その12『彼女の道しるべ』
ネービスでは春がその影を薄め、徐々に夏の気配が近付きつつあった。太陽が顔を出す一日には外を歩いているとじっとりと汗ばみ、中央公園の露店では薄着の売り子たちが目立つ。
もちろんその気配はミューティレイクの屋敷にも例外なく訪れていて、使用人たちの装いが変わるとともに建物の中には微かに青草の香りが漂い始めている。
そんな初夏の頃。
ミューティレイクの屋敷は、その話題でもちきりとなっていた。
「ねえ、兄さん」
「あん?」
ミューティレイク家の若き執事リディア=シュナイダーは仕事の合間に、一階のホールで昼間から麦酒を傾けていた兄、レインハルト=シュナイダーのもとを訪れ唐突にそう切り出していた。
まるで少年のようなショートカットに男物の執事服。それでも十四歳の誕生日を間近に控えた少女は、以前のように少年と間違われる機会が少しずつ減っている。
「シーラさん、なにかあったのかな?」
「唐突だな。人生ってのは毎日何かしら起きるもんだろ」
そう答えながら麦酒を傾ける兄の言葉に、リディアは不満そうな顔をした。
「わかってるくせにとぼけるのやめてくんない? あたし今日ブルーデーだからイライラするんだよね」
「おいおい。兄貴にそんな配慮を求めるのは筋違いってもんだろ?」
「ティースさんみたいな人が兄貴だったら、きっと心配してくれるのになあ」
レイはそんなリディアの言葉を笑い飛ばした。
「無理だろ。そもそもあいつはそういうことには一切気が付かんさ」
「まあね。ま、そこがティースさんの可愛いところなんだけど」
「ずいぶんとあいつの肩を持つじゃないか」
「そりゃあたし、ティースさんのこと好きだしね。……って、そんなことよりシーラさんのこと。兄さんはどう思う?」
と、話題の軌道修正を図ったリディアに対し、レイは軽く顎を上げてホールの中央にある階段を示してみせた。
「本人に直接聞いてみればいいじゃないか」
その言葉にリディアが振り返ると、視線の先に二階からゆっくりと階段を下りてくるシーラの姿が映った。
「噂をすれば、だね。右肩、もう大丈夫なのかな」
シーラが屋敷に戻ってきた頃はまだ怪我の影響が残っている様子だった。ただ、今見る限りだと右手が階段の手すりの上にあり、どうやら大丈夫そうに見える。
「あら?」
そんなレイとリディアの視線に気付いたのか、階段を下りきったシーラはその足で真っ直ぐ二人のいるテーブルまで歩み寄ってきた。
「なにか用? 私の話をしていたみたいだけど」
「いや、なに。ウチの出来の悪い妹が、あんたのその頬の傷跡が気になって気になって仕方ないらしくてな」
「言ってないけど……まあいいや」
リディアは諦めた様子でシーラの顔を見た。
「跡、やっぱり残っちゃったんだね」
そう言って見つめるリディアの視線の先、シーラの左頬には薄っすらと赤い裂傷の跡が残っていた。遠目ではわからない程度だが、こうして会話するぐらいの距離に接近すればはっきり刃物で斬られた跡だとわかる。
シーラは左手でそっと傷跡をなぞりながら答えた。
「化粧で隠せないこともないのよ。でも、そのためだけに厚化粧するのは馬鹿馬鹿しいでしょう? 目立つかしら?」
「シーラさんじゃなかったら気にならないぐらいだけどね。でもなんかもったいないなぁって」
と、リディアは言った。
美しい絵画の上に落ちた一滴の染み。元が完璧だったからこそ目立ってしまう傷跡。それはそういう類のものだ。
しかし。
「そうかな。俺はむしろいい顔になったと思うがね」
そんなレイの発言に、シーラが怪訝そうな顔で彼を見る。
「どういう意味?」
「お人形さんの面が割れて、ようやく人間の顔が出てきた。そういう意味さ」
「……」
見透かしたかのようなその物言いは本来あまり気分の良いものではないだろう。ただ、今回ばかりはシーラはその言葉に微笑みを返した。
「そうかもしれないわね。でも、相変わらずデリカシーのない発言だわ」
「そいつはすまなかった。口説いたつもりが気分を損ねてしまうとは、俺としたことがとんだ失態だな」
「冗談でしょ。私のような女には一切興味ないくせに」
逆に見透かしたようなシーラの言葉に、レイは軽く肩をすくめてみせる。
「苦手なのは確かだがね。ただ、今のあんたなら俺にとっても充分に魅力的さ」
「そ。素直に喜んでおくわ」
そう笑って、シーラは踵を返しながら軽く流し目を作る。
「でも残念。あなたは私の好みとはまったくの正反対よ」
「……だろうな」
苦笑して顔を横に向けるレイ。その視線の先で玄関の扉が開く。
姿を現したのは長身の男女。ティースとリィナだった。
それに気付いたシーラがテーブルを離れ、すぐに二人に駆け寄っていく。
目を閉じて麦酒を飲み干すレイ。
テーブルに肘をついてシーラを見送ったリディアがポツリと呟いた。
「つまり……原因はわからないけど、シーラさんが素直になってゴールが急接近したってことでいいのかな?」
「逆走に気付いてようやくスタートラインに立ったってとこじゃないか?」
と、レイが皮肉っぽく笑う。
「ゴールがどのぐらい先にあるのかはわからないがね。ない可能性だってある」
リディアは怪訝そうな顔をして、
「そうかなあ。もしシーラさんが本気なら一晩でケリがつくと思うけど。最近はだいぶ刺々しさもなくなった気がするし、あれを拒否できる男の人なんているのかな」
「そんな展開にはならないさ。なんせ二人ともあの悪名高いジェニス領の出身らしいからな」
「へ? そんなの初耳。ってか、それとなんの関係が――って、あ」
何事か思いついた顔をしてリディアは天井を見上げた。
「……ジェニス・レディか」
「正解」
リディアが腕組みをしてうなる。
「確かにシーラさんっていいとこのお嬢さんっぽいもんねぇ。……なんだっけ? だいぶ前にエルさんに聞かれて調べたことあるけど、女性から愛の告白をしたら死罪だったっけ?」
「大昔の話な。ただ、良家の人間は今でもきちんと躾けられるそうだ。恥であり、侮辱であるってな」
「自分の恥だけならまだいいけど、相手に対する侮辱ってのがイヤらしいね。だからこそ悲恋物の題材として人気なんだろうけど」
「悲劇のヒロインって柄じゃないとは思うが」
「そうなると結局はティースさん次第ってことか。……頼りないなぁ。シーラさんも可哀想に」
リディアのため息混じりの呟きにレイはニヤリと笑う。
「ま、他の人間にもまだまだ希望があるってことでいいじゃないか。結末の見えた物語ほど興味を削がれるものはない」
「他人事だね、兄さん」
「他人事だからな」
レイは楽しそうにそう言って、近くを歩いていたメイドに麦酒の追加を催促したのだった。
「どう、ティース。似合うかしら?」
少し浮かれた声でそう言うと、シーラはその場でくるりと一回転してみせた。スカートとケープがふわりと踊り、ポニーテイルが微かに弾む。まるで新作の洋服をお披露目しているかのような振る舞いだったが、彼女の装いは普段と変わっていない。
ただ、一箇所を除いて。
「なぁ、シーラ。本気なのか?」
ベッドに腰を下ろしてそんなシーラを見つめるティースの顔は、彼女とは正反対に渋かった。
眉間に皺を寄せ、どうにも割り切れない表情。
ネービスに戻ってから三週間、メイナードとの戦いからは一ヶ月余りが経って、ティースの体はようやく完治しつつあった。心配された後遺症もなく、三日後には本格的にディバーナ・ロウの任務に復帰することが決まったという、そんなタイミングで。
ファナとアオイに呼び出されたティースは、そこで驚くべき話を聞かされたのだった。
「確かにネービスに残って欲しいとは言ったけどさ。だからってこれは、いくらなんでも無茶苦茶じゃないか」
「そう? ファナには歓迎されたけど」
ピタリと動きを止め、両手を後ろに組んで軽く首を傾けるシーラ。その表情はティースが渋い顔をするのを予測していた上で、そんな彼の反応を楽しんでもいるように見える。
その襟元には、昨日まではなかった十字の紋章のバッジ――ディバーナ・クロスの隊章が光っていた。
……そう。ティースがファナに聞かされたのは、シーラが彼の部隊であるディバーナ・クロスに医事担当メンバーとして加入することになった、という話だったのである。
「俺が承諾したってファナさんに言ったらしいじゃないか。俺はちっとも聞かされてなかったぞ、そんな話」
「だからこうして話しているじゃない。ま、ファナのことだから気付いてたんじゃないかと思うけど」
「……俺は賛成できない」
あくまでティースは渋い顔を崩さなかった。
確かにディバーナ・ロウの各部隊にはアルファ一人だけのディバーナ・ゼロを除き、それぞれに医事担当のメンバーがいる。ただ、ティースのディバーナ・クロスにはこれまで適した人材が見つかっておらず、屋敷の主治医でディバーナ・ナイトの医事担当メンバーであるマイルズ=カンバースから簡単な応急処置の手法を学んだリィナがとりあえず兼任していたような状態だった。
そこに待望の正式メンバー、しかも名門サンタニア学園の薬草学科を主席で卒業した優秀な人材が入ってくるというのだから、ディバーナ・ロウの責任者であるファナが歓迎するのは当たり前のことだし、ティースだって本来なら喜ぶべき事態なのである。
それが彼女でなければ、だ。
ティースは説得を試みる。
「だいたいお前、薬師になりたくて今まで勉強してきたんじゃなかったのか? せっかくその夢が叶うところまで来たってのに、なんだってそんな危険な――」
「それは勘違いよ、ティース。私の夢は薬師になることじゃないわ」
「え?」
きょとんとしたティースにシーラはゆっくりと歩み寄っていく。そしてティースの首筋――そこに残っていた戦いの傷跡にそっと触れた。
「私の夢は、私を守って怪我ばかりしてた優しい従者さんを癒してあげることよ。それは今も変わってないわ」
「……!」
驚きに一瞬ティースの呼吸が止まる。
そんなティースをやや上目遣いに見てシーラは続けた。
「だから私の夢を気遣ってくれるというのなら、お前はむしろ喜んで私を迎えるべきね」
「そ、そんな……お前、だって、今まで一度もそんなこと――」
「夢なんて無闇に語るものじゃないでしょう? ……なんて、ね。実は私もちょっと見失いそうだったから偉そうなことは言えないけど」
「……」
すぐには言い返せず、黙り込んで言葉を探そうとするティース。そしてふと、至近距離にある彼女の頬の傷跡に気付いて、
「そ、そうだ。その頬の傷だって……そんなものじゃ済まなくなるかもしれないんだぞ。せっかくそんな、その……き、綺麗な顔なのに……」
「え?」
シーラは少し驚いたような顔をして、やがて吹き出すように笑い出す。
「慣れないこと言うから。顔、真っ赤じゃない」
その言葉にティースの顔はますます赤くなった。
「い、いや、俺じゃなくて屋敷のみんなが言ってるんだって! せっかく綺麗なのにもったいないって!」
必死の言い訳にシーラはさらに可笑しそうに笑った。
「あ、あのなあ」
さすがのティースもふてくされたようにそっぽを向く。
シーラは笑いをこらえるようにしながら、それでもこらえきれずにクスクスと笑いを漏らしながら、
「ごめんなさい。でも」
そう言って左頬の傷跡に軽く触れる。
「お前も同じ? この傷跡は醜いと思う?」
ティースはそっぽを向いたままで答えた。
「……別に。そんなのあってもなくてもお前はお前だし。みんなが言ってなかったら気付かなかったかもしれないぐらいで――?」
ティースの口が止まる。
シーラは傷跡を撫でていた人差し指を彼の口に向け、その言葉を途中で遮っていた。
「だったらいいの。お前が気にしないなら私にとってもないのと一緒よ」
「……!」
体温が一気に上がる。ほんの一瞬だけ胸を過ぎった劣情を必死に押し込め、やがてティースは深い自己嫌悪に陥った。
そんな彼の密かな葛藤には気づいた様子もなく。シーラはいったん離れて背中を向けると、窓際まで行って窓を小さく開いた。
流れ込んでくる涼やかな初夏の風。窓の下からは甘えたような犬の鳴き声と、彼らと戯れる少女の笑い声が聞こえてきた。
少し遅れて、固まっていたティースの視線がシーラの動きを追う。
シーラは窓の下にいる少女――おそらくはセシル――に軽く手を振りながら少し強い口調で言った。
「いずれにしても私の気持ちは変わらない。私は私の夢を叶えたい。お前がデビルバスターを目指したときと同じことだわ」
「……そんなこと言われたら反対できないじゃないか」
「もちろんわかってて言ったのよ、ティース」
肩越しに視線だけ振り返って、シーラは悪戯な笑みを浮かべる。
「前も言ったとおり。私を大事にしてくれるお前の気持ちは嬉しいし感謝もしてる。でも私はそれだけじゃ満足できないの。お前の役に立って、お前に必要とされることが私の望み。だから」
「……わかった。わかったよ」
そこまで言われて彼女の決意を拒否できるはずもなく、ティースはついに白旗を揚げた。……いや、勝敗は最初から決まっていたのだろう。二人の関係が変わったかどうかにかかわらず、口で勝てないことは今も昔も変わりないのだから。
「でも、任務中は俺の言うことを絶対に聞いてくれよ。無茶はさせないからな」
「善処するわ」
「お前なぁ……」
再び渋い顔になったティースに、シーラは澄まして答えた。
「無理はしないし、自分の立場はちゃんとわきまえる。でも、お前の言うことが間違ってると思ったら遠慮なく言わせてもらうわ。そういう意味よ」
「……」
ティースはため息を吐きながら視線を床に落とした。
彼女は聡明だ。実際に意味もなく無茶をするようなことはないだろう。ティースにとっての問題は、意味があるとき――先日の戦いのときのような場面で彼女が無茶することを是とするかどうかなのだ。
ただ、それについてはこの場で議論しても平行線になるだろう、と、結局それ以上は言わなかった。
そうしてしばしの沈黙。
「ねえ、ティース」
「ん?」
ティースが顔を上げると、シーラは窓の縁に軽く腰を乗せるような格好でティースを見つめていた。金色の髪がそよ風に微かに踊り、太陽の光を浴びてまるで自ら光り輝いているかのようだ。
ティースは思わず目を細める。
眩しいと感じたのは強さを増した陽射しのせいだろうか。
「お前、シルメリアのことは覚えてないのよね?」
「シルメリア?」
その単語にティースの脳裏の奥が一瞬刺激される。が、その刺激が形を結ぶことはなく、
「前にルナ姉さんが呟いてた名前だよな? お前、知ってるのか?」
「ええ、よく知ってるわ。だってそれは私のことだもの」
「……どういう意味だ?」
当然のように怪訝な顔をするティース。
シーラは斜めに視線を落とし、窓の縁を軽く指先でなぞりながら言った。
「どういうことかはまだ秘密。でもいつか……あの本が戻ってきたら今度こそ明かすわ。だからもう少し時間が欲しいの」
「あの本、か」
持ち去られた黒い魔導書。その素性についてはディバーナ・ロウでもまだ確認中とのことで詳細を知らされてはいなかったが、報告したときのファナやアオイ、リディアの反応から、どうやらとんでもない代物だった可能性が高いことはティースたちも感じていた。
それについての深い議論はひとまず保留となっていたが、シーラがクリーヴランド領に行って作ろうとしていた薬にその本が欠かせない存在であったことはすでに聞いている。だから彼女が秘密にしている何かは、きっとその薬とも関係があるのだろう、と、鈍いティースもそのことには薄っすらと気が付いていた。
ただ、彼女が隠している“何か”についてはまるで心当たりがなく。
「シルメリアって名前のことは確かに気になるけど、言いにくいことなら無理に言わなくてもいいんだぞ?」
ティースが心配そうにそう言うと、シーラは苦笑しながら、
「ホント……嫌いじゃないわ。お前のそういうとこ」
と、言った。
その言葉にティースは、クリーヴランド領での雪の日の夜のことを思い出し、
「嫌いじゃない、か。よく考えたらそれって微妙な言い回しだよなぁ。まあ悪い気はしないけどさ」
軽い気持ちでそう返すと、シーラはやや複雑そうな表情になった。
「……それ以外に言いようがないじゃない」
小声のそんな呟きはティースの耳には届かなかったようだ。
と、そこへ。
「シーラ! あれ……シーラ、いないの!?」
廊下のほうから聞きなれた甘ったるい声が聞こえてきた。どうやらエルレーンが隣にあるシーラの部屋の前でドアをノックしているようだ。
珍しく急かすような声。
少し間があってから今度はティースの部屋がノックされ、すぐにエルレーンとリィナの二人が顔を出した。
「あ、シーラ様!」
「シーラ、聞いたよ! ボクらと一緒に戦うことになったってホントなの!?」
どうやらシーラがディバーナ・クロスに参加するという情報が二人の耳にも届いたらしい。
シーラがチラッとティースの顔を見る。隊長としてきちんと説明しなさい――と、それはそんな意味の視線だったようだ。
やれやれ、と、ティースはベッドから腰を上げると、
「本当だよ。戦うわけじゃないけど、マイルズさんやフローラさんみたいに医事担当として参加することになった。これでリィナの負担も少しは軽くなるだろうし――」
「やったぁ! シーラ!」
ティースが全部言い終える前に、エルレーンがぴょんと飛び上がってそのままシーラの首に抱きついた。
「お、おい、エル……?」
シーラの参加を渋々認めたティースにはそんなエルレーンの反応は少々予想外で、困惑しながらリィナを見る。
するとリィナは微笑みながら言った。
「つまりシーラさんはここに残るということですよね? 私もエルさんも、そればっかり気になっていたんです」
「……ああ、そういうことか」
納得して振り返ると、シーラとエルレーンはまるで仲の良い姉妹のようにじゃれ合っていた。
そしてふと、昔の光景がティースの頭に蘇る。
薄暗い蔵の隠し部屋の中。お互いのことや将来のことを語り合った日々。今の構図はそのときに思い描いた未来図とは大きく異なっていたが、それでも。
ティースの頬は自然と緩んでいた。
偶然なのか、あの頃の四人が同じ目的のために協力し合うことになったのだ。それはひどく奇跡的で貴重なことのように思えて。
逆に、シーラだけがジェニス領に戻ることになっていたらどんな気持ちだっただろうか、と。
それを想像するとエルレーンが文字通り飛び跳ねて歓喜したのもわかる気がして、ティースの心の片隅に残っていた納得できないままの気持ちがすっと消えていく。
(……しっかりしなきゃ、な)
と、ティースは密かに気を引き締め直した。
それが彼女、いや彼女たちを危険から遠ざける一番の方法だ。どんな相手だろうと、間違っても先日のようなことがあってはならない、と。
シーラの加入はティースに対する起爆剤としての効果もあったようで――
こうしてティースを隊長とするデビルバスター部隊ディバーナ・クロスは、本来の姿を得ることとなった。
彼がデビルバスターの称号を得てからちょうど一年後のことである。
-了-