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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第18章 試練の先に得たものは
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194話 ぽこと酉の丘

ぽことのんびり(とり)の丘にある村にたどり着いたのは日が暮れ始めた頃だった。

 ぽこの里に似た村の一番大きな屋敷で手紙を渡したばかりだ。


「これは遠いところをよくいらっしゃいました。私はドン・ドラドの末の弟のフレーリヒです」


「ぽこと結婚するオズワルドと申します」


「これはご丁寧に。それにしても末のぽこちゃんが結婚するとはねぇ。叔父さんも歳をとるわけだよ」


 フレーリヒ叔父さんは、ドン・ドラドとは違って親しみやすい笑顔が染み付いたたぬきだ。


「叔父さんのところは?」


「うちは上の子がこの間十を迎えてね」


「旦那様、叔父さんのところは子だくさんですよ。聞いてびっくり十四匹もいるんです」


「いやぁ、実は十七匹になったばかりさ」


「えぇぇ⁉」


 フレーリヒ叔父さんが照れたように頭を掻いた。


「いつ生まれたの?」


「ひと月前だよ。可愛い盛りでね」


「大変なときにお邪魔しちゃってすみません」


「いやいや、十四も十七もさほど変わりはないんでね」


 ぽこが恐縮しっぱなしで、却ってフレーリヒ叔父さんが気を使っているようだ。


「この村は何か甘い香りがしますね」


「おや、ご存じありませんか? たぬき酒の匂いですわ。ここは酒造りで有名でして」


 そういえば、ジョアンが酒が有名な村だと言っていた。

 どおりで、普通の家とは違い、多くの人が出入りしているわけだ。

 家の裏手から、何やら力仕事をするたぬきたちの掛け声が聞こえてくる。


「ほぉ。それはそれは」


 それは断然興味が湧いてくる。


「レナの結婚式の食事会に出てきたやつ?」


 ぽこが頷き、フレーリヒ叔父さんが嬉しそうに説明してくれる。


「そうです。米から作る酒で、ここらの生き物に人気なんですよ」


「あの白く濁ったやつか」


 顎鬚を撫でて、味を思い出す。甘くて酒精が高い酒だ。何と言っても魚との相性がよかった。


「今夜が楽しみだ」


「えっ⁉ なっ何がですか?」


 ぽこが顔を真っ赤に熟らした。


「たぬき酒を買って一杯やるのもいいし、酒を出す店があるなら行くのもいい。俺の経験によればこういう村には、酒にぴったりの郷土料理がある」


 小さな杯を飲む動作をすると、ぽこが慌てて額の汗を手で拭った。


「そ! そうですね! 楽しみです」


 挙動不審なぽこに、俺が眉を上げると、フレーリヒ叔父さんが、笑い出した。


「オズワルドさん、ドン・ドラドに謀られましたね」


 やはりと、気を引き締める。とうとう計略が来たようだ。


「と、言うと?」


「酉の丘村は、小さな村ですが、酒の他にもう一つ有名なものがあります」


 そういうと、フレーリヒ叔父さんが声を潜めた。


「酉の丘で過ごせば子宝に恵まれると言われております」


 にやっと笑われると、何とも返事ができない。

 ぽこがもじもじ恥ずかしがるわけがわかって、こっちまで気恥ずかしくなってしまう。


 子宝がドン・ドラドの計略だって? あのたぬき親父がそんなことを?


 初夜を見物させろと言われたのを思い出すと、こっそりついてきているのではないかとさえ疑ってしまう。


「ははは、お若いおわかい」


 フレーリヒ叔父さんは、人を騙せるようには見えない。


「今夜はお祝いをしましょう。楽しみになさっていてください」


 フレーリヒ叔父さんはそれだけ言うと、仕事に行ってしまった。

 見送った後、ぽこと顔が合う。

 照れくさくて、見つめ合うことすらできずに、互いに視線を外した。



 夕食は宣言通り、ご馳走だった。たぬき酒に、うなぎのフライ、亀の血の鍋、卵、それに山芋のサラダ。

 どれも精のつく食べ物として有名なものだが、ここ酉の丘の郷土料理らしい。


「こんなの食ってりゃ、そら、子供が十七匹にもならぁ」


 折角出してもらったご馳走を残すわけにもいかず、それでも、困る。

 食べ終わったくらいから、酒の力もあるのかよからぬことばかり考えてしまう。

 ぽこと不適切に近寄りたい。

 たぬき姿でなら許される気になり、慌てて頬を叩く。


 ここまで我慢してきたものを、ドン・ドラドの意のままにしてたまるものか。

 こうなったら意地でも、自分たちのタイミングを大事にしたい。


 部屋の中で逆立ちし、腕立て伏せをし、それでも持て余す分を発散するために、明日の計画を相談する。


「ここにいるのは危険だ」


「危険――ですか」


 布団の上にいるぽこを見るだけで理性が揺らぐ。


「明日にでもインマーグに出発しよう。街の皆に結婚する報告をするのはどうだい?」


「いいですね。王都には持っていけなかった物も、今度は持ってこれますし」


 たぬきの里は、王都に比べれば断然近い。

 二人で相談していると、廊下から声がかかった。


「ぽこちゃん、里から急な使いが来たよ」


 手紙を届けに来たぽこに、使いが来る違和感が凄まじい。

 入ってきたのは、血威無恨暗(チームジョアン)の一人だった。


「実はレナさんが、嫁ぎ先の家族と大喧嘩をしまして」


「えぇ⁉ 無事なの?」


 どちらの安否を心配しているのか、どちらともかもしれない。


「それが……、実家に戻ってしまって、怪我の有無さえ教えて貰えず……。ぽこさんに説得に帰っていただきたく」


 非常に言い難そうにしているから、婚前旅行を邪魔している自覚はあるらしい。


「どうしましょう。旦那様」


「本当なら心配だ。だが、ドン・ドラドの罠かもしれないと俺は踏んでいる」


「パパの?」


 本来ならぽこに言うべきではないが、離れて行動するのなら、ぽこに自分で警戒してもらうしかない。


「上げといて落とす作戦だ。子作りに励めと応援した上で、ぽこだけ取り戻すとか」


 陳腐な案だが、ありえなくはない。

 ぽこは、情けない俺の提案を真剣に聞いてくれた。


「わかりました。ぽこも気を付けます。大丈夫です」


 こうして、ぽこと俺は個別行動をとることになってしまった。


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