最近電話の回数が多い気がする、主にこいつとの
お風呂から出て髪の毛を拭きながら部屋に戻る。そろそろ時間になっちゃうから髪乾かしてる暇がなかったんだ。蘭はこういうの守らないと夜中ずっと電話かけてくるからな。嫌がらせ? その通りだよ!
今は七時五十八分。後二分だな。きっちり八時にかけてくるだろうからな。
ケータイを見つめたまま髪の毛をタオルで拭く。
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ケータイが光ったのが見えたので手に取る。
着信音が鳴らないのはマナーモードでサイレントにしてあるからだ。
「……はい、もしもし」
「は~い。予告通り八時ジャストに電話しましたぁ!」
テンション高いな。夜になるといつもこうだ。いったい夜にはどんな効果があるんだ?
それに予告通りってあたしが八時に全部終わらせておくって言っただけじゃん。
「で、用は何なんだ?」
「うん、じゃあまずは『眠れないのですかご主人様? わたくしでよければ添い寝をいたしましょうか』って言ってくれる?」
「あ、間違い電話だったみたいだ」
電話をすぐに切ろうとする。あたしの知り合いにあんなのはいないからな。
「ちょっとまって! ゴメン! 違うから!」
という声が聞こえたのでしぶしぶ切るのを止める。
「えーと、ナオのとこの学校ってそろそろ体育祭でしょ?」
「ああ、それがどうかした?」
「いつやるの?」
「三日後の金曜日。もしかしたら五日後になるかも」
と、簡潔に答えて終わりにする。
「……それだけか?」
「んーん、今のは雑談」
電話なんて全部雑談じゃないか。
「……ここから本題に入る? それとも雑談を続ける?」
「いいから、本題に入れ。寝る時間がなくなる」
「はいは~い♪」
と蘭の陽気な声が電話口から聞こえる。なんだその軽い調子は。時間がかかるっていうからもっと人生相談とかかと思ってたんだが。
「……じゃあ、よく聞いててね。絶対に」
――瞬間、蘭の陽気な声が掻き消える。代わりに聞こえるのは声のトーンがいつもより低い、深刻な話をしそうなあたしの友だちの声。
「なーんていうシリアスなのは無し! アンケートを取りたいんだよ、今度遊ぶ時とかの。だから感想を聞きたいんだ」
蘭はいきなりいつもと同じ陽気な声に戻る。どっちなんだよ。
「まっ、素直に答えてくれればいいよ」
「……分かった」
「んじゃ、一個目~。王様ゲームは楽しかったですか~?」
「……それなりには」
「二つ目、カラオケは楽しかったですか~?」
「もちろん」
「三つ目、ゲーセンは楽しかったですか~?」
「……微妙」
と、三つたて続けに楽しかったかという質問が来て、いったん止まる。
「ふむふむ。じゃあ、次~。なんでゲーセンは微妙なんですか?」
「プリクラの一件があるだろ」
「そっか。カラオケは……聞くまでもないかな?」
「ああ、好きだからな」
「じゃあ、王様ゲームはそれなりにはって事は楽しかったの?」
「……どっちかっていうとそういうこと」
「ふーん。そうなんだ~。じゃあさ、理由は? 楽しかった理由」
「えーと、楽しかった理由……」
………………………………あれ? なんだろう。楽しかった理由なんて改めて聞かれても、なかなか思いつかないかな。
「答えられない? なら一回飛ばして次の質問~♪」
……あれ? 本当になんだ? 楽しかった理由。
「次の質問は、王様ゲームに参加した理由は?」
「えーと…………」
これ言っていいのか? 蘭に仕返しするためだなんて。
「これも答えられない?」
「……いや、言う。参加した理由は、蘭に仕返しができると思ったから」
「あれ? 優人君が参加するからじゃないの?」
なんでそうなる。お前はそう言うことしか頭にないのか?
「あたしは優人が行くなんて知らなかった。だから家の前で優人を見て抵抗したんだ」
「なるほどね~。じゃあ、優人君が行くって言ったら行かなかった?」
「………………たぶんね」
……でも、どっちを優先したんだろう。蘭への仕返しか、優人から離れることか。
「じゃあ、さっきの質問の答えは? 王様ゲームが楽しかった理由」
「…………」
なんだ? 本当に思いつかない。なんだろう。
「……答えられないなら選択肢を出すよ~。一、あたしに仕返しできたから~。二、ただゲーム自体が楽しかったから~。三、」
――優人君が参加してたから。
「さて、どれでしょう?」
絶対に最後のは蘭がそうあってほしいって願った結果だろうな。
なんだかわかってきた、この電話の意味が。なんであたしの周りにはそういう話が好きな人が大勢いるんだろう。