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そんな告白最低だ!  作者: 3206
第三章 イベントは行事じゃない
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行事の後にやることは……

放課後、教室の自席でまだ沈みかけの太陽を見ていた。

体育祭が終わって、優勝した組は打ち上げでもするのだろうか? と言っても、一年生では打ち上げをやるところは少ないだろう。部活がある人は部活に向かい。めんどくさい行事が終わったと言って遊びに行く人もいる。いつまでも教室に残っているのはあたしくらいのものだ。

別に何か意味があってここにいるわけじゃない。もちろん誰かを待っているわけでもない。

――体育祭は見事にぼろ負けだった。それもそうだ。ほとんど練習なんかしてないんだから。クラスで力を合わせるとか言っても、まだクラスメイトと過ごしたのは二か月程度のことなんだし。……まぁ、最初からやる気がなかったあたしには関係ないけど。

あたしはさっき、汗をかいた体操服を脱いで制服に着替えた。体育祭にもかかわらず登下校は必ず制服でしろなんて言うのは本当にめんどくさい。体操服でも構わないだろうに。普段は私服でもいいというのに、めんどくさい。

だが、あたしは女子指定のベストは着ていない。スカートに白いYシャツという組み合わせだ。透けてブラが見えるとかいうけど、別にあたしはそんなの気にしないし、今は一人だからほとんどの女子が今の状況でならあたしと同じことをしてると思う。

梅雨真っ盛りのこの時期に雲もない快晴という天気、非常に暑い。あたしはYシャツの胸元をつかんでパタパタ仰いだ。

することは何もなく、ただ外――沈んでいく夕日を眺めているだけ。

はたから見れば退屈そうに見えるかもしれないが、あたしはこういう景色を見るのは好きだ。普段はあまり見えない、真っ青な空が朱色に染まっていく景色が。

……夕日が沈み始めて、太陽の端が見えなくなり始めるとそれが合図のようにあたしは鞄をもって席を立った。

廊下に出て…………中庭の方を見る。廊下にも窓があるので中庭を見ることができる。

歩いている人なんて全くいない。教師も歩いていないところを見ると会議でもしているのだろうか? まぁ、そうじゃなくてもここによく来る人はそうそういないだろうが。

ただ一人、木に登っている男子を除けば。

あたしは前みたいに木の枝に座っている人影を発見したが、べつにそれだけ。あたしは階段の方に歩いていく。

――いい加減逃げるなよ……!

蘭の言葉が頭の中で響く。逃げてなんかない、いったい何から逃げてるっていうんだ。

ここで立ち止まってその言葉について悩む、なんて言うのはお決まりだけどそれもフィクションの中での話だ。実際はそんなことはしない。

あたしは階段を下り始める。

一年生の教室は四階にあるので結構降りなくてはならない。時間がかかるし、朝は上るからめんどくさい。朝体がしっかり働いてないからな。

――お姉ちゃん? どうしたの大きな声出して。

あの時璃菜は――妹は心配されるような声を出してたんだ。情けないな。

あの時に言った、叫んだ言葉。なんであんな言葉が出たのか十分わかってる。

階段を下りて一個下の三階に着く。

――嫌いだって、優人に言ったの?

その言葉が頭で響くが、あたしは変わらずゆっくりと階段を下りる。

なんであたしが優人のことを好きだって決めつけてるんだよ。蘭は自分の妄想を現実にしようとしてる、人に押し付けようとしてる……。でも……。

蘭の言葉は、間違ってるわけじゃない。

……言えると思うのかよ。優人に向かって「お前なんか嫌い」だって、そう簡単に言えると思うのかよ、蘭。言えないに決まってる。だって……。

優人のこと嫌いだなんて、思ってもいないことなんて言えない!

二階に降りた瞬間、あたしの足に力が入る。そして一気に、駆け出す。

もう一度、さっきの言葉が響く。

――いい加減逃げるなよ……!

逃げるわけない! 逃げたくないから今走ってるんだよ!

――ナオは自分の言葉に嘘ついてる。

分かってたよそんなこと! 今までさんざん、自分がどんなこと思ってるかなんてわかってた! わかってて嘘ついてた!

――ほんとはわかってる、ナオはただ――

そう、わかってる! 告白して、何が変わるのかわからない。だから告白しないなんて言うのとは全然違う! 優人に告白するのを想像しただけで恥ずかしくてそんなことできない。それも違う! 

ナオはただ――

あたしはただ――

優人に告白して、断られるのが怖かっただけなんだ!

小学生の時だって、いきなり一人称を変えたのは、『俺』なんて言い出したのは、強く見せようとしてただけ、簡単に泣いちゃうあたしを強くしたかっただけ! 怖くなんかないって、証明したかった! 小学生の浅はかな考えだったけど、それにずっとすがり付いてたかった! 告白してるとこを想像して恥ずかしいなんて一度も思わなかった! 小学生の時からずっと!

恥ずかしいから言えないんじゃない、怖いから言えないんだ。

あたしは靴を履いて中庭の方に向かう。もちろん走って。

優人がもういなかったらどうしよう。そう思うと走らないわけにはいかない!

ただ、今は伝えたい! 怖くても、優人に好きだって!


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