141話 二つの正義
「「「「「「我々は死神。スタジアムの観客を殺しに来た」」」」」」
「なに!?カルラ聞いたか!?」
と僕は戦闘態勢になっているカルラに聞くと、カルラは答えた。
「はい、聞きました。それが何か?」
「それが何かって……死神は関係ない観客を殺そうとしてるんだぞ!!この戦いは中止にするべきだ!!」
「そうはいきません」
「どういうことだ!!?カルラ……お前は観客を見殺しにする気か……!!?」
と僕は聞くと、カルラは答えた。
「試合中止の合図は鳴っていません。それに悪魔王選出試験の本当の目的はコレなのですから……」
「何を言っているんだ……カルラ……!!」
「さぁ、試合を続けましょう」
とカルラは言うと、僕に攻撃を仕掛けてきた。鬼神化して相手の動きがはっきり見える僕は攻撃を避けつつ、カルラに言った。
「悪魔王選出試験の本当の目的とは何だ!!?……まさか!!」
「今頃気づいたんですか?そう、ワタシはアルべラム側の悪魔ですよ」
「……騙したな!!!」
と僕は言い、カルラに向かってパンチを放ったが、カルラは僕のパンチを避け、僕から距離をとり言った。
「騙してなどいません。あなた方が勝手にワタシを“善”の悪魔と思っていただけです。いや、ワタシたちこそ“善の悪魔”ですがね……」
「死神を雇って罪の無い者を殺しても“善”と言えるのか!!?」
「力無き者は邪魔なだけです。仮にワタシたちが“悪”だとしたら、貴方たちは“正義”なのですか?悪魔王選出試験 本選では敗者になれば死神に殺される。そのルールを知ってもなお、貴方はヤウルを遠慮なく倒しました。本当に“正義”なのならば、そこは自ら棄権するのではありませんか?」
「あぁ……確かに俺は“正義”とは言い張れねぇ……。なら、お前だって俺の仲間だったゼルキルムを倒して、死神に殺させたじゃないか!!」
「はい。ワタシも“正義”だとは言い張れません。そう考えると本当の“正義”なんて存在しないのです。しかし、ワタシたちはその“正義”に一番近い存在です。一番 正しい道にこの世の者を導いてる存在に近いのです。ワタシはゼルキルムを倒しました。そして死神に殺させました。しかし、彼はもうすでに死んだ悪魔……。彼を生き返らせたのはワタシが最も忠誠する者なのです。その者はいずれ本当の“正義”となる。そう考えると死んだ者を生き返らせ、殺した。それだけの話です。それにゼルキルムは元々罪人だった。悪魔界を征服しようと悪魔界を襲撃して、二代目悪魔王を死に追い上げた大悪人なのです。裁きを下すのは当然のことです。それでも何か不満がありますか?」
「仮にそれが“正義”だとしたら、今ここで関係ない観客を殺させたら“悪”じゃないか!!もしお前が自分を“正義”と思うのなら死神にそんなこと止めさせろ!!」
「いいえ、これも“正義”です。死神とはやがて“正義の使者”となる者。死神は毎回 敗者を殺す時に魂を抜き取っていませんでしたか?なぜ抜き取るのかというと、死神界でその魂を死神に転生するのです。“正義の使者”になれるのですよ?幸せじゃないですか?死神は観客を“正義の使者”として迎えに来たのですよ」
とカルラは答えると、僕は手を強く握りしめ、プルプル震わせながら言った。
「テメェ……ふざけたことをベラベラと……」
「貴方が観客を“正義の使者”にお迎えしたくないのなら、このワタシを倒してこのステージの壁を破壊し、6体の死神を倒さなければいけませんよ……。まぁ、そんなことをすれば、貴方は“正義”の計画を阻止しようとする“悪”ですがね……」
とカルラは言うと、ステージの外から声が聞こえてきた。
「隼人!安心して戦ってくれ!俺たちが死神を倒す!」
その声は真司だった。僕は真司を見て言った。
「真司!真司なのか!あの邪神の弓矢……間違いない!真司だ!」
「……予想外ですね」
とカルラは言うと、僕はカルラに言った。
「カルラ、お前に本当の“正義”を拳でわからせてやる!!!」
「ワタシたちこそ“正義”だ!!あなた方はただ“正義”と名乗っているだけの“悪”!!ワタシたちこそ“正義”に近しい者!!負けはしない!!」
とカルラは言うと、僕とカルラはお互いに向かって走り出した。