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デビルバスター日記  作者: 黒雨みつき
第1話『デビルバスターへの道』
6/132

その5『二人の協力者』


「ふぅっ……」

 ため息とともに落ちてきた男性ひとり分の体重に、安いベッドがギシッと大きくきしむ音を立てた。

 窓から射し込む太陽の光はすでに強い赤味を帯び、狭い部屋の中を哀愁の色に染め上げている。

「疲れたぁ……」

 安堵の息を吐いたティースはベッドの上で大の字になって天井を見上げていた。まるでクッションの利いていないベッドではあったが、精神的に疲れ切った彼を休ませるには充分だったようだ。

(……なんか、夢みたいな出来事だったなぁ)

 馬車でこの家を訪れた者は、警邏隊からの連絡を受けたディバーナ・ロウのデビルバスターだと名乗り、ファナとアオイは彼らの言葉を肯定した。

 それで終わりだった。

 一連の事件は、予想していた障害などなにひとつ起こることなく無事に解決したわけである。

(でも、まさかディバーナ・ロウに女性のデビルバスターがいるなんてなあ。なんて言ってたっけ、あの人)

 その後ティースはそのままミューティレイクの屋敷へと招かれ、お礼代わりという豪華な昼食を振る舞われ、そこで少しだけファナたちと話をした後、こうして馬車で送られて帰宅したのだった。

(……でも、やっぱり世界が違うんだなぁ)

 脳裏に焼き付いていたのは、つい先ほどまで彼の目の前にあった屋敷の光景。アオイの存在と高価な服装だけではいまいち現実味の薄かった『ミューティレイク公』という存在の大きさだった。

 屋敷、食事、周りを固める使用人の群れと、予想していたとはいえあまりの大貴族ぶりに、彼が少なからず萎縮してしまったのは言うまでもない。

 しかしまあ、それもすでに終わった話。

「ん――っ……って、あれ?」

 大きく伸びをしたティースは、ズボンのポケットにかすかな違和感を感じて身を起こした。

 そして思い出す。

「ああ、そっか。ファナさんにお土産もらったんだっけ」

 彼がポケットの中から取りだしたのは、2つのアクセサリーだった。

 片方は十字架の模様が入ったバッジのようなもの。そしてもう片方は綺麗な薄緑の石がはめられた見た目にもきれいなファッション用のブローチだ。

 特にティースの関心を引いたのはブローチの方だった。

(無造作にポケットに入れてきたけど、これまさか本物じゃないよな……)

 改めて眺めたティースは、今さら不安になっていた。

(たいしたものじゃないとは言ってたけど、相手が相手だしなぁ)

 本物であれば、それがエメラルドというそれなりに高価な宝石であることは、いくら彼でも知っていた。

 バッジの方は彼自身に、ブローチの方はシーラにということで特になにも考えず言われるまま受け取ったのだが、もし本物だとしたら、彼の価値基準から言えば気軽に受け取っていいようなものではない。

「……ま、あとでシーラに見せてみれば、本物か偽物かわかるかな」

 そうつぶやきながらバッジを自らのポケットに、ブローチを丁寧にテーブルの上に置くと、もう一度ベッドに戻って腰を下ろす。

 目を閉じた彼の周囲を、途端に静寂が襲った。遠くに聞こえる喧噪。どこかから流れ込んでくる肌寒い空気。

(ファナさん……もう会うことはないかもしれないけど、変わった人だったなぁ)

 ティースの日常に突然飛び込んできた非日常。あっさり終わってしまったとはいえ、それは彼にとってなかなか体験できない貴重な経験だった。こうしてまどろみながら回想していても、ちょっとした高揚感が体を包むのがわかる。

(怖い思いをするのはゴメンだけど、また会って話をしてみたいな。シーラとも気が合いそうだったし……)

 そして、ふと。

「あれ、そういや……」

 我に返って、唐突に覚えた違和感。

「……シーラ?」

 もちろん返事はなかった。代わりに返ってきたのは相変わらずの静寂。聞こえなくなりつつある遠くの喧噪。

 時計を見る。

 それが指し示している時刻を見て、ティースの胸がひとつ大きな鼓動を打った。

「おい……シーラ?」

 この家唯一の個室に向けて、今度は少し大きめに声をかけてみた。

 残光が部屋を照らしている。

 静まり返ったそこにはもちろん誰もいない。

(そういや、なんで帰ってきてないんだ……?)

 疲労と高揚感に包まれていたせいか、ティースは今の今まで気付かなかったのだ。この時間であれば当然、彼女が帰ってきていてしかるべきだということに。

(まだ日は沈みきってない。けど……)

 この辺りは決して裕福な地域ではない。いくら治安の良いネービスの街とはいえ、夜になればその大半を暗闇が支配してしまうし、そこをひとりで歩くことには大きな危険が伴うだろう。

 シーラもそれは充分に理解していて、たとえ遊びに出かけていても日が沈む直前まで帰ってこないようなことはこれまでに一度もなかった。

 彼女は頭の良い少女だ。遅くなると言って出かけた昨日ですら、もう少し早い時間に帰宅したぐらいである。

 まして、今日の状況はいつもと違う。

 ファナのことはシーラも気にかけていたようだし、こんな日に限って遅くまで寄り道をしてくることなんてあるのだろうか。

(今日の……状況……?)

 ざわっと。

 なにかよくない予感がティースの背中を駆け上がった。

「……っ!」

 ティースは反射的にベッド脇の剣を手に取り、家を飛び出していく。

 強く吹きすさぶ風。

 薄い闇に染まりつつある街並み。

 浮かれていた気分が一気に冷めきっていく。

 悪い予感……いや、それは予感などというあいまいなものではなかった。状況を分析した結果による、充分に起こりうる現実の予測だ。

(でも。だって、あいつが危険にさらされる理由なんてもうないはずじゃないか……)

 ファナはすでに無事に帰宅したのだ。その件はもう解決した。シーラがそのとばっちりを受ける理由なんて考えられない。

 そのはずだ。

 しかし胸が締め付けるような得体の知れない焦燥に、彼の鼓動は徐々にその速さを増していった。

 太陽は今まさにその全身を地平線の向こうに隠そうとしている。

 足取りは徐々に速く。

(報復? 通報したことへの? でも、そこに気づけるぐらいなら通報自体を阻止するとか、先回りしてファナさんを狙うとかするはずじゃ……)

 いくつかよぎる悪い予感を、彼は必死に否定し続けた。

 それは決して希望的観測というわけでもない。何百人もの人間が行き交うこの地で、学園に行く途中の彼女が警邏隊の詰め所に立ち寄り、そしてファナの居場所を伝えたなどということが、敵に知られる可能性はどれほどのものだろうか。

 しかし。

(大丈夫。なにも悪いことなんて起きるはずがない――)

 その希望は、あっけなく裏切られることとなる。

「――!?」

 足早に進んでいたティースは急にその場所で足を止めた。

「これ、は……」

 自宅からそれほど遠く離れていない細い路地。

 そこでティースの目がとらえたのは、路上に落ちていた小さな髪飾りだった。

「あいつの、髪飾り……? どうしてこんなところに……」

 背筋から脳天に向かって震えが走る。

 小刻みに震える手を伸ばした先――わずかな残光を浴びた髪飾りは、その年季を示すかのように鈍い光を反射していた。

 そして、

「なんで……っ!」

 点々と路上に乾いてこびりついた赤黒い血の色が、ティースの中から一気に冷静さを奪い取った。

「なんだよ……どうなってんだッ!」

 辺りを見回しても、血の跡はそれ以上発見できない。その姿を探そうにも辺りはすでに人気もなく、なんの気配も残されていなかった。

 それがどういう理由で起きてしまったできごとだったのか、彼にはわからない。

 だが、彼の目の前に突きつけられた事実はただひとつだ。

 ――失踪。

 この世界において、一度失踪した人間を見つけることがどれだけ困難であるか。ましてや、ケガもなく無事に、という条件をつけると、それが奇跡にも近いできごとであるのは火を見るより明らかだった。

 もちろん早いうちに発見できれば、それだけ無事である可能性は高まるだろう。

 だが、それは個人の力では絶対に無理だった。

(どうする……どうすりゃいいっ!?)

 拾った髪飾りを握り締め、ティースは頭を掻きむしる。

 頭を過ぎる最悪の可能性を懸命に押し流し――警邏隊への連絡、傭兵仲間への依頼――それらの対策がひと通り頭を巡った後、

(……! そうだ!)

 最後に止まったのは、天啓とも思えるひらめきだった。

 絶望的な状況にあった彼に、少なくともほんのわずかな希望を持たせるに足るひらめき。

(それしか……ない!)

 後先のこととか、それが可能であるかどうかとか、そういったものは今の彼の頭になかった。

 そして、完全に日が落ちたネービスの街の中。

 かすかな希望にすがり付くように、ティースはその場から駆け出したのだった。




「賭けはあたしの勝ちかな?」

「なんの賭けだ?」

 その夜のミューティレイク邸別館。

 一時は騒然としていたこの屋敷も、その主が無事戻ってきたことですでにいつもの平穏を取り戻していた。

 そして夕食を終えた玄関ホールの丸テーブル群には、朝の2人の姿がある。

「美形の男は絶対に死なないって言ったでしょ?」

 頭に2つのお団子を結った女性、アクアがそう言って微笑むと、対する灰色の布を頭に巻いた男、レイが苦笑して反論する。

「死んだなんて俺は一言も言ってなかったと思うが」

 頭の後ろで腕を組み、足をテーブルに乗せて椅子を傾け、そこで絶妙なバランスを取っている。どうにもだらしのない格好だったが、誰ひとりとしてその態度を注意する者はいなかった。

「あれ? そうだったっけ?」

「しかも、そもそもなにも賭けちゃいない」

「フィリスちゃんの所有権を賭けたんじゃなかった?」

「それが本当なら、あの2人には改めて失踪してもらわなきゃならんな」

「こらこら……なんて物騒な話をしてるんですか」

 そこに現れたのは、血で汚れた服を綺麗な正装に着替えたアオイだった。

「あらあら、アオイくん。今回は大変だったわね」

 アクアは手招きしてアオイに席を勧め、アオイはその座席に腰を下ろしてまじめに返答する。

「いいえ。それが私の使命ですから」

「アオイくん、なんか飲む?」

「あ、いえ。私はお酒は」

 アオイはアクアの申し出を断ると、少し姿勢を正し改まって口を開いた。

「今回のことではご心配をおかけしてしまって申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに……」

 だが、アクアは笑いながら手を振って、

「しょうがないっしょ? まさかファナちゃんの命を狙う『人魔』が4人もこの街に入り込んでたなんて思わないし」

「ですが……」

 なぐさめとも取れるアクアの言葉に、アオイが少し視線を伏せる。

 と、その瞬間。

「あっ、アオイくん! その表情!」

 突然アクアが身を乗り出した。

「今の! 今の顔、もう1回!」

 アオイはビックリした様子で、

「……え?」

「ちょっとレイくん、見た今の!? 自分の不甲斐なさを責めるアオイくんの図! もう可愛すぎて、おねーさん、胸がキュンキュンしちゃったわッ!!」

「あ、あの、アクアさん……」

 アクアは勢い良くアオイの両手をつかむと、キラキラと目を輝かせて言った。

「結婚して、アオイくん! 今すぐ! ここで!」

「い、いや、アクアさん……その、ですね」

「あぁん! その困った顔も超可愛い~~~~っ!!」

「あ、アクアさん! ちょっと待ってくださ――」

 今にも抱きしめて頬ずりでもしそうな勢いのアクアに、なんとか逃れようとするアオイだったが、椅子の背もたれが邪魔で逃げることすら出来ない。

 ……と。

「やれやれ、見苦しいこった」

 そんなアオイのピンチを救ったのは、ボソッとつぶやいたレイの一言だった。

「結婚適齢期を逃した女はこれだから。がっついててみっともないったらありゃしない」

「……」

 ピタッとアクアの動きが止まる。

 そしてゆっくりと視線がレイの方へ。

「……ちょっと、レイくん? 世の中には言っていいことと悪いことがあるのよ?」

「だって本当のことだろ?」

 途端に、アクアはテーブルを叩いて反論した。

「逃してないってば! そりゃ確かに歳はもう23歳よ! でもお肌はまだ10代の輝きを保っているはずだし、屋敷のみんなだって若い若いって言ってくれるもんっ!」

「そりゃ単なるお世辞だ。あるいはお前の妄想か」

「そ、そんなことないわよぉ……ね、アオイくん! あたしってまだまだイケるわよね!?」

 再びアオイに迫るアクア。

「は、はぁ……」

 常識的には否定できないところだったが、肯定すればまた先ほどの光景が繰り返されるかもしれない。アオイにとっては板挟みで非常に辛いところだった。

 結局、彼はごまかすように軽くせき払いをして、

「そ、それよりもレイさん、アクアさん。できれば調査の報告をお願いしたいのですが……」

「……ま、そうだろうな」

「ちょっとレイくん! なに、その含み笑いはっ!」

「いや、別に」

 レイはそれ以上アクアに構おうとはしなかった。

「で、まずは昨日までやってた仕事のことだが、街道に出没していた『獣魔』、地の四十八族はひとまず片付けた。なかなか姿を現さないんで苦労はしたが」

「そうですか。ご苦労様です。それでアクアさんの方は?」

「う~……」

 まだなにか言いたそうなアクアだったが、結局は仕方なさそうに答えた。

「あたしの方は一応まだ調査中。だけど、敵の隠れ家らしきとこの見当はついたわ」

「やはり例の連続失踪は人魔の仕業ですか?」

「そうっぽいわね。いなくなったのは近所でも可愛いって評判の女の子ばかりだから、もしかしたらどっかの変質者か人買い連中の仕業かとも思ったけど、どうも常識じゃ考えられない芸当もいくつかやってのけてるみたいだし」

 真面目な顔に戻ったアクアは、紅茶を口に運びながらため息をつく。

「魔の中にもいるのよね。可愛い男の子や女の子が大好きって連中が」

「ああ、よくいるな」

 鼻を鳴らしたレイが皮肉っぽい笑みを浮かべる。

「可愛い娘の、苦痛にのたうち回る姿が好きな奴、とかな」

「……」

 わずかに眉をひそめたアオイに、アクアはさらに言葉を付け足した。

「それと、もしかしたらその犯人、ファナちゃんを襲った連中と関係あるかも」

「? なにかそう思える痕跡でも?」

 アクアは首を振って、

「ううん、これはあたしの勘。根拠といえば……そうねぇ。近い場所でほぼ同時期に別の人魔が事件を起こすなんて珍しいってことかな。ほかの街ならともかく、このネービスの街に人魔が入り込むの自体、そんなに簡単なことじゃないでしょうし」

「ウチのボスを襲う計画の傍ら、自分の趣味にも時間を割いていた、とかか。ま、たいした計画性もなしに襲ってきたような連中だ。なくもないとは思うね」

 と、レイが補足する。

 アオイは口元に手を当てて考え込む仕草をしながら、

「それは確かに考えられますが……とすると、敵はそれほど統率が取れた集団ではないということでしょうか」

「はっきりとはわからないけどね。『例の奴ら』とは別じゃないかな、とあたしは思ってる。……とにかくウチのチームは明日、明るくなってからそのアジトらしき地下通路を当たってみるつもりよ」

「わかりました。ファントムだけで平気ですか? 幸い、今なら第四隊以外は待機中ですし――あ、カノンは明日早くに出立の予定でしたか。その」

 アオイはチラッとレイを見て、

「ナイトもお疲れでしょうが、もしどうしても手が足りなそうであれば……」

「ああ、いいってば、そんなの」

 アクアは笑いながらヒラヒラと手を振って、

「ウチのチームって信用ない? そりゃ見た目はあんま強そうじゃないけど、これでも結構骨のあるメンバーなのよ?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」

「なんてったって、隊長がこんなにも可憐な乙女のあたしなんだから!」

 胸を張ってそう断言したアクア。

 頼りになるかならないかということとはまるで関係なさそうな主張だったが、本人は気付いていないようだった。

「はぁ、その」

「……」

 今度はレイも無言でため息をつくだけだった。

 そのまま目を閉じ、背もたれに身を預けて――

「ん?」

 閉じかけた目が開いた。同時にもたれかけていた上半身をゆっくりと起こし、その視線は玄関の方を向く。

「外が騒がしいな」

「え?」

 不思議そうな顔のアオイに、少し耳を澄ませた様子のアクアが付け加えた。

「ホントね。門の方が少し騒がしいみたい」

「……おふたりとも耳がいいですね」

 アオイが感心したのも当然のこと。この別館から正門までは数百メートルの距離がある。もちろん玄関の扉が閉じていることから考えても、よほどの騒ぎでなければ聞こえないはずだった。

「一体なんでしょうか……あ、フィリス!」

「はーい!」

 やはりタイミング良く近くを通りかかったフィリスがアオイに呼び止められ、クセッ毛を揺らしながらやってくる。

「アオイ様。なにか御用でしょうか?」

 アオイはうなずいて、

「門の方が少し騒がしいみたいですけど、なにか知りませんか?」

「え? ……あ、じゃあ私ちょっと見てきますね」

「頼みます」

「はい」

 小走りにフィリスが玄関へと駆けていく。玄関の大きな扉を開けて外へ。夜とはいえ、敷地内は明かりが灯っていてそれほど暗くはない。

「また酔っぱらいがくだを巻いているのかもな」

 レイが言ったのは過去実際にあったできごとだった。一般住宅地と距離が近いことから、ごくまれにそういったトラブルが起きるのだ。

「あー、だとしたらフィリスちゃんを行かせたのはマズかったかもねぇ。あの子、絡まれやすい体質だし」

「まさか」

 アオイが笑ってそう返したところで、結局3分も経たないうちにフィリスは戻ってきた。

「あの……アオイ様」

 戻ってきたフィリスは急いで来たようで、わずかに息を弾ませている。

「どうしました? なにか問題が?」

「はい。あの……」

 フィリスは胸の前で軽く拳を握り、少し戸惑ったように答えた。

「若い男の方が、しきりにお嬢様に会わせてくれ、と騒いでいるんです」

「姫に?」

 当然、アオイは眉をひそめる。その表情の中には、もちろん非常識な来訪者に対する不審と、加えてわざわざ伺いを立てに来たフィリスへの戸惑いが入り混じっていた。

「どこの誰ともわからない方にいきなり会わせるわけにはいかないと、そう言って断ってください。どうしてもというなら、後日明るい時間に改めて――」

「あ、そう言ったんです。でもどうしても今、時間がないんだって、その……」

 フィリスは少しだけ目を伏せた。

「本当に必死で、それで私、執事様に取り次いでみますって言うしかなくて……」

「やれやれ」

 あきれたようにつぶやいたのはレイだった。

「お前は人が良すぎる。いくら必死だろうが、無茶なものは無茶だと言ってやれ」

「そ、そうなんですけど……」

 その言葉に、フィリスはしょぼんと落ち込んでしまった。

「その方、目に涙まで浮かべてて。私、男の人がああいう風に泣くのってあまり見たことなかったものですから……」

「……わかりました」

 アオイは少しだけ好意的な意味合いのため息を吐いて、それからゆっくりと立ち上がった。

「その方のお名前はお聞きしましたか?」

「あ、はい」

 その動きを見てフィリスは少しだけ表情を明るくする。

 が、その次に続いた言葉は、逆にアオイの表情を険しくさせる結果となった。

「ティーサイト=アマルナ様とおっしゃってました」

「……えっ!?」

 過剰すぎるその反応に、フィリスはビックリした顔をし、その場にいた他の2人も怪訝そうに彼を見つめる。

「どうしたの、アオイくん?」

「なんだ? お前の知り合いか?」

「いえ、それが……」

 すぐには答えず、アオイは少しだけアタフタした様子を見せると、

「フィリス! その方をすぐにここにお通しして――あ、いえ、やはり私が直接行きます!」

「あっ……アオイ様!」

「アオイくん!?」

 疑問を投げ掛ける面々に、アオイは途中で一度だけ彼らを振り返って、

「ティースさんは――彼は昨日、私と姫をかくまってくれた方なんです!」

「……なんだって?」

「え、じゃあ……昼間のあの男の子?」

「なにか大変なことがあったのかもしれません! レイさんたちもそこにいてください!」

 驚く3人を後目に、アオイはそうして屋敷の外へと飛び出していったのだった。




 ティースがミューティレイク邸の門番と押し問答をしていたのはどれぐらいの時間だっただろうか。

 途中、無理やり押し通ろうとしたティースと門番の間で剣呑な空気も流れたが、直後に登場した使用人らしき少女、そしてすぐ後にやってきたアオイによって、その状況はなんとか解決されていた。

 そして別館の玄関ホールへと招かれたティースが事情説明に要した時間がだいたい7、8分。

「……なるほど。だいたいの事情はわかりました」

 焦りと緊張によってうまく説明できたかどうかわからなかったが、それでもうなずきながら彼の言葉を聞いていたアオイは、どうやらすべての事情を把握したらしい。

 その場にはあと2人の人物がいる。

「ティースくん、だったわよね? キミが住んでいるのはどの辺りの区域?」

 そう質問してきたお団子頭の女性。ティースにも見覚えのあるその女性は、昼間ファナを迎えに来た、デビルバスターを名乗るアクアという人物だった。

「東地区の11ブロック……18の7です」

 ここに通されてティースの気持ちも少し落ち着きを取り戻していた。が、その反動か、質問に答える口調はどことなく弱々しい。

「東の11ブロックね……」

 考え込むアクア。

 その横から、ひとりだけ隣のテーブルに座った男が口を挟んだ。

「そりゃたぶん、アオイやファナをかくまったこととは関係ねぇな」

 レイと名乗ったその男は額に灰色の布を巻き、無造作に伸ばされた金髪も、どこかワイルドな服装も、到底屋敷にそぐわなかった。

 ただ、アオイやファナのことを呼び捨てにすることから考えて、彼もやはりディバーナ・ロウのデビルバスターなのかもしれない、とティースは思っていた。

「別に責任逃れをするつもりはねぇが、ウチには一切責任のない事件だ。ま、運が悪かったと思うことだな」

「なっ……!」

「レイさん!」

 ティースが食ってかかる前に、アオイから叱咤の声が飛んだ。そしてアオイはすぐにティースに向き直ると頭を下げて、

「すみません。彼はどうしてもああいう言い方をしてしまう人で……」

 だが、レイは黙らなかった。

「責任の所在は明らかにしとくべきだと思うがな。あとでその女が死んだのは俺たちのせいだとか言われちゃ、たまったもんじゃない」

「……そんなことはどうだっていいっ!」

「……」

 激昂して立ち上がったティースを、レイはあくまで冷静に横目で見据えた。

「っ……」

 その瞬間、ティースを強烈な威圧感が襲う。

 鋭い視線。

 一瞬だけひるんだティースだったが、直後、胸にあふれ出した感情の炎がすぐさまそれを打ち消した。

「俺はただ、あいつを救って欲しいだけなんだっ! 責任なんてどうでもいいし、金が必要だっていうんならどれだけ時間をかけたって払う! だから!」

「……」

 無言のまま、レイは視線を外して目を閉じた。

 一瞬、その口元に小さな笑みが浮かぶ。

 アクアが間に割って入った。

「レイくん、今のはキミが悪いわよ。……ティースくんもいったん落ち着いて」

「……」

 奥歯を震わせてレイをにらみ続けるティースだったが、アクアのなだめる声に唇を噛みしめながら再び腰を下ろす。

「っ……」

 途端その顔が歪み、ティースはうつむいて祈るように両手を組んだ。

「責任なんてどうでもいいから……だから、頼むからあいつを助けてくれ……」

「ティースさん……」

 そんなティースの姿にアオイは目を細め、それから無言で隣に座るアクアへと視線を向けた。

「ええ」

 アクアはうなずいて、

「11ブロックだとしたら、例の事件に巻き込まれた可能性がかなり高いわね。……ティースくん」

「……」

 その言葉にティースは目に溜まっていた雫を拭い、赤くなった瞳をアクアへと向ける。

 アクアは言った。

「あたしもレイくんが言うように、キミがアオイくんたちをかくまったことには直接関係ないと思う。……キミは知ってた? キミが住んでいる11ブロック近辺で、最近立て続けに若い子が行方知れずになっている事件のこと」

 ティースはハッとして、

「詳しいことはわからないけど、それはうわさで少し……じゃあまさか」

「わからないけど、冷静に考えればその可能性が最も高いんじゃないかな。大体アオイくんたちを襲った連中がその彼女をさらったってなにも良いことなんてないはずだし……その彼女、歳はいくつ? もしかして美人じゃない?」

「歳は14、もう少しで15歳です。……見た目もたぶん」

 おずおずとうなずいたティースに、アオイが付け加えた。

「たぶんなんてものじゃないですよ。怖くなるくらいに整った顔立ちの子です」

「それなら、なおさら可能性は高いわね」

 ティースは身を乗り出した。

「そ、それで! もしそうだとしたら助ける方法はっ!?」

「……」

 一瞬黙ったアクアに、ティースはテーブルにこすりそうなほど頭を下げる。

「頼む! あとでなんでもするから、助ける方法を教えてくれっ!!」

「ちょっ、ちょっと。だから落ち着いてってば」

 あまりの勢いに、アクアは両手を前に出して制止する。

「別に出し惜しみをするつもりはないから。キミはアオイくんやファナちゃんの恩人だし、出来る限りの協力はさせてもらうつもり。……ただ、ね」

「……ただ?」

 顔を上げたティースに対し、アクアは手を下ろしてゆっくりと息を吐いた。

「難しい、と思う。一応、前からこの事件については調査してて、犯人の隠れ家らしき場所の見当はついてるの」

「じゃあすぐに……!」

「それがダメなの。……地下通路だから」

「地下通路……?」

 その単語に、ティースは唖然とした。

「ええ。……わかるでしょ? こんなに暗くなってからじゃ危険すぎて行けないの。まして、相手が人魔である可能性が高いとなったら、なおさら準備もなしには入り込めない」

「……」

 ティースは絶句した。

 このネービスの地下には大規模な通路が存在している。

 それは過去、大陸がまだ戦乱の最中にあった頃に造られたもので、ネービス公ですらその全貌をつかんではいないとされていた。

 そのため、大多数の入り口が封鎖された今でも地下通路への隠された入り口はいくつか存在し、主に犯罪行為に利用されているといううわさも立っている。

 しかもそこは『とある理由』から昼間だけしか明かりがなく――逆にいえば昼間は明かりがあるということだが――夜にそこに入るとなれば、自ら照明になるものを持っていかなければならない。

 それはつまり敵の標的になりやすいということを意味し、アクアの言うように、突入するなら昼間、というのは至極もっともな意見なのである。

 だが、ティースがそれで納得できるはずもなかった。

「そんな! じゃあ明日まで待たなきゃならないってことか!? あいつは、もしかしたらその間にも……!」

「……」

 そのアクアの一瞬の沈黙がなにを意味するか、それは鈍いと言われるティースであってもすぐに理解できた。

 少し沈痛な面持ちでアクアは答える。

「あたしもチームの隊長として、部下の子たちをそんな危険な目に遭わせるわけにいかない。助けてあげたいのは山々だけど、明日の朝、日が昇るまで待って」

「そんなこと言ってたら、あいつが!」

「わかるけど、そのために犠牲者を増やすわけには――」

「っ……!」

 ティースは唇を噛みしめて、椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。

「なら、その場所を教えてくれるだけでも構いません! あんたたちに迷惑はかけない! 俺がひとりで行く!」

「ちょっ……それこそ無茶よ! 死にに行くようなものじゃない!」

「それでもいい! それでも――っ!!」

 暴走気味のティースに、アクアの口調も熱を帯び始める。

「よくないってばっ! それに――こんなことは言いたくないけど、もうその子が生きてる可能性は低いんだから!」

「!!」

 アクアの言葉は、まるで鈍器のような衝撃でティースの頭を打った。

「……アクアさん」

 アオイの呼びかけに、アクアはしまったという顔をしたが、自らの言葉を引っ込めることはしなかった。

 少し口調を落ち着かせて、続ける。

「考えてみて、ティースくん。この事件、まだ発生から1ヵ月も経っていないのに、もう10人以上が消えてるの。2日にひとり以上のペースよ。……それがどういうことかわかるでしょ? まさか犯人が地下通路で10人以上もの子たちを養っているはずはないんだから」

「っ……」

「さっきも言ったけど、犯人はおそらく人の形の魔よ。おそらくは、若い女の子を嬲り殺すことを楽しんでる。彼女が消えたのが夕方以前なら、きっともう……」

「そんな……」

 足が震え、ティースは崩れ落ちるように膝をついた。

「そんな! そんな馬鹿なっ!」

 振り下ろされた拳に、木製の丸テーブルが派手な音を立てる。が、そこから伝わった痛みは、麻痺しかけた彼の脳にまでは到達しなかった。

「嘘だ……嘘だ……っ!!」

 そのままティースは泣き崩れた。無情に突きつけられた現実に、頭の中が真っ白になってなにも考えられなくなる。

「……」

 沈痛な顔でそれを見つめるアオイにも掛ける言葉はなく、同じような表情で視線を伏せたアクアも軽いなぐさめを口にするのが精一杯だった。

「……可能性がゼロだとは言わないわ。明日になったら私たちがそこに向かうから……でも、過度の期待はしない方がいいと思う」

「っ……うぅっ……!!」

 祈るように組んだティースの両手が震え、テーブルにも伝わってティーカップがカチカチと耳ざわりな音を立てた。

「……アオイくん。今日は彼、ここに泊まっていってもらったら?」

 アクアの提案にアオイはうなずいて、

「そうですね……フィリス?」

 いつの間にかその状況を遠巻きに眺めていた数名――その中にいたフィリスが、今にも泣き出しそうな顔でやってきた。

「客室の準備をお願いします」

「は、はいっ!」

 そう答えたフィリスは泣き崩れるティースを見ると、まるでそれに触発されたかのように涙をあふれさせ、逃げるように中央の階段を駆け上がっていった。

「……」

「さ、ティースさん……まずは体を休めてください。可能性はゼロではありませんから……」

 アオイが支えるようにティースの両肩に手を添え、なぐさめの言葉をかける。アクアもそれを手伝おうと手を伸ばしかけた。

 ……と、そのときだった。

「くだらないなぐさめはヤメてやれよ。可能性なんてゼロに決まってる」

「っ!」

 視線を上げたティースはその声の主であるレイをにらみ付けた。顔は怒りに歪み、その視線には殺気すらただよっているように見える。

 だが、レイはまったく動じた様子もなくテーブルから足を下ろし、今度は正面からティースに向き合うと、

「2日にひとりはさらっていってるようないかれた奴だぞ? 原型もわからんようなバラバラ死体になって発見されるのがオチだね。賭けてもいい」

「レイさん、なんてことを! ……ティースさんっ!?」

「……貴様ぁぁぁぁっ!!」

 今度こそティースは怒りを抑えることができなかった。地面を蹴った体はレイに向かってまっすぐに突進する。

 そして、握り締めた右拳がレイの顔面を捕らえ――いや。

「そんなに怒るほど大事なのか? そいつは恋人か? 親よりも大事な人間か?」

 平然と座ったまま、首を傾けただけでレイは拳を避け、その手首を捕らえていた。

 続いて振り上げられた左の拳は、宙で止まっている。

 ……お互いに素手であっても、2人の間の力量差は明らかだった。左拳を振り下ろしたところで、それがレイの体を捉えることはないだろう。

「お前……お前みたいな奴に……なにがわかるッ!」

 ティースは声を振り絞るように叫んだ。

 頭が熱くなって、なにもかもわからなくなっていた。

 絶望、憤り、無力感……あらゆるものがない交ぜになって正常な思考を奪い去ってしまう。

 ただ、頭に浮かんだ言葉だけが口をついて出た。

「あいつは宝なんだ! 他に変えようのない大事な……俺のすべてだったんだっ!!」

 レイは手首をつかんだまま、怒りに震えるティースの顔を無表情に見つめていた。

「それを……それをお前は……っ!」

「……勘違いするな。俺がそいつをさらったわけじゃない」

 振り上げたままの左拳をチラッと見て、レイはほんのわずかに口元を緩めた。

 それが微笑んだものなのか、あるいは嘲笑したものなのか、その状況ではいまいち判断できない。

「……っ!! くそッ! なんでこんなことにッ!!」

 振り上げたティースの左拳は力なく垂れ落ちた。

 その双眸からは再び涙があふれ、レイの膝に点々と染みを作っていく。

「なるほどな」

 笑みを浮かべたままそれを見つめていたレイは、泣き崩れるティースを振り払うように椅子から立ち上がった。

 そのまま崩れた彼を横目で見ると、すぐさまアクアへと視線を移動させる。

 そして言った。

「アクア。その隠れ家ってのはどこにある?」

「……レイくん?」

 怪訝そうなアクアの声。レイはそれには答えずに背を向け、遠巻きに眺めていた使用人の少年に向かって言った。

「パース、俺の剣を持ってこい。それとカンテラもだ」

「レイくん!?」

 怪訝そうに顔を上げたティースに、アクアの驚きの声が重なった。

 レイはその問いかけには答えないまま、

「アオイ、今晩は特になにもないとは思うが、一応あんなことがあった後だ。俺がいない間も警戒を緩めるなよ」

 その言葉から、彼の意思は明白になった。

 アクアはレイに詰め寄って、

「まさか行くつもり!? ……無茶よ! いくらあなたたちのチームでも、この暗闇の中じゃなにがあるかわからないでしょ!」

「誰がナイトを連れていくと言った?」

 額の布を巻き直し、少年が持ってきた2本の半楕円型の剣を背負ってレイはようやく振り返った。

「行くのは俺と、お前だ」

「え、あたし!?」

 ビックリした顔で自分を指し示すアクア。

「チームを危険な目に遭わせたくないんだろ? だったら、その危険に対応できる人間だけで行けばいい。なんの問題がある?」

「そりゃ、でも……ううん、確かに……あたしとレイくんなら可能かもしれない……」

 アクアは得心がいったという顔でうなずいた。

 ……その流れに口を挟んだのは、ティースである。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

「……なんだ? まだなにか文句があるのか?」

 あまりに予想外の展開に戸惑っていたティースは、まだ状況を理解できていないようだった。

 フラフラと立ち上がり、涙に濡れた顔を拭おうともせず、

「な、なんでだよ……あんた、さっきまでは……」

 レイは鼻を鳴らした。

「誰も助けに行くのに反対だとは言ってない。俺はただ、責任の所在をはっきりさせとけと言っただけだ」

「で、でも、助けに行っても無駄だって……」

「夜が明けるまで待っていたら、な。2日にひとりってことは、逆に言えば半日ぐらいは生きててもおかしくないってことだ。そうだろ、アクア?」

「……可能性は高くないけど、明日よりは、ね」

 アクアは正直に答えた。

「だ、そうだ。……どうする? 別にお前が望まないなら、俺だって無茶なことをするつもりはないぞ。もちろんお前にも一緒に来てもらう。照明を持って先頭を歩く弾避けだ。危険な役だが、少しの可能性にでも命を賭けられる……それぐらい大事な女なんだろう?」

「あ……」

 ティースの口からとっさに言葉が出てこなかったのは、決意が鈍ったからじゃない。

 胸がいっぱいになったからだ。

「当たり前だ! なんでも……なんでもやってやるっ!」

 レイはニヤリと笑った。

「いい返事だ。……言っておくが期待はしすぎるなよ。アクア。準備はいいのか?」

「全然オッケー!」

 どうやら使用人が持ってきたらしい手甲を両腕に填め、それを軽く打ち鳴らしてアクアは答えた。

「アオイ。ファナには後で事情を説明しといてくれ」

「はい。……本当におふたりで大丈夫ですか?」

「狭い地下通路なら少ない方がかえっていい。……アクア、お前は?」

「大丈夫に決まってるっしょ!」

 からかうようなレイの口調にアクアは明るい声を出した。

「あたしを誰だと思ってるの! 泣く子も黙る神風特攻チーム、ディバーナ・ファントムの隊長、アクア=ルビナートよ!!」

「……」

 ティースは彼女の真剣な様子しか見てなかったので、そのテンションの高さに少し驚かされたが――先ほどまでとはまるで違うその吹っ切れた態度を見るに、どうやら助けに行けないことは彼女にとっても不本意だったようだ。

「よし」

 再び、レイは口元に笑みを浮かべる。

 今度こそは、間違いなく好意的に解釈できる笑みだった。

「俺もアオイが褒め称えるほどの美人ってヤツを、できれば生きた状態で見てみたいからな。……お前、ティースとかいったか?」

「あ……ああ!」

 カンテラを受け取ったティースは、預けていた自らの剣を腰にまとい、乾きかけていた涙を拭って力強くうなずいた。

「自分の身は自分で守れよ。相手の実力も未知数だ。俺たちにも余裕があるとは限らないからな」

「ああ……わかってる……わかってるさ!」

 2度、3度とうなずいたティース。

 レイは満足そうに言った。

「よし、行くぞ」

 そのまま先頭を切って歩き出す。その後を、強く拳を握り締めたティースが続く。最後にアクアが振り返って、状況を見守っていた面々に軽い口調で言った。

「じゃ、行ってくるから。あとよろしく」

「はい。……3人とも、気をつけてください」

 そしてアオイ、フィリス……それと、ティースには名前もわからない数人の使用人たちに見送られ、3人は屋敷を出発していったのだった。


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