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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第18章 試練の先に得たものは
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197話 たぬきの嫁入り

 ぽこの手を引いて、祭壇の前へ並んだ。

 いつの間にか、白いたぬきが立っていて、満足気に俺たちを見つめる。


「これより、ぽこ・ドラドと、オズワルド・ベルクマンの挙式を執り行います」


 神が宿ると言われている常緑樹の枝を、俺たちの頭の上で払った。


「赤壁山の主様へ、かしこみかしこみ申し奉る。たぬきの若者が主様へ結婚のご報告と、誓いを立てます。どうかおいで願えませんでしょうか」


 白い幼獣は現れない。しかし、気配は感じる。


 もう一度呼ばれるが、出てこない。今度は笑い声が聞こえた。


「おい、オデ様」


「何ダ? 友達」


 ふよふよと宙へ上がり、やや落ちてくるのはいつも通りだが、嬉しそうに笑っている。


「話を聞いてくれ」


 逃げそうな素振りをする。


「花嫁菓子をやるから」


 その言葉で、ようやく鏡の前で止まった。白いたぬきが咳払いをして話が続けられる。


「ここに永遠の契りを結ぶご神酒を賜ります」


 三段の紅い酒器の一番上に、酒が注がれた。


「一つ目の酒は、我らのご先祖様への契りです。お二人が出会われたのもご先祖様のお導き」


 先に俺が酒を飲み、次にぽこが飲み、最後に俺が飲み干そうとしたら、横から赤壁山の主が飲んでしまった。


「二つ目の酒は、お二人が力を合わせ、互いを思いやる気持ちへの誓いです」


 今度も同じように、俺、ぽこ、赤壁山の主の順で飲んだ。


「三つ目の酒は、お二人の子孫繁栄への祈願です」


 最後に赤壁山の主が酒を飲み干した。


「では、次に――」


 粛々と儀式が続くが、ぽこ以外の何にも目に入らなくなっていた。

 レナの結婚式のときに、この変わった真っ白の服の意味をぽこから聞いている。


「生まれたときに着る産着と、死ぬときに着る死装束、そして花嫁の服は同じです」


 祝いの席に、何ていうものを着るのかと不思議に思った。


「純潔の証、そして、生まれ変わる気持ちで新しい家庭を作る決意の表れなんです」


 ぽこは、押しかけてきたときから、その覚悟があった。

 目の前の美しいぽこが、そんな覚悟を持って俺と一つの家庭を作ってくれるのだ。

 見た目の美しさだけでなく、ぽこ自身に尊敬の念を感じる。


 幸せにする。絶対に悲しませたりはせぬ。


 ぽこの大きな目に、薄っすらと涙が溜まる。頬に伝い落ちるのを、唇で拭うと、周りからどよめきが起こった。

 その音で、儀式の最中だったと気が付いた。



 外に出ると、里のたぬきたちが並び、トンネルを作ってくれている。

 そこへ一歩踏み出すと、鮮やかな紅葉の葉が左右から浴びせられた。


「王都の結婚式で見たでしょう? あれです!」


 ぽこがはしゃいだ。


 そういえば、やけに熱心に貴族の結婚式を見ていた。


「きっとこれからたぬきたちの間で流行るだろうな」


「新しもの好きですからね!」


 花嫁菓子を配りながら、落ち葉の中を歩いていく。


 トンネルの先はどこに続いているのだろう?


 お社の前の広場を通り抜け、インマーグへと流れる川へ続いている。

 木の向こうに湯けむりが見えた。


 河原へ降りて、驚いた。

 川の隣に岩を組んだ露天風呂があった。隣には小さな家が建っているし、他にも幾つもの柱が立っている。

 レナの結婚式のときにも、たぬきときつねの化け合戦のときにも、なかったはずだ。


 新しい木材の匂いに、まさかとぽこを見た。

 ぽこが頷く。


「この温泉は、儂らの里をすくってくれた婿殿へのお礼だ」


 ドン・ドラドが俺の隣で、一緒に露天風呂を眺めた。


「温泉宿をしたかったのだろう? 儂の手伝いじゃなくて」


 ぽこを娶った感動と、目の前の光景に驚いて、声が出ない。


「おっさん、気に入ったか?」


 ジョアンの声に続いて、たぬきたちが上目遣いで、俺を見ていることに気が付いた。


「あぁ! 最高だ!」


 震える俺の声を聞いて、皆嬉しそうに腹を撫でる。


「ありがとう。大変な労力だっただろう?」


「とりあえず住めるようにはなってるが、ここから客室とかを作るのは自分で好きにやるといい。手はいつでも貸そう」


「呼んでくれよ! 血威無恨暗(チームジョアン)が駆けつけるぜ!」


「ところで、お式では誓いの口付けをしたんでしょう?」


 レナの言葉に、お社に入れなかった里のたぬきたちがどよめいた。


「見たいわよねぇ! みんな!」


 握ったままのぽこの手が、指をきゅっと強く握る。


 白い雪帽子のような被り物を左手で取ってしまう。

 ぽこのふわふわした髪が光りに当たって煌めく。

 頭の後ろを手で支え、ぽこを引き寄せる。


 晴れた空から、大粒の雪が降り始めた。


「たぬきの嫁入りだ!」



              Fin.


挿絵(By みてみん)

長い作品でしたが、最後までご愛読いただき、ありがとうございました。


ぽことオズワルドいかがでしたでしょうか。

お気に召しましたら、

いいね・評価☆☆☆☆☆・ブクマで、応援していただけましたら、大変うれしいです。


おまけで、ジョアンが主人公の短編があります。

よかったらお読みください。リンクは下にあります。

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