絢香、暴走しないでくれよ
高校の授業は中学と比べて特別変化があったわけでもなく、今までと同じように授業を受けていた。中学と比べて変わったことは授業時間だ。俺の通っていた中学では五十分授業だったが、ここの高校は六十分授業だ。
授業があったのはついさっきまで、今は休み時間となっている。
「絢香、お前部活とかどうする?」
まずは入学したての一年生にとって一番無難な質問を投げかけた。
「私はもう決めてあるよ」
俺が絢香の席まで行ったので、絢香は椅子に座ったまま答える。
もう決めてある、ってことは。
「やっぱり高校でも吹奏楽やるのか」
絢香が笑顔で頷く。中学時代、つい最近まで絢香は吹奏楽をやっていた。高校でも吹奏楽をやるために、どこか吹奏楽が盛んな高校にでも行くと思っていたのだが、俺と同じこの高校に来たので今度はほかの部活でもやるのかと思っていた。
「そういうナオはどこか入る予定があるの? もしかしてまた興味がないからって入らないつもり?」
「いや、まだ決めてない」
俺は中学時代、何処の部にも所属していなかった。皆には運動部に入ったほうがいいと言われたのだが、実は俺、運動は好きじゃないんだ。自己紹介でもあったように俺はのんきに景色を見ていたほうが落ち着く。だからって美術部とかは俺のしょうには会わない。絵を書くのは苦手だし、作品を作るのも嫌いだ。それだったら運動をしていたほうがいい。
そういう性格なので、結局部活に入ることはしないで中学を卒業した。
なので中学での部活に関する思いではまったくない。
とそこで絢香が「でも」と切り出した。
「高校の部活は中学よりも多いから、ナオに合ったのがあると思うよ。もしどこにも入る気がないんだったら吹奏楽部にでも来なよ」
入る気がないのに吹奏楽部行ってどうするんだよ。
そういえば、このクラスにいるんだよな、さっきの柴原優人ってやつが。
あいつ、俺と同じ場所が気に入ってたみたいだし、俺と同じような考えをもってるんじゃないか。
あいつはどこの部活に入るんだろう。
そのどこか引っかかる柴原優人と言う名前。自己紹介は聞いていなかったはずなのになぜあの時間から知っているような気がする。薄っすら聞こえていたのだろうか。
……何で俺はあいつのことを気にしているんだ?
俺は雑念を払おうと思いっきり目を瞑った。
「ねぇ、ナオ。部活とかもいいけど、ナオはもっと気にしなきゃいけないものがあるんじゃない?」
突然の言葉に、俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべることしか出来なかった。
「ナオはさ、もうちょっと恋とかを考えたほうがいいと思うんだよ」
「恋、ねー。でも俺はそういうのまったくわかんないし、てゆーか、俺のことをそういう風に見る男子はいないだろ」
俺がそう言うと絢香はにやりと笑い恐ろしいことを言った。
「女の子に好かれるっていうのもあるよ」
現実でそんなのがいたら直ちに視界から外し、背を向けて走り出す気がする。
「とりあえず、私が言いたいことは。もうちょっと女の子らしくしたほうが良いよってこと。ナオは髪の毛伸ばせばけっこう可愛いんだからさ」
「俺はそう言うめんどくさい髪は嫌なんだよ。それに女の子らしくなくても高校生活はエンジョイできると思うし」
俺がそう言うと絢香がピクッ、と反応した。
俺はそれを見た瞬間地雷を踏んだことに気がついた。
「ナオは高校生活を何も分かってないね! 高校と言えばちゃんとした学生生活を送る最後のチャンス! 恋をする最後のチャンスなんだよ!」
高校生活を何もわかってないのは絢香のような気がする。高校を卒業しても大学があるし、恋をする最後のチャンスって、まるで恋は学生しかしないものみたいなことを言ってるみたいだ。
俺のそんな気持ちはほっといて絢香はまだ語る。……いや、叫ぶ?
「特に高校一年生は一番恋が盛り上がるんだよ! 十五の夏、彼氏と海に行ったり、夏祭りに行ったり、花火を見たり、そういうのは今しかできないかもしれないんだよ! 十五の夏は一度しか来ないんだよ!!」
なんかどこかで百回は聞いたことのある台詞を今聞いた気がする。
十五の夏って、それ十五じゃなくてもいい気がするし、高校生の間は結構気楽にすごせる気がするんだ。恋だっていつでも出来るし。
すると俺の思ったことが伝わったのか、絢香が叫ぶ。
「ナオ今、恋はいつだってできるって思ったでしょ! 恋は学生生活を楽しむためには絶対に必要な物なんだよ! 大人になったら純粋な恋する気持ちなんてなくなっちゃうんだよ! 小説でも高校生が一番多いでしょ! あれは高校生の純粋な恋の気持ちを生かしてるからなんだよ!」
絢香が大声で叫んでいるので俺までクラスの視線の的になり始めている。そろそろ冷静になって欲しいが、こうなると絢香は止まらない。
「プロポーズと告白は違うんだよ! どっちも気持ちを伝えるものだけど告白は勇気がいるんだよ!」
いやいや、プロポーズのほうが勇気がいると思う。クラスの皆もそれは違うだろみたいな目線を向けている。
いいかげんこれ以上はまずいと思ったので止めようとする。
「絢香、分かった。俺も真剣に恋してみるから一回落ち着け。な?」
こう言うしか止める方法はない。昔一度こういうことがあったので学習した。
ああは言ったが真剣に恋するつもりはない。まず誰かを好きになると言う感情が分からないからするに出来ない。
だが、この後俺は激しく後悔した。
公衆の面前で真剣に恋すると断言してしまったのだから。
高校に入って二日目、いきなり高校生活がどうなるのか不安にさせる日だ。
あんまり進んでいませんがなるべく早く次の段階まで行こうと思います。内容はしっかり書くつもりなので読んでください。