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梅雨明けの頃  作者:
5/8

あの頃(3)

 創立当時から我が校の象徴でもあった洋風建築の体育館が、老朽化に伴い建


て替えられることになり、自然とその中に置かれていた食堂も、工事中は校内


の余地でプレハブでの仮設営業を余儀なくされている。


 そのプレハブ食道の横にある小さな空き地の昼休み。


 十数人の生徒達が円形になって一昔前の青春ドラマさながらにバレーボール


に興じている。しかししかし、決定的に青春ドラマと違うのがそのルール。ミ


スをしてボールを地面に落してしまった生徒は、身に着けている物の中から、


何か一つを脱いでいくというのがそれ。


 中には女生徒の姿もあるというのに、いやはやなんとも・・・。


 恐らく最初は、少人数でボールをまわす程度の食後の暇潰しだったのだろう。


しかしそれを見つけて、同じクラスの生徒が徐々にその輪の中に加わるに至り、


どのクラスにでも必ずと言っていいほど存在するいたずら好きな男子生徒がそ


んな提案をしたに違いない。


しかし言い換えると、決して度を過ぎる事のない悪ふざけや、それでも臆する


ことなくボールを追いかける女生徒の快活さが、この高校の一番の特徴であり、


魅力かも知れない。


 見ると上半身は既に下着姿になっている男子生徒もちらほら。この頃になる


と、物珍しさも手伝って、小さな空き地を見下ろすように近接する校舎の窓際


には、多くのギャラリーが集まり、大きな声援を送っている。


 言うまでもない事だが、男子がボールを落とすと大きな非難の声。そして女


子のそれには大喝采が送られる。


 しかし女生徒もなかなかしたたか。既に上着を脱ぎ、シャツとスカートにな


っていた子がミスをして、スカートに手をかけた時は、さすがに今まで囃し立


てていた周囲の連中もぱったりと静まり返ったものの、ちゃーんと中に体育着


のブルマをはいていた事を確認すると、溜息と安堵の声が交錯した。


 校内なんだから至極当たり前の事だが・・・


 更に時間が経過し、バレーボールの輪が益々衆目の的となった頃、またまた


さっきの女生徒がアンダーハンドでボールの処理をミスした。


 しばし考え込む彼女。


 周囲からは「ぬ~げ、ぬ~げ」の大合唱。


 周りの視線を一手に集めて、シャツの袖口のボタンに手をかけた彼女は、す


かさず両袖をめくり上げ、ぺろっと舌をだした。


 周囲からは一斉に大きなブーイング。しかしそれも、屈託のない彼女の仕草


の前では長続きせず、再び始まったバレーボールの喧騒の中に消えてゆく。



 おしげもなく晒された彼女の小麦色の肌


 流れる汗に構う事なくボールを追いかける生徒たち


 その一挙手一投足に声援やヤジを飛ばす観衆


 初夏の日差しを余すことなく受け止めた高校の昼下がり


 思えばまだまだ人生の黎明期とも言えるあの頃に、あまりにも陳腐な表現が


敢えて許されるとするなら、間違いなくそこには「青春の1ページ」が存在し


た。



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