、アルべラム大臣は答えた。
「残念だが、私にはこの結界の耳飾りで魔術のような技は一切通じないのだよ」
「なら、殴り飛ばすしかないな」
「できるならな」
とアルべラム大臣は言うと、また斬撃を放った。
もちろん、狩武はすべての斬撃を避け続けていた。
「さて、そろそろ終わらせよう」
とアルべラム大臣は言いながら、狩武に斬撃を放つと、狩武はその斬撃を避け、言った。
「そうだな」
するとアルべラム大臣が創りだした幻覚と異空間が突如、消えてしまった。
「なっ!!?」
とアルべラム大臣は混乱していた。
「何をした!!?」
とアルべラム大臣は狩武に聞くと、狩武は答えた。
「簡単さ、お前が俺に放ち続けた斬撃、アレは全部、確実に避ける必要があった。幻眼の指輪が創りだしたドームを破壊するために」
と狩武は答えると、アルべラム大臣は一歩下がった。
だが、狩武は一歩前に進み、アルべラム大臣に言った。
「その幻眼の指輪。なかなか強い武器だが、それなりのリスクがある。その武器は一度効果を発動すると、五時間は効果を再使用することはできない。だったな」
「な……なぜ知ってる?」
と一歩ずつ後ろに下がるアルべラム大臣に狩武は言った。
「昔、自分の父親を倒すために悪魔武器についていろいろと調べてたんでな。そっち系の分野は詳しいんだ」
と狩武は言いながら、ずんずんアルべラム大臣に近づいた。
「なぜだ!?なぜ貴様のような中途半端な存在にこのワタシが負ける!!こんなこと……」
「お前は人間を舐めすぎた」
「人間だと……!?」
とアルべラムは後ろに下がりながら聞くと、狩武は一歩ずつアルべラム大臣に近づきながら答えた。
「神と魔王。かつて俺はそのすべてを手にした。だが、それは間違いだった。俺はある人間に敗れた。神と魔王の力を手にした俺は敗北したのだ。だが、奴は俺を殺さなかった。むしろ俺に人生をやり直すチャンスを与えてくれた。俺は赤子の姿になっても、あの感情は忘れなかった。初めて人に感謝したのだ」
と狩武は言うと、アルべラム大臣は聞いた。
「それとどう関係がある……!?」
「奴は……兄さんは俺を正しい道に導いてくれた。俺を一人の弟として見てくれた。人間は、互いに認め合い、絆というものを持つと兄さんはおしえてくれた。だから俺は兄さんのために戦っている。お前が負けた理由はただ一つ……」
と狩武は言うと、アルべラム大臣は後ろに下がり過ぎ、壁に背中がぶつかってしまった。
「人間を舐め過ぎたからだ」
と狩武は言うと、アルべラム大臣は魔覇の神剣を構え言った。
「人間ごときに負けたというのか!!?ありえん!!ありえないッ!!そんなことはァ!!!!」
とアルべラム大臣は怒鳴りながら、狩武に刃を向け、突進した。
だが、狩武は片手で、その剣を上に弾き飛ばし、アルべラム大臣を片足で転ばせた。
「ぐっ!」
と転んだアルべラム大臣は言うと、狩武はアルべラム大臣の左手を足で踏みつけ、上から振ってきた剣をつかみ、剣の刃をアルべラム大臣の首元に向けた。
「なぜだ……なぜそこまで他人のために戦える……?」
とアルべラム大臣は狩武に聞くと、狩武は言った。
「お前もスフォルザントのために戦ってるじゃないか」
「私はあの方について行くことしか生きる道は無かった。元々、ワタシは小悪魔だったころ、両親は殺され、悪魔界を歩き回っていたワタシはある人にあった」
「ある人?」
「そう、スフォルザント様だ。そして私はスフォルザント様について行った。それしか生きる道は無かった。誰かのために何かをしようとは思ってもいなかった……」
とアルべラム大臣は言うと、狩武は答えた。
「俺はさっきも言ったように兄さんに恩返しをしたいだけだ。俺にとって兄さんは大切な存在だからな」
「……大切な存在か。だが、松田隼人がお前をそんな風に思っていなかったら、お前を邪魔者だと思ったらお前はどうする」
とアルべラム大臣は聞くと、狩武は答えた。
「俺と兄さんは確かに普通の兄弟ではない。だが、どのようなことがあろうと……」
そして狩武は手に持っている魔覇の神剣でアルべラム大臣の首を斬り答えた。
「俺たちの意思は一つだ」