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そんな告白最低だ!  作者: 3206
第三章 イベントは行事じゃない
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初めての告白

中庭には、あたしたち以外には誰もいない。誰も来てないし、誰も出て行ってない。……いや、あたしが来たから違うか。

「……優人」

あたしは目の前の木に向かって呼びかける。

それにこたえるように木は自らの木の葉を揺らす。そして木から一人の男子が降りてくる。

「……久しぶり」

「ああ、久しぶり」

優人と、一言だけ挨拶をする。

「…………俺に、用があるんだよな」

「……ああ。でも、あたしだけじゃない」

そう言った。あたしだけじゃなく、優人も何か用があるはずだ。前は木に登ったまま話してたのに、今は降りてきた。ただあたしの話を聞くだけなら、木の上にいたままのはずだ。

「……確かに、用はある。けど、ナオの方が先に言った方がいいと思う」

「……いや、あとででいい。先に優人が言っていい」

ここで優人に先に言わせてしまっていいのだろうか? と思ったが、構わない。あたしは優人に一言伝えるだけだ、すぐに終わる。

「……後悔、しないよな?」

優人があたしに向かって聞いてくる。後悔、という言葉が、あたしをさらに臆病にさせる。

このまま、何が起きるかわからないのに、あたしが後悔するようなことが起きるかもしれないのに、言わせていいのか?

「……先に言って。それで、いい」

けどあたしは、先手を譲った。

「……わかった。そうさせてもらう」

優人は、一度うつむき、顔を上げた。

ここであたしは気づかなかった。優人が、一瞬だけ悲しそうな表情をしたことに。

「……今から、俺はある言葉を言う。だから、それを切り捨ててほしい」

訳が分からない。遠まわしに言いすぎだ。

でも、優人はそれ以上言わずに、始めてしまった。いや……

終わらせてしまおうとした。


「俺は……お前のことが好きだ。嘘じゃない。返事が、ほしい。お願いします」


……………………………………………これを、切り捨ててほしいと言ったんだ。優人は。

この言葉を切り捨てる? それがどういう意味になるのかなんて簡単にわかる。考えるまでもない。これはつまり……。

断ってほしいってことだ。

「…………」

優人は黙る。説明はさっきの一回だけ、それ以上はしない。今のが『ある言葉』なのだろう。それを証明するために、しゃべらないのだ。

なら、あたしはどう答えればいい? 優人に頼まれた通り、切り捨てるのか? でも、それをやったら……あたしは、伝えられなくなる。

答えが決められた告白なんて、答えられない……! 自分の気持ちも、言葉も、全部押し殺して、優人が用意しただけの台詞を言うなんて……ッ! こんなの……告白じゃない!! 冗談だなんて言われるよりも、何倍も、ひどい! 

「……………………………………………………………最低……!」

自分の気持ちを優先すると、好きだと伝えるのもほったらかしで、出た言葉がそれだった。

「そんなの……最低ッ! あんたなんか……ッ!」

大っ嫌い、と言いそうになる。自分の言葉なのに、妙に女の子っぽいと思う。いつもなら言ったとしても「最悪!」だろう。でもあたしが口にした言葉は、

「ホント最低っ!」

涙が、自分の瞳にたまっていくのが分かる。もう泣き出してしまいそうで、すごく、弱い。

すこしでも涙がこぼれたら、止まらなくなる。でも涙を止めるのがつらい。

胸の前で両手を組んで思いっきり握りしめる。

いたい。手が痛いんじゃない。胸が痛い。こんなの、小説なんかだとよく使われる言葉だけど……本当だ。痛くて、耐えられない。

「……わかった……………………ありがとう……」

と、一言告げて優人はあたしの横を通り過ぎる。

違う!! こんなの違う! あたしが伝えたかったことは何にも伝わってない!! お礼も意味ない! 何にもお礼を言われるようなことなんてしてない!!

「優人!!」

振り返って名前を呼ぶ。同時に手を出して優人の手をつかもうとするが、とどかない。

あたしは優人に数歩近づいて、優人の右手を自分の右手でつかむ。

「優人! あたしは……好きだ! 優人のことが……ッ! 優人の答えは何なんだよ! あたしに、間違ったこと……言わせないでッ!」

もう、涙は流れてしまっている。止めることなんてできない。

涙と一緒に、ほかのものも流れていく。

化粧。

あたしを飾り付けていた。偽っていたものが、流れていく。消えていく。もとの、昔の、臆病で弱い自分に。幼くて泣き虫な自分に。

「お願い……だからぁ……。っ……こたえてぇ……」

弱くて、声が小さくなる。空いている左手で涙を必死に拭う。けど、決壊したダムにはそんなんじゃ対応しきれない。

弱い人間の中でも、とても弱いあたしが言う言葉なんて、幼い子供の意見ほどに無意味かもしれない。もう既に終わった答えをもう一回出そうとしてる。

優人はあたしの方を向く。首だけあたしの方に。

優人の顔が、よく見えない。視界がぼやける。

「俺は……言ったぞ……」

「違う……! 答えて……どうなのか……」

あたしは、自分で何を言ってるのかわからない。自分でも言葉の意味が分からない。

優人が、再び前を向く。

そして紡ぎ出された、絶望の言葉。


「……俺は、お前とは付き合えない」


涙が、一瞬だけ驚きで止まる。驚くほどのことじゃないと思う。けど驚いた。

あたしはどこかで、優人が受け入れてくれると思っていた、信じていたんだろう。

涙があふれ出す。優人の手をつかんだ力が弱くなる。

優人は、すべてのことを終えて歩いていく。あたしから離れていく。

「……優人…………」

小さく名前を呼んでもとどかない。でも、大声で優人の名前を呼べるような状態じゃなかった。

「ゆ……うとぉ…………。……うっ……ぁ…………」

せめて、泣き叫ぶのだけはこらえようと思ったけど、無理かもしれない。

声を出さないように両手で口をふさぐ。

足に力を入れる。走り出すためじゃない。立っているために。力を入れないと、立っていられない。倒れてしまいそうだから。

夕日によって、優人の姿が黒く影のように見える。

優人のシルエットが小さくなっていく。ここから校門は見えない。だから、校庭の方に出るために曲がる必要がある。そこを優人が曲がれば、見えなくなる。

あと、三秒もない。

優人、と呼ぼうとしても無理だった。声が出なかった。

怖がってたことが本当に起こった。あたしは、

「…………ぅ……とぉ…………」

人生初めての告白で、失恋を経験したんだ。


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