この時のあたしはおかしかったんだよ……
で、あたしと一緒に撮ることになったのはもちろん、
「本当によかったの? 俺で」
「ああ、もちろん」
萱沼だ。
…………え? そこは優人と撮るべきなんじゃないかって? 蘭みたいなこと言わないでくれよ。そんな蘭にとって都合のいいことが起きるはずないだろ。
「それに、あたしが萱沼に頼んだんだから、なにもなやむことはないじゃん」
そう、これはあたしが頼んだんだ。萱沼に一緒になってくれって。
……なぜかなんて聞かれても、答えることは一つだけだ。
優人と一緒になるのが嫌だったから。
蘭の奴がこんな提案をしてくるんだ、絶対目的は優人とあたしを二人にすることだ。それくらいあたしみたいにしばらく蘭の行動に付き合わされていればわかる。わからないのは鈍感な主人公くらいだ。
「まぁ、そうなんだけどさ。蘭は優人とナオちゃんをくっつけようとしてたんじゃないの?」
「そうだろうな。けど、あたしが嫌がってこうしてるんだ。第一じゃんけんなんだからこれで蘭は文句なんて言えないだろ?」
あたしはそう言いながら設定とかは萱沼に任せて、ただ後ろで手を組んで立っているだけだ。あたしはこういうの一度もやったことないからな。萱沼の方が詳しい。
「萱沼は慣れてるけど、やったことあんの?」
「何が?」
「プリクラとか。彼女とかと撮ったことあんのかなーって思ってさ」
「別にないよ。友達とならあるけど」
友達って………………まさか……っ
「お前、そっち系の奴だったのか……っ。まさかそんな奴だとわ思わなかった」
「ナオちゃんが何を想像したのかわからないけど、おそらくそんな反応をされるようなことを俺はしてないからねっ!」
「男同士でプリクラって……明らかにそっち系だろ」
「友達って言っても男だけじゃないからね! そこを勘違いしないで!」
「萱沼、お前! いつまでも宙ぶらりんのままなのか!? そういうのが一番相手を苦しませるんだぞ!」
「ナオちゃんは一言に過剰に反応しすぎだと思うよ! あくまでただの友達! 特別なことは何もない!」
「そんなこと言って! 実際は恋愛対象としてみていろいろ妄想したんだろ!」
「ナオちゃんキャラが崩壊してるよ! そんなこと言う娘じゃないでしょ!」
「…………萱沼、悪いけど……その『何々言う娘じゃないでしょ』っていうの止めてくれ。蘭に言われてちょっとトラウマなんだ……」
あいつ、年齢制限のあるゲームやってるからこうなったんだ。しかもそれを現実でやろうとして……一回本気で警察呼ぼうとしたからな。
「で、そろそろ撮られるけど、そのままの体制でいいの? 妙に女の子っぽいような……」
あたしはすぐに後ろで組んだ手をほどく。蘭に何言われるかわかんないからな!
「ピースとかすれば? ほらこうやって……」
――カシャッ
……………………………………………………………………………………ちょっと待て。
今のはやばいんじゃないか? 萱沼よ。
あたしの手を無理やり取ってピースさせるのはいいが、あたしの手をつかんだままっていうのはちょっとやばいんじゃないか? しかも一瞬のことで驚いたからどんな顔してたのかわからないし……。
『え? ナオやばいなにこれ! ちょ、このまま何にもしないでフレームにハート使って終わりでいいじゃん!』
外から何やら嫌な言葉が聞こえてきたが、たぶんあたしは死ぬんだと思う。
「なんか……ごめんね、ナオちゃん」
「…………いや、いいよ。もう蘭に合わせるよ」
あたしが変な反応しなければいいんだ。そうすれば蘭は飽きる。いつものことだ。
「ナオ! これ見てよ!」
蘭に突き付けられたのはあたしたち二人のプリクラ。
「うん、よく取れてるじゃん」
「じゃなくて! ナオこんな表情できるの!? びっくりしたように目を見開いて、頬を薄く赤く染める! ああぁぁぁぁあああ! 耐えらんない! これ一枚頂戴!」
「何に使う気だよ!」
ツッコミを入れたが、ほんとだ。これは本当にあたしか? あたしはこんな表情はできないはずだが……。
「でもナオ! この赤くなってる頬を見なよ! 晴也にときめいちゃったの!?」
ここで違うと否定してもいろいろ聞かれるだけだというのはわかっている。けど、ここで認めてもやばいことが起きるかもしれない。
という思考回路がいつもなら回るはずが、無理だった。だってあのプリクラのあたし、あたしじゃないんだもん! あんな表情あたしじゃないんだもん!!
「そ、そうだよ! なんだよ! わ、悪いのかよっ!」
だめだ、なんかどっかで聞いたことがある台詞が浮かんでくる。しかもヒロインの台詞。
いやぁ! もうやだぁ! あんなのあたしじゃないもんんんんんん!
「やっぱりナオは女の子だよ! かわいい! 抱きしめたくなっちゃうよ!」
「ううぅ! もうやだぁあぁぁぁぁあ!」