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デビルバスター日記  作者: 黒雨みつき
第8話『スクール・パニック』
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プロローグ


 圧倒的な力にはしがらみがついて回る。

 憧憬。嫉妬。打算。欲望。

 それが権力であれ金力であれ、武力であれ、知力であれ、そのしがらみから逃れるすべはなく、結果としてあらゆる人々の思惑の波に呑まれることになるだろう。

 その力が望んだものであろうと、また望まざるものであろうと――。


「殺して欲しいヤツがいます」

 それを生業にする者たちにとって、このネービスほど住みづらい土地はないだろう。

 ご承知の通り、ネービス領の首都であるこのネービスの街は大陸でも屈指の治安を誇り、犯罪者たちの存在を決して許そうとしない。他の街では当たり前のように起こる殺人事件も、この街ではそれほど日常の出来事ではなかった。

 殺し屋。

 その名の通り、生き物を殺すことを生業とする人々がいる。彼らは当然に犯罪者であり、もしその身を拘束されたなら、ほぼ間違いなく死罪が待っているであろう。

 この世のもっとも底辺に位置する犯罪者だ。

「……」

 夜のネービス。

 この裕福な街にも、ごく一部ではあるがスラム化した地域が存在する。その一角にある無人の建物の地下に、交渉のテーブルを構えた1組の殺し屋と依頼主がいた。

「余計なことは言うな。用件など言わずともわかりきったこと」

 地下室の壁に声が響く。

「ターゲットと、必要な情報、前金と成功時の連絡方法だけを残して立ち去れ」

「……」

 フードの奥から向けられた淡々とした声に、依頼主はかすかに背筋を震わせた。

 と、同時に期待に彩られた頬が笑みを刻む。

「こ……これが前金です。ターゲットの情報はこっちの資料にまとめてあります」

 お互いに顔を隠し、明かりは部屋の端に備えられたろうそくの揺らめきのみ。もちろん彼らはお互いの素性を知る必要もなく、またそれを探ろうとすることは協定違反でもある。そのときはどちらかが血を流し、命を落とすことになるだろう。

 ゴクリとのどを鳴らしたのは、依頼主の方。

「……」

 しばらく資料を眺めていた殺し屋は、無言のまま手にした資料をふところに入れた。

 それは依頼を受けたことの証。

「……お願いします」

 依頼主は手の平の汗を握りしめ、奥歯をかすかに震わせながら席を立った。

 小さな空気の動きに、ろうそくの炎が大きく揺らめく。

 ――矢は放たれた。もはや後戻りはできない。

 だが、それでも。

 それでも、その依頼主の心には後悔よりも期待の方が大きかった。

「ふふ」

 ひんやりとした夜の空気を浴びて、その頬に引きつった笑みがもれる。

「これで私は自由になれる……」

 圧倒的な解放感。

 長いトンネルの向こう、自由の光はもうその眼前にまで迫っていて――

「これで、ようやく――!」

 達成感とかすかな恐怖に震えるその声は、晴れ渡るネービスの夜空へと吸い込まれていった。


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