事実は小説よりも……
怖い。蘭がこんな声を出したところ初めて見た、初めて聞いた。
「なんでそんなに逃げるの? 六年前もそうでしょ。逃げたのは優人だけじゃない、ナオも逃げた」
「何言ってるんだ……?」
「小三のとき、優人はナオに告白して、逃げた。でも、ナオだって逃げた。返事をする前に誑かされて、本当の返事ができなかった。優人に――」
「何言ってんだよ!! あたしはあの時断ろうとしてた! それを寸前で言わなくてもよくなった! ただそれだかだろ!」
「じゃあなんで次の日から『俺』なんて言い出したの?」
「そんなのあたしの勝手だろ!」
「うんそうだよ。だから理由を聞いてるの」
「それに蘭は知らない! あの日もあたしが一人称に『俺』を使ってたのを!」
「嘘だよ。あの日ナオは『あたし』って言ってた」
「なんでわかるんだよ!!」
「だって…………」
――あたしはナオと小学校も一緒だから。
「…………え?」
何言ってるんだ? あたしが蘭とあったのは中学の時のはず……。小学校の名簿にも『松川蘭』なんていう生徒はいなかった。
「でも、あたしは小学三年生の十月。運動会の翌日に転校したんだよ」
確かにそれなら卒業アルバムには名前が載ってないかもしれない。けど、中学で再開すればわかるはずだ。
「その時、両親が離婚したから、苗字が変わったの。それでお母さんが再婚して『松川』になった。お金持ちなのは二人目のお父さんなんだよ」
え? でも、だとしても蘭なんて言う名前の友達は知らない。
「ちなみにあたしとナオは小学校の時にしゃべったこともないよ」
「だったらなんであたしのこと――」
「聞いたから」
聞いた? 誰に? と質問する前に蘭がしゃべり始めてしまう。
「弟から聞いたんだよ。それであたしもナオに憧れた。すごく明るくて、あたしとは大違いだなって」
「蘭の方が――」
「小学校のころのあたしは読書ばっかりして、人と話さない子だったの。弟と似て」
わかんない、どういうことだ? 頭がこんがらがる。弟がどうしたんだ? 弟がいたからって、年下なんて付き合いがなかったはずだ。
「簡単に言ってあげる。それでわかるはずだよ。あたしのもともとの名字は……」
――柴原。柴原蘭。