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相談者04:後日談と少しの裏話

その日、講師の都合で午後の授業が無くなり、のんびり昼食を食べていたジョナスは「こんにちは」と男に声をかけられた。

「あ、確か…前に食堂で会いましたよね…?」

軽く挨拶を返しつつ、ジョナスはおずおずと尋ねた。相手は「そうそう」と言ってジョナスの向かいに座り、注文した食事を見せてくる。

「今日はパスタがあったみたい」

と言い、彼は自身をドクと名乗った。そういう意味かと思い、聞いてみたが医者とかではないと否定された。

彼はパスタを食べながら話し始める。

「この前はいろいろとお世話になったね。ありがとう」

突然礼を言われ、ジョナスは何のことか理解できず困ったような表情をした。ドクは「ごめんごめん」と軽く謝罪しつつも少し楽しそうに笑みを浮かべ、「大切にしてね」と言いながら名刺を渡す。


そこには所属組織として「異能調査局」と記載されていた。


異能調査局は異能条約機構の中の下部組織で、その名の通り異能者の申告や通報があったりした時に調査に来る組織である。

「こちらの校内にいた危険人物の調査の際には、お手伝いいただきましたからね。」

彼はそう言って食事の手を止めて姿勢を正し、改めて「ありがとう」と礼を述べた。

「いえ、こちらこそ…その…貴重な体験をさせてもらったので…」

ジョナスの方も動揺を隠せないながらも、とりあえずそれだけ話した。ドクは「そうか」と言いながら、若干さみしそうな笑顔になる。

「…まぁ、なかなか接点も無いよね。」

そう話すドクに、ジョナスは調査の件について聞いてもいいのだろうかと逡巡していると、それに気がついたのか彼は続けて話し始めた。

「件の連中に関しては、君達と学校側からの情報で大体の出没範囲と、まぁ…おおよそ異能者だろうって確認も取れたので…。待ち伏せして、追いかけっこして、袋小路に追い込んでって感じだね。」

ドクのざっくりとした説明でも、ジョナスにはなんとなく異能者の世界を垣間見たような気がした。

「なんだか凄そうですね」

そう漏らしたジョナスに、ドクは苦笑いしながら「君が想像する程のことはしてないよ」と答える。その言葉でなんとなく気まずい空気になって、ジョナスは言葉に詰まってしまった。

「…まぁ人が壁走ったり、少し土が浮かんだりくらいはしたけどね。」

ドクはフォローするように一言だけ付け加える。

「あ、みんな…怪我とかは、大丈夫でしたか?」

やはり普通よりも大変かもと思ったジョナスは、ウォンやミオナや、目の前にいるドクの怪我をする姿をふと想像して、会ったこともない異能者達が無事なのか気になってしまった。ドクはそれまでの貼り付けたような笑顔を少しだけ和らげて「大丈夫だよ、ありがとう」と言う。妙な気恥ずかしさで2人は食事を再開して気を紛らわせた。


ドクは食べながら、ポツリと言葉を漏らした。

「異能条約機構に関しては、賛否の意見がいろいろとあるからね…。どうしても今回みたいな、申告しない、能力を悪用する人間が出てきてしまうんだよね」

ジョナスも少し手を止めて、「あぁ」と言ってちょっと考えるような表情をした。

「確か…異能至上主義とか、そういう人達のことですよね…?」

「ん…まぁ今回は違うけどね。そういう組織化した連中はもっと過激…というかタチが悪い、かな。だから良かったよ。違っててね。」

ドクはジョナスの質問に答えてから、少し難しげな表情になる。ふと一瞬、ジョナスの様子を窺うような仕草を見せてから、彼は話を続けた。

「現状では、異能者もそうでない者も守る仕組みがほとんどないから、とりあえず二者を住み分けするという方法になってて…その物理的な隔たりが、こう…心理的な隔たりにも繋がってるよね。そこは皆理解してる…でも気軽にじゃあやめましょうってのも危険だからできない。そんな状況で、嫉妬とか嫌悪とか…制度への憤りとかどんどん増幅されてくんだよね。」

ドクはそこで一旦言葉を切ったが、途中から呟きに近くなっていた。

「だから、異能至上主義とか異能否定主義者とか、共生を主張する団体も、理解し難いところも共感できる意見もある…。」

そう言いながら、彼は手に持った箸を閉じたり開いたりしている。その難しそうな表情にジョナスは何を言ったらいいか分からなかったが、その場を取り繕うように言葉を挟んだ。

「あ…でも、今回はそういう人達では無かったんですよね…?」

ドクはジョナスを見て、ふっと笑みを浮かべた。

「そうだね。今回の連中はただ能力を使って悪戯したかっただけみたいだよ。目覚めた能力が気に入ったものだとそういう事する人は割といるからね。ま、迷惑な考え方だけど。」

そう言いながらドクは少し皮肉を込めたような、意地悪そうで、どことなく悲しげな表情になる。

「あぁ…そうだ。異能者にね、綺麗な羽の生えた子がいたんだよ。でもその子、飛べなかったんだ。羽は本当に綺麗だったんだけどね…最後は崖の上から飛び降りたんだ。もちろん、飛行はできなかった。最後まで…ね。」

最初は話の意図が掴めずにいたが、ジョナスは異能者達について少し無神経な考えを持っていたのかもしれない、と思えた。

「ごめんね、なんだか余計な話までしちゃったな…。」

ジョナスがまた気まずそうな表情に変わったのを見たドクは彼から目を逸らし、まるで独り言のようにそう言葉を漏らしていた。


「さて」

そう言ってドクは食事もそこそこに席から立ち上がる。

「とりあえずちょっと話はできたし、お礼、も言えたからね…。したかった事は達成、かな。

ありがとう、時間取っちゃって悪かったね。」

彼は食器を下げて荷物を背負うと、最初よりも少し柔らかい笑顔を見せる。

「そうだな。もし…また機会があったら話せるかな?」

それが単なる儀礼のような言葉なのかは分からなかったが、ジョナスは「もちろんです」と頷き返した。ドクの話から、異能者達が抱える苦悩を少し知って、異能イコール良いモノばかりでは無いと気付かされもしたが、ジョナス自身からすれば、やはりまた会える方が嬉しい。

ジョナスにとって、それでも異能者を羨ましい思う気持ちを簡単には変えられないのであった。

そんなジョナスの視線を受けながら、ドクは食堂を出る。少し振り返ろうかと逡巡したが、ジョナスの元にはまた相談者がやって来る。そのため、彼はそのままその場を去った。

ジョナスは…この子は異能者と言えるのだろうか…?

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