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プロローグ
その瞬間、ティースの世界は真っ白になった。
――なぜ?
その状況を理解できぬまま、自問したのは当然の疑問。
なぜ、こんなことになったのだろうか、と。
唇を伝わる感触は、柔らかく、暖かく――感じるすべてが初めてのものだった。
少しずつ。少しずつ。
彼の頭が認識を始める。
――鼻孔を突く心地よい香り。
――止まない胸の鼓動。
自らの唇を塞いでいるもの。
……そう。
まぎれもなく彼――長身で猫背で優柔不断で頼りなく、女性が苦手で、女性アレルギーな、デビルバスター志望の青年――ティーサイト=アマルナは、たったいま、
『唇を奪われていた』のである。
なぜ、彼がこんなおもしろい――いや、突拍子もない事態に陥ってしまったのか。
それを最初からすべて説明するには、とりあえず2週間ほど時間をさかのぼる必要がある――