序章:白銀の星が生まれた日
はじめまして、タコタコです。
初投稿になります。
異世界冒険百合の物語を描いていきます。
ヴァルト大陸中央部、ソレイユ家が暮らす集落。
その夜、空は異様なほど澄みわたり、星々が強く瞬いていた。
家の中では、一人の女性が新しい命を迎えようとしている。
ルナ「……っ、はぁ……!」
白銀の髪を汗に濡らしながら、ルナは必死に息を整える。
まだ二十五歳。
その細い身体からは想像できないほどの強さが、その眼差しには残っていた。
ミリヤ「大丈夫です、奥様。もう少しですよ」
落ち着いた声でそう告げたのは、茶髪を後ろで束ねた女性――ルーメ・ミリヤ。
二十四歳のメイドで、ソレイユ家に仕えてから数年になる。
働き者で気配りが行き届き、
家族からの信頼も厚い存在だ。
ミリヤ「ご主人様、奥様の手を」
レルネン「ああ……!」
同じく二十五歳の夫、レルネンは強くルナの手を握る。
その手は、長年剣を握ってきた者のものだった。
レルネン「ルナ……君は一人じゃない。俺が、ここにいる」
ルナ「……ええ……」
かつて一流の冒険者として名を馳せた二人。
今はただ、一人の母と父として、この瞬間に向き合っていた。
ミリヤは冷静に状況を見極め、的確に指示を出し続ける。
その声が、二人を現実につなぎ留めていた。
◇
やがて――
夜の静寂を破る、小さな産声が部屋に響いた。
その瞬間、窓の外で星が強く瞬いた。
まるで、この集落そのものを見守るかのように。
ミリヤ「……生まれました」
腕の中に抱かれた赤子は、驚くほど静かだった。
雪のような白い髪。
ゆっくりと開かれた瞳には、淡く輝く金色が宿っている。
ルナ「……この子……」
ルナは震える手で小さな命を受け取った。
レルネン「白銀の髪に、金の瞳……」
ミリヤ「……とても、落ち着いた子ですね」
その瞬間、部屋の灯りがふっと揺れた。
誰も魔法を使っていない。
それでも、確かに空気が柔らかく震えた。
だが、それ以上の異変は起きなかった。
◇
夜明け。
穏やかな朝日が差し込む中、三人は赤子を囲んでいた。
ミリヤ「本当に……お疲れさまでした、奥様」
ルナ「ありがとう、ミリヤ……あなたがいてくれて、心強かったわ」
レルネン「名前は、もう決めてある」
レルネン「雨のように優しく、
それでいて世界を潤す存在になるように」
ルナ「……レイン」
その名を呼ばれた瞬間、
赤子は小さく指を動かした。
◇
後に、この少女はこう語られることになる。
かつて数々の大陸を巡り、
数々の依頼と戦いを成し遂げた伝説の勇者パーティ――
《オロチ》。
その一員であった、
ルナ・ソレイユと、レルネン・ソレイユ。
二人が剣と魔法を置き、
静かな集落で選んだ未来の中で、
一人の少女は生まれた。
千年に一度、世界を覆う厄災。
それに対抗するために現れるとされる存在――
勇者。
それがどのような運命を背負い、
どのような力を授かるのか。
この時点では、まだ、誰も知らない。
その名は――
レイン・ソレイユ。
これは勇者と呼ばれる以前の少女たちの物語の始まりである。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次章もお付き合いいただけたら嬉しいです。




